移籍金とは|誰がもらうのかとサッカーの分配の仕組み

移籍金とは|誰がもらうのかとサッカーの分配の仕組み スポーツビジネス

協賛しているJリーグのクラブから、主力の選手が欧州のクラブへ移籍するという知らせが届いた。報道では「移籍金は数億円」と伝えられている。このお金はだれに入るのか。クラブの経営は楽になるのか。選手を育てた高校にも何か入るのだろうか。

移籍金とは、契約の期間が残っている選手を獲得するクラブが、元のクラブに払うお金です。受け取るのは原則として元のクラブで、選手本人の収入ではありません。国をまたぐ移籍では、移籍金の5%が、その選手を12歳から23歳のあいだに育てたクラブや学校に配られます。この記事では、言葉の意味、だれがもらうのか、育成元への分配、世界とJリーグの金額、野球やバスケットボールとの違い、クラブ経営と企業にとっての意味を、競技団体の規則と公式の資料をもとに整理します。

移籍金とは契約が残る選手を獲得するクラブが元のクラブに払うお金

日本サッカー協会(JFA)の規則では、移籍金は「移籍補償金」と呼ばれます。プロの選手が契約の期間の満了前に移籍する場合、元のクラブは移籍先のクラブに移籍補償金を請求できると定められています。金額は、両方のクラブの合意で決まります。決まった計算式や相場の表はありません。

大事な点が2つあります。1つは、選手本人の承諾が要ることです。クラブどうしが合意しても、選手が承諾しなければ移籍は成立しません。もう1つは、契約が満了したあとの移籍には、移籍補償金が発生しないことです。JFAの規則にそう書かれています。

契約の満了後は移籍金がかからないという考え方は、1995年に欧州の裁判所が出した「ボスマン判決」で確立しました。契約が切れた選手が他の加盟国のクラブに移るときに移籍金を求める規則は、欧州の法律に反すると判断されたものです。国際サッカー連盟(FIFA)の2025年の報告書によると、国際移籍の6割あまりは、契約が切れた選手の移籍でした。

日本では、公正取引委員会が2019年6月に、スポーツの分野で選手の移籍を制限するルールについて、独占禁止法上の考え方を公表しています。選手の獲得をめぐる競争という点から見て、合理性や必要性を十分に検討して作られたとは言いにくいルールが多いとして、競技団体に自主的な見直しを求めました。移籍に条件を付けるルールは、その目的と中身が問われるということです。

関連する言葉も整理しておきます。

  • 期限付移籍の補償金:いわゆるレンタル料。期間を区切って選手を貸すときに、借りるクラブが払う
  • 契約解除の条項:あらかじめ決めた金額を払えば、元のクラブの同意がなくても移籍できるという取り決め
  • セルオン条項:選手が次に移籍するとき、その移籍金の一定の割合を前のクラブが受け取る取り決め

(参考)プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則(2026年3月12日改正) – 日本サッカー協会

(参考)Judgment of the Court of 15 December 1995, Case C-415/93(Bosman) – EUR-Lex

(参考)Global Transfer Report 2025 – FIFA

(参考)スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する独占禁止法上の考え方について(令和元年6月17日) – 公正取引委員会

Q. 移籍金とは何ですか?

契約の期間が残っている選手を獲得するクラブが、元のクラブに払うお金です。日本サッカー協会の規則では「移籍補償金」と呼ばれ、金額は両方のクラブの合意で決まります。選手本人の承諾も必要です。契約が満了したあとの移籍には発生しません。選手の年俸とは別のもので、クラブからクラブへ払われます。

移籍金は誰がもらうのか|原則は元のクラブで選手本人には入らない

移籍金は誰がもらうのかを、獲得するクラブを中心に示した関係図。移籍金は契約を譲る元のクラブへ、年俸や契約金は選手へ、手数料は代理人へ払われる

移籍金を受け取るのは、原則として元のクラブです。選手の年俸や契約金は、クラブが選手に払う働きの対価です。移籍金は、契約を譲る対価としてクラブがクラブに払います。この2つは別のお金です。

