ストレスチェックにスポーツ心理学|フォロー面談の4つの視点

ストレスチェックとスポーツ心理学によるフォロー面談の4つの視点を示すアイキャッチ スポーツ心理学

ストレスチェックの高ストレス者面談は「受けて終わり」になりがちです。面談で不調のサインを見つけても、そのあとのセルフケアが続かなければ、翌年また同じ結果が出るだけになります。結論から言うと、面談後のフォローにアスリートのメンタルトレーニング技法(リラクセーション・注意の切り替え・イメージ技法・パフォーマンス分析)を組み込むと、面談だけでは生まれなかった行動の変化を後押しできます。本記事では、人事担当者・産業保健スタッフがそのまま使える4つの視点と実践フローを解説します。

ストレスチェック義務化拡大で「実施後」の設計が急務に

2026年に入り、ストレスチェック制度は新しい局面を迎えています。厚生労働省は令和8年2月に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表し、これまで努力義務だった50人未満の事業場についても、実施体制の整備を後押しする姿勢を明確にしました。

50人以上の事業場ではすでに年1回の実施が義務であり、高ストレスと判定された従業員には医師による面接指導を行う仕組みが整っています。問題は、この面接指導が「その場限りのケア」で終わりやすい点です。面接で不調の背景を聞き取っても、本人が日常業務のなかで実践できるセルフケアの手段を持たなければ、ストレスの高い状態は翌年の調査でも変わりません。

制度の対象が広がるいまだからこそ、面談の「その後」をどう設計するかが、産業保健担当者にとって実務上の焦点になっています。

(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル 令和8年2月 – 厚生労働省

高ストレス者面接だけでは行動が変わらない理由

面接指導の役割は、医師や保健師が高ストレス者の状態を聞き取り、就業上の措置が必要かどうかを判断することにあります。ここで見落とされがちなのが、面接そのものは「診断の場」であって「習慣化の場」ではないという点です。

アスリートの世界では、実力発揮のために心と身体の使い方を日常的に訓練する「メンタルトレーニング」という考え方が定着しています。日本スポーツ振興センターのハイパフォーマンススポーツセンターは、メンタルトレーニングを「自分で自分のこころをコントロールすること」と説明し、リラクセーション、注意の切り替え、イメージ技法、パフォーマンス分析といった具体的な技法を紹介しています。

これらはもともと競技の実力発揮のために体系化されたものですが、「緊張・不安とどう付き合うか」という構造は、職場のストレス対応と同じです。面接指導で終わらせず、この技法を面接後の行動として組み込むことが、ストレスチェックを「毎年の恒例行事」から抜け出させる鍵になります。

(参考)スポーツ心理 – 日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター

Q. メンタルトレーニングとストレスマネジメントはどう違いますか?

ストレスマネジメントが「ストレス要因を減らす・避ける」ことに重点を置くのに対し、メンタルトレーニングは「ストレスがかかった状態でも実力を発揮できる心の使い方を訓練する」ことに重点があります。ストレスチェックのフォローでは、両方を組み合わせることで、負荷を減らす工夫と負荷に強くなる工夫の両輪が揃います。

スポーツ心理学の4技法を面談後フォローに転用する視点

メンタルトレーニングの技法をそのまま持ち込んでも、職場では使いにくいものもあります。ここでは、ストレスチェック後のフォローに転用しやすい4つの技法を、Human Soarが独自に整理した分類軸で紹介します。

技法 アスリートでの用途 職場フォローへの転用 期待できる効果
リラクセーション 試合前の過緊張を鎮める 面談直後のクールダウン 面談で出た不安の持ち越しを減らす
注意の切り替え ミス直後に意識を切り替える 繁忙期前後の意識の区切り ストレスの持ち越しを断ち切る
イメージ技法 本番の動きを事前に描く ストレス場面の予行練習 初めての負荷場面での動揺を抑える
パフォーマンス分析 映像で自分の動きを振り返る 負荷の記録による自己パターン把握 高ストレス化の予兆に自分で気づける

