アンバサダー契約とは|スポーツ選手と結ぶ企業の確認点と報酬

アンバサダー契約とは|スポーツ選手と結ぶ企業の確認点と報酬 スポーツマーケティング

自社の商品を愛用してくれている地元のプロ選手がいる。SNSでの発信力もあるので、アンバサダーになってもらえないかと考えている。スポンサー契約とは何が違うのか。報酬はいくらくらいなのか。投稿に「PR」と付けてもらう必要はあるのか。所属しているクラブに断りは要るのだろうか。

アンバサダー契約とは、選手などの個人に自社やブランドの顔になってもらい、名前や写真を使う許しと、発信や出演の仕事を組み合わせて結ぶ契約です。法律に決まった定義はなく、中身は契約書で決まります。金額が公表されることはほとんどありません。企業の側には、投稿が広告だとわかるようにすること、取引の条件を書面で示すこと、所属するクラブの承諾を得ることなど、守るべきルールがあります。この記事では、言葉の意味、スポンサー契約との違い、報酬と税、契約の前に確かめるルール、契約書に入れる項目を、法令と公的な資料、企業の公式の発表をもとに整理します。一般的な内容の紹介です。契約書は弁護士に、税務は税理士に確かめてください。

アンバサダー契約とは選手の名前や写真の使用と発信を組み合わせた契約

アンバサダー契約の中身を示す重なりの図。名前や写真を広告や販促物に使う許しと、SNSでの発信やイベントへの出演といった仕事の依頼が重なる部分がアンバサダー契約にあたる

「アンバサダー契約」を定義した法律や公的な文書は、見当たりません。実務での呼び名です。中身を分けると、次の3つの組み合わせになります。

  • 名前や写真(肖像)を、広告や販促物に使うことの許し
  • SNSでの発信、イベントや広告への出演といった仕事の依頼
  • 用具メーカーなどの場合は、製品を使うことや、開発への協力

呼び名は企業によってばらばらです。伊藤園は2024年4月、大谷翔平選手と「グローバル契約」を結んだと発表し、その翌月に、活動の一環として「グローバルアンバサダー」への就任を発表しました。契約の名前と、契約の中で与える肩書が別になっている例です。ミズノは、用具の使用、開発への協力、肖像の使用を内容とする契約を「ブランドアンバサダー契約」と呼んでいます。

呼び名からは、権利と義務の範囲はわかりません。何を使えて、何をしてもらえるのかは、契約書に書いた内容で決まります。

(参考)大谷翔平選手が伊藤園「お〜いお茶」とグローバル契約を締結(2024年4月30日) – 伊藤園

(参考)髙橋遥人選手とミズノブランドアンバサダー契約を締結(2026年7月6日) – ミズノ

Q. アンバサダー契約とは何ですか?

選手などの個人に自社やブランドの顔になってもらう契約です。法律に決まった定義はなく、実務での呼び名です。中身は、名前や写真を広告に使う許しと、SNSでの発信やイベントへの出演といった仕事の依頼を組み合わせたものです。用具メーカーの場合は、製品の使用や開発への協力が加わります。何ができるかは、契約書に書いた内容で決まります。

アンバサダー契約とスポンサー契約の違い

似た契約との違いを整理しました。法律上の区分ではなく、企業の発表での使われ方をもとにした整理です。

呼び名 主な相手 企業が得るもの
スポンサー契約 チーム、大会、団体、選手 広告の露出、呼称の使用、肖像の使用など
アンバサダー契約 個人(選手、元選手、著名人) 肖像の使用と、本人による発信や出演
用具の契約 個人 製品を使ってもらうこと、開発への協力、選手モデルの販売
広告出演の契約 個人 テレビCMなどの広告への出演
所属の契約(選手契約) 個人 競技の活動そのもの

アンバサダー契約と似た契約の違い(各社の公式の発表での使われ方をもとにHuman Soarが整理。法律上の区分ではない)

スポンサー契約は、チームや大会にお金を出して、看板やユニフォームへの露出を得るのが中心です。アンバサダー契約は、個人が自分の言葉や姿でブランドを伝える点に重心があります。実際には重なる部分が多く、1つの契約に両方の要素が入ることもあります。スポンサー契約の基本は、下の記事で扱っています。

あわせて読みたいスポーツスポンサー契約とは|企業が確かめる6項目と印紙・法律›

(参考)髙橋遥人選手とミズノブランドアンバサダー契約を締結(2026年7月6日) – ミズノ

(参考)ブランドアンバサダーに大谷翔平選手が就任(2023年12月15日) – ディップ

Q. アンバサダー契約とスポンサー契約の違いは何ですか?

スポンサー契約は、チームや大会などにお金を出して、看板やユニフォームへの露出、呼称の使用などを得る契約です。アンバサダー契約は、選手などの個人が、自分の発信や出演を通じてブランドを伝える点に重心があります。法律上の区分ではなく、実際には重なる部分も多いため、呼び名ではなく契約書の中身で確かめる必要があります。