JFAの規則は、移籍金の全部または一部を受け取る権利を、第三者に与える契約を禁じています。投資家などが選手の移籍金の持ち分を持つことはできません。ただし、選手本人、移籍元と移籍先のクラブ、選手が過去に所属したクラブは、この「第三者」から除かれています。選手がクラブとの契約で、移籍金の一部を受け取る取り決めをすること自体は禁じられていません。

この点は、2027年から変わります。FIFAは2026年6月10日に新しい規則を承認し、2027年1月1日に施行します。年間の固定の報酬が15万ユーロ未満の選手が、国をまたいで完全移籍する場合、放出するクラブは、受け取った固定の移籍金の5%を選手に払うことが原則になります。対象は、施行の日以降に結ぶ契約です。国内の法律や労使の取り決めによっては対象外になる場合もあり、日本の選手にどう適用されるかは、この記事を書いた時点では確認できていません。

代理人を使った場合は、クラブや選手が代理人に手数料を払います。FIFAの規則は手数料の上限を定めていますが、この上限は適用が止められた状態が続いています。代理人の業界は、下の記事で扱っています。

あわせて読みたいスポーツ選手エージェント業界|経営者向け企業3社比較›

(参考)プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則(2026年3月12日改正) – 日本サッカー協会

(参考)Regulations on the Status and Transfer of Players(January 2027) – FIFA

(参考)Bureau of the Council approves new regulatory framework for the transfer system(2026年6月10日) – FIFA

Q. 移籍金は選手に入りますか?

原則として入りません。移籍金はクラブからクラブへ払うお金で、受け取るのは元のクラブです。ただし、選手とクラブの契約で、移籍金の一部を選手が受け取る取り決めをすることはできます。国際サッカー連盟の新しい規則では、2027年1月以降に結ぶ契約について、報酬の低い選手が国をまたいで完全移籍する場合、移籍金の5%を選手に払うことが原則になります。

移籍金の分配|育成したクラブや学校にも5%が配られる

国をまたぐ移籍では、移籍金の一部が、選手を育てたクラブや学校に配られます。これを「連帯貢献金」といいます。FIFAの規則は、契約の期間中に選手が移籍する場合、移籍金の5%を差し引いて、その選手の育成に関わったクラブに配ると定めています。移籍金に上乗せするのではなく、移籍金の中から配る仕組みです。

配り方は、選手が在籍していた年齢で決まります。

選手が在籍していた年齢 1年あたりの取り分 移籍金に対する割合
12歳〜15歳(4年) 5%のうちの5% 1年につき0.25%
16歳〜23歳(8年) 5%のうちの10% 1年につき0.5%
合計(12年) — 5%

連帯貢献金の配り方(出典:FIFA「Regulations on the Status and Transfer of Players」Annexe 5。移籍金に対する割合はHuman Soarが計算)

たとえば、高校の3年間(16歳から18歳)に在籍した選手が、海外のクラブのあいだで有償で移籍すると、高校の取り分は移籍金の1.5%になります。選手が移籍を重ねるたびに発生します。Jリーグの資料によると、移籍するときの選手の年齢は問いません。

対象は、国をまたぐ移籍などです。日本の国内だけで完結する移籍には、この仕組みは働きません。以前は、育てた側が自分で気づいて請求する必要がありましたが、FIFAは2022年11月に、支払いをまとめて処理する「クリアリングハウス」を始めました。FIFAは2025年7月の時点で、世界の7,000のクラブに5億ドル超を割り当てたと発表しています。

(参考)Regulations on the Status and Transfer of Players(January 2027) – FIFA

(参考)Jリーグ クラブ経営ガイド2025 – Jリーグ

(参考)Economic impact of FIFA Clearing House surpasses USD 500 million milestone(2025年7月11日) – FIFA

日本の高校や町クラブが受け取るトレーニング補償金

移籍金とは別に育てたチームへ払われるトレーニング補償金の分岐図。高校年代のチームはJ1加入で1年につき30万円、J2で20万円、J3などで5万円、中学年代のチームはJ1加入で10万円に分かれる

国内の移籍にも、育てた側への対価があります。JFAの規則は、アマチュアの選手がプロになるとき、移籍先のクラブが、その選手が12歳から22歳のあいだに登録していたチームに「トレーニング補償金」を払うと定めています。

