スポーツのバーチャル広告は、試合の中継映像に広告を合成して配信する仕組みです。会場に看板を作って置く必要がなく、配信の途中でも広告を差し替えられます。日本では2021年にソフトバンクがプロ野球のネット中継で始め、同じ年にBリーグの6クラブの中継にも広げました。ただし広告が見えるのは中継の視聴者だけで、どの配信に出るのか、誰が枠を売っているのかは契約ごとに違います。
「中継を見ていたら、さっきと違う会社のロゴが看板に出ている」。そんな場面に気づいて、自社も出せるのか気になった方もいると思います。ここでは仕組みと国内外の事例を一次情報で確かめたうえで、出稿の前に企業が確かめておきたい5つの点を整理します。
バーチャル広告とは|中継映像に広告を合成する仕組み

バーチャル広告は、カメラが撮った試合の映像の中で看板や床などの位置を画像認識で見つけ、そこに広告の画像を重ねてから配信する仕組みです。広告を合成するのは映像の処理をするシステムの側なので、会場には何も設置しません。
ソフトバンクが2021年5月に始めたサービスでは、映像の処理を同社の映像運用センターで行い、会場側で機材を用意する必要もないと説明しています。画像認識には、Vizrt社のシステム「Eclipse Insertion」を使っています。Bリーグの中継では、広告が選手に重ならないように映像を処理するとしています。
現地の看板との大きな違いは、見える相手が中継の視聴者に限られることです。そのかわり、看板を作り直さなくても広告を差し替えられ、配信先ごとに違う広告を出すこともできます。
(参考)日本初、プロ野球中継でバーチャル広告を提供(2021年5月7日) – ソフトバンク株式会社
Q. バーチャル広告は球場や会場にいる観客にも見えますか?
見えません。バーチャル広告は中継の映像に合成して配信するもので、会場の看板や床には何も表示されていないからです。会場の観客に見せたいなら、現地の看板や大型ビジョンの枠を別に買う必要があります。
日本のバーチャル広告はプロ野球とBリーグのネット中継で始まった
国内で確認できる事例は、ソフトバンクが提供している2つです。どちらもテレビ放送ではなく、インターネットの動画配信サービスで流れる中継が対象です。
| 競技 | 始まった時期 | 対象の試合 | 表示される配信サービス |
|---|---|---|---|
| プロ野球 | 2021年5月(3月26日の開幕戦から試験運用) | 福岡ソフトバンクホークスの主催試合(福岡PayPayドーム) | ベースボールLIVE、DAZN、パ・リーグTV |
| Bリーグ | 2021年11月6日 | 2021-22シーズンの6クラブのホーム戦 | バスケットLIVE、スポーツナビ、バスケットLIVE for Prime Video、Hulu |
出典:ソフトバンク株式会社のプレスリリース(2021年5月7日・2021年10月22日)をもとに Human Soar 作成。開始時点の情報で、現在の対象試合・配信先は異なる場合がある
プロ野球|福岡ソフトバンクホークスの主催試合から始まった
ソフトバンクは2021年5月7日、プロ野球のネット中継にバーチャル広告を入れるサービスを始めたと発表しました。最初の対象は、福岡PayPayドームで行う福岡ソフトバンクホークスの主催試合です。3月26日の開幕戦から試験的に運用していました。
発表では、利点を3つ挙げています。広告を簡単に差し替えられること、季節やキャンペーンに合わせた広告を出せること、そして主催者にとっては、これまで看板を置けなかった場所を新しく売れることです。日本のプロ野球の中継でバーチャル広告を使うのはこれが初めてだと、福岡ソフトバンクホークスの調べとして書かれています。
(参考)日本初、プロ野球中継でバーチャル広告を提供(2021年5月7日) – ソフトバンク株式会社
Bリーグ|6クラブのホーム戦でコート上に4つの枠
2021年10月22日には、Bリーグの2021-22シーズンの一部の試合に同じサービスを入れると発表しました。最初は11月6日のアルバルク東京対京都ハンナリーズ戦で、対象は宇都宮ブレックス、アルバルク東京、川崎ブレイブサンダース、新潟アルビレックスBB、シーホース三河、琉球ゴールデンキングスの6クラブのホーム戦です。
広告の枠は、コート上の決まった位置に4つ設けます。数分ごとに広告を差し替えられるとしていて、1試合の中で複数の企業の広告を順番に出せる設計です。
あわせて読みたいスタジアム広告の料金|企業が出す球場看板は年6万円から›
(参考)B.LEAGUEのインターネット中継に最先端の映像技術を活用した「バーチャル広告サービス」が導入(2021年10月22日) – ソフトバンク株式会社
海外のサッカーは国ごとに看板を差し替える使い方が進んでいる
海外では、同じ試合を見ていても国によって違う広告が見えるように、スタジアムの看板を国別に差し替える使い方が広がっています。海外に試合を配信しているリーグにとっては、国ごとに広告を売れるので収入を増やす手段になります。
ドイツのブンデスリーガでは、2022年4月にボルシア・ドルトムントとRBライプツィヒの試合で、ソフトウェアで看板を差し替えるSupponor社の「Supponor AIR」が国内で初めて商用に使われたと報じられています。記事では、この方式がドイツのリーグ機構(DFL)からリーグ全体での使用の承認を受けており、どのクラブでも使えると説明しています。
日本の事例はネット中継の空いている場所に枠を増やす使い方が中心で、海外は既存の看板を国別に売り分ける使い方が中心です。同じ「バーチャル広告」でも、何を売っているのかが違う点に注意が必要です。
(参考)Borussia Dortmund deploys Supponor AIR in first DFL outing(2022年4月11日) – SVG Europe