アンバサダー契約の報酬と金額は公表されないのが通例

企業と選手のアンバサダー契約の金額は、公表されないのが通例です。確認した企業の公式の発表には、どれも金額や契約の期間が書かれていませんでした。「相場」を数字で示せる公的な資料はありません。

金額がわかるのは、自治体が任命する大使の例です。仙台市の観光アンバサダーの要綱は、謝礼を支給しないと定めています。栃木県が公募した「いちご王国」アンバサダーは、1つの任期あたり16,000円です。自治体の大使は、無償か少額が中心です。

報酬の形は、決まった金額を払う、成果に応じて払う、商品や用具を提供する、無償、の4つに分けられます。どの形でも、税の扱いに注意が要ります。

個人に報酬を払う場合、企業は所得税を源泉徴収する必要があることがあります。国税庁は、対象の例として、プロ野球の選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルなどに払う報酬を挙げています。税額は、1回の支払いが100万円以下なら10.21%、100万円を超える部分は20.42%です。お金ではなく品物で払う場合も、報酬に含まれます。商品を提供するだけの契約でも、税理士に確かめておく必要があります。クラブへの協賛の料金はスポーツスポンサー料の相場で扱っています。

(参考)仙台観光アンバサダー設置要綱 – 仙台市

(参考)令和8年度「いちご王国」アンバサダー公募要領 – 栃木県

(参考)No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは – 国税庁

(参考)No.2810 専属契約等で支払う契約金 – 国税庁

Q. アンバサダー契約の報酬はいくらですか?

企業と選手の契約の金額は、公表されないのが通例で、相場を示す公的な資料はありません。公表されているのは自治体の大使の例で、仙台市の観光アンバサダーは謝礼なし、栃木県の公募のアンバサダーは1つの任期あたり16,000円です。個人に報酬を払う場合は、所得税の源泉徴収が必要になることがあり、品物での支払いも報酬に含まれます。

企業がスポーツ選手とアンバサダー契約を結ぶ前に確かめる5つのルール

アンバサダー契約の前に企業が確かめる5つのルールを相手ごとに示した関係図。消費者には広告の表示、選手本人には取引条件の書面を示し、所属するクラブからは事前の承諾を受ける

契約の前に、企業の側が確かめておくルールが5つあります。

投稿が広告だとわかるようにする

2023年10月1日から、広告であることを隠した表示(ステルスマーケティング)は、景品表示法の違反になりました。規制の対象は、商品やサービスを提供する企業です。依頼を受けて投稿した人は、規制の対象になりません。違反すると、企業が措置命令を受けます。

消費者庁の運用基準は、企業がはっきりと依頼や指示をしていなくても、対価や関係から見て、本人の自主的な意思による内容と認められない場合は、企業の表示になるとしています。アンバサダーの投稿は、企業の広告にあたると考えて準備するのが安全です。「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった言葉や、「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった文で示します。依頼した投稿を、依頼したものだと示さずに自社のサイトに載せて、措置命令を受けた例もあります。

(参考)令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。 – 消費者庁

(参考)「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準 – 消費者庁

(参考)RIZAP株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について(2024年8月9日) – 消費者庁

取引の条件を書面で示す

従業員を雇っていない個人に仕事を頼む場合、フリーランスの取引に関する法律が関わります。企業は、仕事の内容、報酬の額、支払いの期日などを、書面やメールなどで示さなければなりません。口頭だけでは足りません。報酬の支払いの期日は、仕事を受けた日から60日以内です。6か月以上の契約をやめる場合や更新しない場合は、少なくとも30日前の予告が要ります。マネジメント会社と契約する場合は、相手が対象にあたらないことがあります。

(参考)フリーランス法特設サイト – 公正取引委員会

所属するクラブの承諾を得る

選手の名前や写真には、勝手に広告に使われない権利があります。最高裁判所は2012年の判決で、これを「パブリシティ権」と呼び、もっぱら肖像の持つ集客の力の利用を目的とする無断の使用は違法になるとしました。

チームに所属する選手の場合、本人の合意だけでは足りないことがあります。Bリーグの選手の統一契約書は、選手が第三者の広告宣伝に関わるときは、事前にクラブの書面による承諾を得なければならないと定めています。ユニフォーム姿やチームのロゴを使うなら、クラブやリーグの許しも別に要ります。

(参考)最高裁判所 平成24年2月2日 第一小法廷判決 – 裁判所

(参考)選手統一契約書 – B.LEAGUE

オリンピックの期間は広告を止める

オリンピックに出る選手を起用する場合は、「ルール40」に注意が要ります。日本オリンピック委員会のガイドラインによると、選手村が開く日から閉会式の2日後までの期間、大会の公式のパートナーでない企業は、選手の肖像を使った広告に強い制限を受けます。2026年の冬の大会では、個人のスポンサーは、開村の90日前にあたる2025年11月1日より後に始めた新しい広告を、期間中に出せませんでした。お祝いや応援のメッセージも出せません。期限は大会ごとに変わります。