Human Soarが日本スポーツ振興センター公表情報をもとに、職場フォロー向けに独自に整理した分類(2026年9月作成)。

リラクセーション技法|面談直後の「呼吸→筋弛緩」でクールダウンする

面接指導のあとは、本人の緊張や不安がまだ残っている状態です。ここでゆっくりとした呼吸と、肩や手のひらを一度強く握ってから緩める筋弛緩法を1〜2分行うだけで、面談の内容を落ち着いて受け止めやすくなります。産業保健スタッフは、面談の最後に「この場でいっしょに1分だけやってみましょう」と誘導すると、本人が一人でも再現しやすくなります。

注意の切り替え|業務負荷のピーク前後で意識を切り替える練習をする

高ストレス者の多くは、繁忙期の負荷が終わったあとも気持ちが張り詰めたままになりがちです。「区切りの動作」を1つ決めておく(デスクを離れる、飲み物を替える、深呼吸を3回するなど)だけで、負荷モードから抜け出す合図になります。面談では、本人にとって現実的な「区切りの動作」を一緒に1つ決めることが重要です。

イメージ技法|ストレス場面を事前にリハーサルしておく

次に負荷がかかりそうな場面(繁忙期・上司との評価面談・大きな締め切りなど)を面談の中で具体的に言葉にしてもらい、「そのときどう対応するか」を先にイメージしておくと、本番での動揺が小さくなります。予測できるストレスに対しては、備えがあるだけで負荷の感じ方が変わります。

パフォーマンス分析|自分の負荷パターンを記録し可視化する

面談後、簡単な負荷メモ(1日の終わりに疲労感を5段階でつけるだけでも十分)を数週間続けてもらうと、本人が「どんな曜日・業務で負荷が上がるか」に自分で気づけるようになります。これは、アスリートが練習を映像で振り返って自分のクセを把握するのと同じ発想です。

あわせて読みたい五輪メダリストのメンタル術|緊張を「戦闘モード」に変える方法›

Q. スポーツ心理学の知見を導入するのに専門資格は必要ですか?

産業保健スタッフが実施する分には特別な資格は不要です。リラクセーションや注意の切り替えといった技法は、日本スポーツ振興センターなどが一般向けに公開している基礎的な内容から取り入れられます。ただし個別の心理的ケアが必要な社員には、産業医や公認心理師など専門職への接続を並行して用意してください。

事業場規模別に見るストレスチェック義務化のスケジュール

自社の準備の優先度を判断するために、事業場規模ごとの義務の扱いを整理しました。公表資料を突き合わせて作成した一覧です。

事業場規模 これまでの扱い 今後の方向性
常時50人以上 年1回実施の義務・高ストレス者への面接指導の仕組みあり 引き続き義務のまま、フォロー体制の質が問われる
常時50人未満 これまでは努力義務 厚生労働省が令和8年2月に小規模事業場向けマニュアルを公表し、義務化に向けた体制整備を推進

厚生労働省の公表資料をもとにHuman Soarが作成(2026年9月時点)。

常時50人以上の事業場|フォロー体制の「質」が評価される段階に

実施率そのものはすでに高い水準にあるため、これからの課題は「実施した後、行動がどれだけ変わったか」です。面接指導の記録だけでなく、前段で紹介した4つの技法のような具体的なフォロー手段を用意しているかどうかが、実質的な差になります。

常時50人未満の事業場|小規模事業場向けマニュアルを起点に体制を作る

これまで努力義務だった50人未満の事業場は、まず実施体制そのものを整える段階にあります。厚生労働省の小規模事業場向けマニュアルには、外部機関への委託を含めた具体的な進め方が示されているため、初めて取り組む場合はここを出発点にするとよいでしょう。

Q. ストレスチェックは50人未満の企業にもいつから義務化されますか?

厚生労働省は令和8年2月に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表し、これまで努力義務だった50人未満の事業場についても義務化に向けた準備を進めています。施行時期は事業場規模ごとに段階を分けて案内される見込みのため、自社の規模がどの段階に該当するか、厚生労働省の告知を定期的に確認することが必要です。