金額は、登録していた期間1年につき決まっています。高校を卒業してJ1のクラブとプロ契約を結んだ場合、高校年代(16歳から18歳)のチームには1年につき30万円です。3年間在籍していれば90万円になります。J2に入った場合は1年につき20万円、J3などは5万円です。中学年代のチームには、J1で1年につき10万円が払われます。金額は消費税を含みます。

請求できるのは、会社、財団法人、社団法人、NPO法人、学校などが運営するチームに限られます。法人になっていない任意の団体は、お金としては受け取れず、希望すればJFAから同じ金額に相当する物品の提供を受ける形になります。町のクラブがお金で受け取るには、法人になっていることが条件です。

Jリーグは、高校に払われる年30万円は「育成への対価としては不十分」だとして、この補償金の全体を約2倍から3倍に増やす方針を発表しています。2027年7月1日からの施行を予定しており、JFAの理事会で正式に決まる手続きが残っています。

(参考)プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則(2026年3月12日改正) – 日本サッカー協会

(参考)トレーニング補償金の拡充とアカデミー育成還元金制度の新設について – Jリーグ

サッカーの移籍金の規模とランキング|Jリーグは川崎Fが年11.9億円

世界の規模から見ます。FIFAの報告書によると、2025年の男子のプロの国際移籍は24,558件で、移籍金の総額は130億8,000万ドルでした。前の年より52.3%増え、過去最高です。女子は2,860万ドルでした。この数字は国をまたぐ移籍だけで、国内の移籍は含みません。

Jリーグは、2024年度の決算から「移籍補償金等収入」という科目を分けて開示しています。移籍金のほか、期限付移籍の補償金、トレーニング補償金、連帯貢献金を含みます。2025年度は、J1が合計84億800万円、J2が34億9,400万円、J3が2億8,300万円でした。6月決算のクラブはまだ含まれていません。

クラブ別では、川崎フロンターレが11億8,600万円で最も多く、横浜F・マリノスの9億6,400万円、ガンバ大阪の7億3,200万円、セレッソ大阪の6億9,800万円が続きます。J2のサガン鳥栖も5億9,500万円を得ています。

一方で、J1は移籍に関わる費用が104億8,400万円で、収入を上回っています。J2とJ3は収入のほうが多く、下の階層で育てて上の階層や海外へ送り出す流れが、数字に表れています。

「日本人選手の移籍金ランキング」のような、選手ごとの金額の順位は、公式の資料では作れません。個々の移籍金は、クラブが公表しないのが通例だからです。報道で見る金額は推定です。公式に確かめられるのは、クラブ単位の1年間の収入までです。

(参考)Global Transfer Report 2025 – FIFA

(参考)2025年度 クラブ決算一覧 – Jリーグ

(参考)2025年度 クラブ経営情報開示資料 – Jリーグ

(参考)Jリーグ クラブ経営ガイド2025 – Jリーグ

Q. 移籍金のランキングは公式に発表されていますか?

選手ごとの移籍金の順位は、公式には発表されていません。個々の移籍金はクラブが公表しないのが通例で、報道の金額は推定です。公式に確かめられるのは、クラブ単位の収入です。Jリーグの2025年度の決算では、移籍補償金等収入は川崎フロンターレが11億8,600万円で最も多く、横浜F・マリノスが9億6,400万円でした。

野球やバスケットボールの移籍金との違い

契約の期間中に選手が移るときのお金は、競技によって仕組みが違います。

競技 移るときに払うお金 金額の決まり方
サッカー 移籍補償金 クラブどうしの合意
野球(日本から米国へのポスティング) 譲渡金 選手が結ぶ契約の保証総額に対する決まった割合
バスケットボール(Bリーグ) 移籍に伴う補償 クラブどうしの交渉

競技ごとの違い(出典:日本サッカー協会の規則、MLB.comの用語集、B.LEAGUEの規程をもとにHuman Soarが整理)

野球のポスティングは、計算の式が決まっています。MLBの公式サイトによると、選手が結ぶ契約の保証総額が2,500万ドル以下なら20%、それを超える2,500万ドルの部分は17.5%、5,000万ドルを超える部分は15%です。総額1億ドルの契約なら、日本の球団が受け取る額はおよそ1,690万ドルになります。クラブどうしの交渉で額が決まるサッカーとは、ここが違います。