(参考)ミラノ・コルティナ2026 TEAM JAPAN選手等の肖像使用に関するガイドライン – 日本オリンピック委員会

高校生や未成年の選手は規程を確かめる

18歳未満の人と契約するには、保護者などの同意が要ります。高校の部活動の選手については、全国高等学校体育連盟の規程が、自分の名前、写真、競技の実績を広告などに使うことを、連盟が認めた場合を除いて禁じています。違反すると、処分を受けるのは選手や学校の側です。起用する前に、必ず確かめてください。不祥事への備えはスポーツインテグリティとはで扱っています。

(参考)「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準 – 消費者庁

(参考)RIZAP株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について(2024年8月9日) – 消費者庁

(参考)競技者及び指導者規程 – 全国高等学校体育連盟

(参考)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 – e-Gov法令検索

Q. アンバサダーの投稿に「PR」の表示は必要ですか?

必要だと考えて準備するのが安全です。2023年10月1日から、広告であることを隠した表示は景品表示法の違反になりました。消費者庁の運用基準は、企業がはっきりと依頼していなくても、対価や関係から見て本人の自主的な内容と認められない場合は、企業の表示になるとしています。違反した場合に措置命令を受けるのは、投稿した人ではなく企業です。

アンバサダー契約書に入れておく項目

ここまでのルールをふまえると、契約書に入れておきたい項目は次のとおりです。

  • 仕事の内容:投稿の回数と媒体、イベントや撮影の日数、製品を使う義務
  • 肖像を使える範囲:媒体、地域、期間、自社のサイトや広告への転載ができるか
  • 報酬と支払いの期日:金額や計算の方法、品物を提供する場合の扱い
  • 広告であることの表示:使う言葉と、表示する位置
  • 所属先の承諾:クラブや競技団体の承諾を、どちらが取るか
  • 大会の期間の扱い:オリンピックなどの期間中の広告や投稿の止め方
  • 競合の扱い:同じ業種のほかの企業と契約できるか
  • 解除と不更新:やめる場合の理由、予告の期間、反社会的な勢力を排除する条項

不祥事があった場合の解除の条項について、公的な機関が示したひな形は見当たりません。書き方は弁護士に相談してください。選手の側の窓口になる代理人やマネジメント会社については、下の記事で扱っています。

あわせて読みたいスポーツ選手エージェント業界|経営者向け企業3社比較›

協賛の全体像はスポーツマーケティングとはで整理しています。

(参考)フリーランス法特設サイト – 公正取引委員会

(参考)「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準 – 消費者庁

(参考)ミラノ・コルティナ2026 TEAM JAPAN選手等の肖像使用に関するガイドライン – 日本オリンピック委員会

スポーツ選手のアンバサダー契約の実例

企業が公式に発表した例を並べます。いずれも、金額と期間は書かれていません。

発表日 企業 相手 呼び名と内容
2023年12月15日 ディップ 大谷翔平選手 ブランドアンバサダーへの就任を発表
2024年4月30日 伊藤園 大谷翔平選手 「お〜いお茶」とのグローバル契約。翌月にグローバルアンバサダーへの就任を発表
2026年7月6日 ミズノ 髙橋遥人選手(プロ野球) ブランドアンバサダー契約。用具の使用、開発への協力、広告や販促物での肖像の使用

スポーツ選手のアンバサダー契約の例(出典:各社の公式の発表。2026年10月10日に確認)

用具メーカーは、使ってもらう製品と開発への協力を発表に書いています。消費者向けの商品の企業は、広告やキャンペーンへの起用を書いています。同じ「アンバサダー」でも、求めている役割が違うことがわかります。

中小の企業が地元の選手と結ぶ場合も、考え方は同じです。求める役割を先に決め、それに合わせて報酬の形と契約書の項目を選びます。

(参考)ブランドアンバサダーに大谷翔平選手が就任(2023年12月15日) – ディップ

(参考)大谷翔平選手が伊藤園「お〜いお茶」とグローバル契約を締結(2024年4月30日) – 伊藤園

(参考)髙橋遥人選手とミズノブランドアンバサダー契約を締結(2026年7月6日) – ミズノ

まとめ|アンバサダー契約は呼び名ではなく中身で決める

アンバサダー契約は、決まった型のない契約です。要点を振り返ります。

  • アンバサダー契約は、肖像の使用の許しと、発信や出演の仕事を組み合わせた契約で、法律上の定義はない
  • スポンサー契約とは重なる部分が多く、呼び名ではなく契約書の中身で確かめる
  • 金額は公表されないのが通例。個人への報酬は源泉徴収の対象になることがある
  • 投稿が広告だとわかるようにする責任は企業にあり、違反すると企業が措置命令を受ける
  • チームに所属する選手は、クラブの承諾が要る場合がある

起用したい選手がいるなら、まず、何をしてもらいたいのかを3つほど書き出してみてください。そのうえで、選手の所属先に承諾の手続きを確かめ、契約書の案を弁護士に見てもらうと、あとで困ることが少なくなります。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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