(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル 令和8年2月 – 厚生労働省

面談後3ステップで技法を定着させる実践フロー

技法を紹介するだけでは、本人が一人になった瞬間に忘れてしまいます。面談当日・1週間後・1か月後の3つの区切りでフォローする流れを作ると、行動として定着しやすくなります。

1面談当日:4技法から1つだけ選んで一緒に体験する
21週間後:上司または産業保健スタッフが実践状況を短く確認する
31か月後:セルフチェックで負荷の変化を振り返る

ステップ1|面談当日に4技法から1つだけ選んで体験する

一度にすべての技法を伝えると、本人はどれも実践しないまま終わってしまいます。面談の場で「今のあなたに合いそうなのはどれか」を一緒に選び、その場で1分だけ試してもらうと、持ち帰った後の実践率が上がります。

ステップ2|1週間後に実践状況を短く確認する

1週間後、上司またはフォロー担当者が「あの後、試せていますか」と1分程度声をかけるだけで十分です。評価や指導の場にしないことが重要で、あくまで実践のリマインドとして機能させます。

ステップ3|1か月後にセルフチェックで振り返る

1か月後、簡単なセルフチェック(気分・睡眠・業務負荷感など数項目)を取り、面談前後で変化があったかを本人と一緒に確認します。変化が乏しい場合は、技法を変えるか、産業医面談など次の手段に進む判断材料にします。

あわせて読みたい管理職の体力とストレスマネジメント|アスリート思考で組織を守る›

スポーツ心理学の知見を運用するときの注意点

技法そのものは難しくありませんが、運用を誤ると逆効果になります。人事評価や配置転換の判断材料にストレスチェックの結果を使わないことを、面談の場で明確に伝えてください。

また、リラクセーションやイメージ技法は「気合いで乗り越える」根性論と混同されやすい面があります。産業保健担当者自身が、これらの技法は負荷そのものを減らす取り組み(業務量の調整・人員配置の見直し)と併用して初めて意味を持つという前提を、社内に説明できるようにしておくことが大切です。

管理職向けの説明会を別途設けると、部下への声かけの質も上がります。技法を「産業保健スタッフだけが知っているもの」にせず、管理職にも基礎を共有していく体制づくりが、フォローを一過性で終わらせないための土台になります。運動そのものがストレス反応を和らげる効果も知られており、運動でセロトニンを増やしストレスを軽減する方法のような生活習慣面の施策と組み合わせると、フォローの選択肢がさらに広がります。

Q. フォロー面談の効果はどのように測定すればよいですか?

面談直後のアンケートだけでなく、1か月後・3か月後に同じ項目でセルフチェックを取り、高ストレス者の得点推移を追うのが基本です。あわせて面談で提案したセルフケア技法を実際に使えているかどうかも合わせて確認すると、行動が定着しているかを把握できます。

まとめ|ストレスチェックを「毎年の記録」で終わらせない

ストレスチェックの価値は、実施率でも面接指導の実施件数でもなく、そのあとに本人の行動がどれだけ変わったかで決まります。今回紹介したポイントを振り返ります。

  • 50人未満の事業場も含め、ストレスチェック実施後のフォロー体制づくりが急務になっている
  • 面接指導だけでは行動は変わりにくく、アスリートのメンタルトレーニング技法が応用できる
  • リラクセーション・注意の切り替え・イメージ技法・パフォーマンス分析の4つを、目的に応じて使い分ける
  • 面談当日・1週間後・1か月後の3ステップでフォローすると、技法が行動として定着しやすい
  • 技法は業務負荷そのものを減らす取り組みとセットで運用し、評価目的での利用は避ける

スポーツ心理学の全体像や他のメンタルトレーニング技法については、スポーツ心理学とは|理論・実践・メンタルトレーニングを解説もあわせてご覧ください。また、50人未満の事業場が実施体制そのものから整える場合は、ストレスチェック50人未満義務化2026|中小企業が準備すべき5ステップが具体的な手順の参考になります。

ご質問・ご相談はお気軽にどうぞ

お問い合わせはこちら →
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

コメント

タイトルとURLをコピーしました