レース終盤、両脚が急に重くなる感覚に襲われた経験を持つランナーは少なくない。日本記録保持者の設楽悠太も、大学入学当初はこの壁と隣り合わせだった。結論から言えば、記録が伸び始めた転機のひとつは「野菜をほとんど食べない生活」を改めたことにある。本人が振り返る食習慣の変化と、その裏付けとなるデータを見ていく。
大学入学まで野菜が「大の苦手」だった設楽悠太
設楽悠太は2018年の東京マラソンで16年ぶりの日本記録(2時間6分11秒)を樹立し、ハーフマラソンでも日本記録を持つ長距離ランナーである。東洋大学卒業後はHondaに所属し、双子の兄・設楽啓太とともに箱根駅伝でも活躍してきた。
そんな設楽だが、大学に入学するまでは野菜のほとんどが苦手だったと本人が明かしている。長距離走という持久系競技において栄養バランスは記録に直結する要素であり、偏った食生活はコンディションの土台を崩しかねない。
東洋大学陸上競技部の酒井俊幸監督は、学生時代の設楽について「マイペースに尽きる」と評している。焦ることがほとんどなく、レースでも私生活でも自分のペースを崩さない性格だったという。この気質は、食習慣を変えるうえでも急激な変化ではなく、時間をかけた段階的な変化として表れた。
Q. 設楽悠太はいつから野菜が苦手ではなくなったのですか?
大学入学後、東洋大学の監督の指導をきっかけに少しずつ食べられるようになったと本人が明かしています。高校時代までは野菜のほとんどが苦手だったといいます。
監督の一言をきっかけに野菜を食べ始めた大学時代
設楽が野菜を食べるようになったきっかけは、東洋大学入学後に監督から繰り返し受けた指導だった。本人は「大学に入るまではほとんどの野菜が大嫌いだった」としたうえで、次のように振り返っている。
「入学後は監督から『しっかりと野菜を食べないと強くなれないぞ』と言われ続けて少しずつ食べるようになると、結果も出てきました。社会人になって以降も野菜を含めてご飯を食べる量も増えましたし、今もそれが結果につながっているのだと実感しています」
ここで重要なのは、一度に大きく食生活を変えたわけではないという点だ。監督の言葉を繰り返し受け止めながら「少しずつ」食べる量を増やし、社会人になってからも継続的に量を増やしてきた。無理のない範囲での積み重ねが、結果として記録向上につながる食習慣を形づくったといえる。
(参考)設楽悠太 成績アップの理由は野菜嫌い克服 – FMVスポーツ
持久力を支える3つの栄養素|鉄分・糖質・ビタミンB1
長距離走のような持久系競技では、単に「たくさん食べる」だけでなく、どの栄養素を意識するかが重要になる。設楽の食習慣の変化とあわせて、持久力を支える代表的な栄養素を整理する。
| 栄養素 | 主な野菜 | 役割 |
|---|---|---|
| 鉄分 | ほうれん草・小松菜・枝豆 | 血液中で酸素を運ぶ。不足すると持久力低下や疲労の原因に |
| 炭水化物(糖質) | さつまいも・かぼちゃ・じゃがいも | 運動時の主要なエネルギー源。不足すると集中力低下やバテの要因に |
| ビタミンB1 | グリンピース・枝豆・にんにく | 糖質をエネルギーに変える代謝を助ける |
※長距離ランナー向けに整理した持久力系栄養素と主な野菜の対応表
鉄分|酸素を運ぶ働きが持久力を左右する
鉄分は血液中で酸素を運ぶ役割を持ち、不足すると体内にうまく酸素が行き渡らず、持久力の低下や疲労感の原因になる。長距離ランナーは着地の衝撃で赤血球が壊れやすいことも知られており、意識的な摂取が欠かせない栄養素のひとつだ。
炭水化物(糖質)|エネルギー切れを防ぐ土台
持久系競技では大量のエネルギーを消費するため、糖質が不足すると集中力の低下やバテにつながりやすい。運動前にエネルギーを補給しておくことが、終盤までペースを維持するための土台になる。
ビタミンB1|糖質を働く力に変える代謝の鍵