Bリーグの規程も、契約の満了前の移籍では、移籍先と移籍元のクラブが補償について合意し、選手が承諾した場合に限って契約できると定めています。育成への対価もありますが、対象はBリーグのクラブのユースチームで、高校や大学の部活動は含まれません。学校も請求できるサッカーとの違いです。Bリーグの報酬の制度はサラリーキャップとはで扱っています。

(参考)Japanese Posting System – MLB.com

(参考)選手契約および登録に関する規程 – B.LEAGUE

(参考)プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則(2026年3月12日改正) – 日本サッカー協会

移籍金がクラブ経営と協賛企業に与える3つの意味

クラブを支える企業の側から見ると、押さえておきたい点は3つあります。

第三の収入源だが年による振れが大きい

Jリーグは経営の手引きのなかで、育成による移籍金の獲得に力を入れることが重要だとし、「選手を育てて売る」移籍金のビジネスを、クラブが続いていくために欠かせない循環だと位置づけています。スポンサー収入、入場料収入に続く収入の柱です。ただし、1人の選手が移籍するかどうかで、億の単位で変わります。協賛の判断の材料にするときは、1年の数字ではなく、数年の平均で見るほうが確かです。

会計では数年に分けて費用になる

移籍金を払って選手を獲得したクラブは、その金額を払った年にすべて費用にするわけではありません。Jリーグの決算の科目には「移籍補償金償却費」があり、契約の年数などに分けて費用にしていることがわかります。国税庁の通達も、選手との専属の契約のために支出する契約金などは、繰延資産にあたるとしています。この通達は移籍金を名指ししたものではないので、税務の扱いは税理士に確かめてください。自前で育てた選手は獲得の費用がかかっていないので、移籍金がほぼそのまま利益になります。

(参考)法人税基本通達 第8章 繰延資産(8-1-12 職業運動選手等の契約金等) – 国税庁

育成への協賛が収入として戻る構図になる

育成に力を入れるクラブへの協賛は、アカデミーへの投資が移籍金として戻り、クラブの自立につながるという説明がしやすくなります。一方で、移籍金の収入が多いクラブは、主力が抜けていくクラブでもあります。協賛の見返りを、特定の選手の人気だけに頼る設計は避けたほうが安全です。クラブの決算の読み方は、下の資料で整理しています。

あわせて読みたいクラブ経営は市場規模で決まらない|53クラブ決算分析›

Jリーグのクラブと協賛の全体像はサッカーのスポンサー一覧で、業界全体のお金の流れは日本スポーツ業界の8つの課題で扱っています。

(参考)Jリーグ クラブ経営ガイド2025 – Jリーグ

(参考)2025年度 クラブ決算一覧 – Jリーグ

Q. 移籍金はクラブの経営にどう影響しますか?

スポンサー収入、入場料収入に続く収入の柱になります。Jリーグの2025年度の決算では、J1の移籍補償金等収入は合計84億800万円でした。ただし、1人の選手の移籍で億の単位で変わるため、年による振れが大きい収入です。獲得する側は、払った移籍金を数年に分けて費用にします。自前で育てた選手の移籍金は、ほぼそのまま利益になります。

まとめ|移籍金はクラブと育成元に入るお金

移籍金は、選手の年俸とは別の、クラブのあいだで動くお金です。要点を振り返ります。

  • 移籍金は、契約が残る選手を獲得するクラブが元のクラブに払うお金で、金額はクラブどうしの合意で決まる
  • 受け取るのは原則として元のクラブ。2027年1月以降の契約では、条件を満たす選手に5%が入る規則が始まる
  • 国をまたぐ移籍では、移籍金の5%が12歳から23歳のあいだに育てたクラブや学校に配られる
  • 国内では、高校を出てJ1に入ると、高校に1年につき30万円のトレーニング補償金が払われる
  • Jリーグの2025年度は、川崎フロンターレの11億8,600万円が最も多い。選手ごとの金額は公表されない

協賛しているクラブがあれば、Jリーグが公表している決算の「移籍補償金等収入」と「移籍関連費用」を、2年分並べて見てみてください。クラブが選手を育てて送り出す側なのか、獲得する側なのかがわかり、協賛の見返りをどこに求めるかを考える材料になります。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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