糖質は体内で代謝されてはじめてエネルギーになるが、その代謝を助けるのがビタミンB1である。糖質とビタミンB1をセットで摂取することが、持久力を支える食事の基本とされている。
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日本人の野菜摂取量は目標350gに94g届いていない
設楽個人の食習慣の変化は、実は日本人全体が抱える課題とも重なる。厚生労働省は「健康日本21(第三次)」において、1日の野菜摂取目標量を350g以上と定めている。この数値は、カルシウムやカリウム、ビタミンC、食物繊維などを十分に摂取できる量として国民栄養調査のデータをもとに設定されたものだ。
ところが実際の摂取量は目標に届いていない。令和5年国民健康・栄養調査によれば、日本人の野菜摂取量の平均は256gにとどまり、目標の350gに対して94g不足している状態が続いている。設楽が大学入学まで野菜のほとんどを苦手としていたエピソードは、決して特別なケースではなく、多くの人に共通しうる課題の延長線上にあるといえる。

図:厚生労働省の目標350gと日本人の実際の平均摂取量256gを比較した図解
(参考)健康日本21(第三次)について~栄養・食生活関連を中心に~ – 厚生労働省健康局健康課栄養指導室
Q. 野菜摂取量の目標350gという数字はどこから来ているのですか?
厚生労働省が「健康日本21(第三次)」で定めた1日あたりの目標値です。カルシウムやビタミンC、食物繊維などを十分に摂取できる量として、国民栄養調査のデータをもとに設定されています。
野菜嫌いを克服する3段階|設楽悠太の変化に学ぶ食習慣づくり
設楽のエピソードを振り返ると、野菜嫌いの克服は一気に進んだわけではなく、段階を踏んで定着したことが分かる。ここでは、その過程を3つの段階に整理する。

図:指導を受ける段階から習慣化までの3段階
①指導を受け入れる段階|必要性を知らされる
最初の段階は、周囲からの指導を受け入れることだ。設楽の場合、監督から繰り返し「野菜を食べないと強くなれない」と伝えられたことが出発点になった。自分から気づくよりも先に、信頼する指導者の言葉が行動のきっかけになるケースは珍しくない。
②小さく食べ始める段階|量よりも継続を優先する
次の段階は、無理のない範囲で少しずつ食べる量を増やすことだ。設楽も「少しずつ食べるようになる」という表現を使っており、一度に大量の野菜を食べようとしたわけではない。継続できる量から始めることが、習慣として定着させる鍵になる。
③結果が伴い自発的に続く段階|社会人になっても継続する
最後の段階は、結果が出ることで習慣そのものが自発的に続いていく段階だ。設楽は社会人になってからも野菜を含めた食事量を増やしており、それが今の記録につながっていると実感しているという。結果の実感が、指導されなくても続けられる習慣へと変えていく。
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Q. 野菜嫌いを克服するにはどれくらいの期間が必要ですか?
設楽悠太のケースでは大学4年間を通じて少しずつ量を増やし、社会人になってからも継続的に食事量を増やしています。短期間での完全な克服より、段階的に続けることが重要です。
まとめ
- 設楽悠太は大学入学まで野菜のほとんどが苦手だったが、監督の指導をきっかけに少しずつ食べられるようになった
- 持久力を支える代表的な栄養素は鉄分・炭水化物(糖質)・ビタミンB1で、それぞれ野菜から補給できる
- 日本人の野菜摂取量は厚労省の目標350gに対し平均256gと94g不足している
- 野菜嫌いの克服は「指導を受け入れる→小さく始める→結果で自発的に続く」の3段階で進む
- 無理のない量から継続することが、記録につながる食習慣づくりの土台になる
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