(参考)2026年もMLB応援! LAドジャース戦での球場広告出稿のお知らせ(2026年4月2日) – 辻・本郷 税理士法人
Q. MLBの中継で見える日本企業の看板はバーチャル広告ですか?
すべてがバーチャル広告とは限りません。たとえば税理士法人の辻・本郷は、ドジャース戦の球場でバックネット裏の回転式LED看板とダグアウトの庇に広告を出すと発表しており、これは現地に実際にある看板です。どちらの形かは、出稿先との契約で確かめる必要があります。
バーチャル広告で企業が得るもの|看板を作らず短期間で出せる
出稿する企業から見たバーチャル広告の利点は、手間と期間の小ささにあります。ソフトバンクのサービスページと発表から、企業にとっての利点は次の3つに整理できます。
看板の制作と設置がいらない
広告はデータで入稿するので、看板を作って会場に運び込む必要がありません。ソフトバンクは、すでに持っているロゴやブランドのメッセージをそのまま使えるため、始めるときの負担が小さいと説明しています。
現地の看板は、制作費に加えて年単位の契約になることが多く、初めての協賛にはハードルが高くなりがちです。小さく試してから広げたい企業にとっては、入口になりやすい形です。
キャンペーンに合わせて差し替えられる
プロ野球ではイニングごと、Bリーグでは数分ごとに広告を差し替えられます。新商品の発売日やセールの期間に合わせて内容を変えられるので、季節ものの商品や期間限定のキャンペーンと組み合わせやすくなります。
サービスページでは、得点の直後に出すなど、表示のタイミングを工夫する使い方や、車やキャラクターをCGで登場させる見せ方も紹介しています。
協賛としてチームを支えられる
ソフトバンクのサービスでは、広告費の一部が対象のチームへの協賛になります。広告を出すことが、そのまま地元のチームを支えることにつながる設計です。
サービスページでは、2023年の福岡ソフトバンクホークスの試合をもとに、視聴者と非視聴者の約600人に第三者がアンケートした結果として、企業の認知度が37%、好感度が44%高かったと紹介しています。調べたのは広告を提供する側なので、自社で出す場合は同じ指標を自分でも測るのが確実です。
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バーチャル広告を出す前に企業が確かめる5つの点

バーチャル広告は、何に出しているのかが目に見えにくい広告です。契約の前に次の5つを確かめておくと、出したあとで「思っていたのと違う」となるのを防げます。
①どの配信サービスに表示されるか
国内の事例はネット中継が対象で、表示される配信サービスは試合ごとに決まっています。プロ野球ではベースボールLIVE、DAZN、パ・リーグTVの3つから始まりました。自社の顧客がよく見ているサービスに出るかどうかを、契約の前に一覧でもらっておきます。
テレビ放送やハイライト動画、SNSに切り出された映像にも出るのかどうかも確かめておきたい点です。出ない場合、見られる人数は中継の視聴者数に限られます。
②誰が枠を売っているか
バーチャル広告の枠は、映像を処理する会社のサービスとして売られていることがあります。ソフトバンクのサービスページでも、チームやクラブによって協賛としての権利が違うと書かれています。チームのスポンサーとして名乗れるのか、ロゴを自社の販促に使えるのかは、契約書で確かめる必要があります。
チームから直接買う協賛と、広告サービスから買う枠とでは、使える権利が違うことがあります。「チームのスポンサー」と社内で説明するつもりなら、その表現が使えるかを先に聞いておきます。
③現地の看板のスポンサーと業種が重ならないか
多くのクラブは、同じ業種の企業を1社に絞る「一業種一社」の契約で協賛を受けています。映像の中だけとはいえ、現地の看板の競合企業の広告が同じ試合に出れば、既存のスポンサーとの関係がこじれるおそれがあります。
出稿する側も、同じ試合で競合のロゴが隣に並ぶのは避けたいはずです。同じ試合に出る広告の業種の決まりを、事前に確かめておきます。
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④広告だと分かる見せ方になっているか
2023年10月1日から、広告であることを隠した表示(いわゆるステマ)は景品表示法の不当表示として規制されています。規制の対象は広告を出す事業者です。看板と同じように社名やロゴを見せる形なら、広告であることは見る人に分かります。
注意したいのは、CGで商品を試合の演出に溶け込ませるような見せ方です。広告だと分かりにくくなる使い方は避け、判断に迷う表現は社内の法務や専門家に確認してから出します。
(参考)ステルスマーケティングに関する景品表示法の考え方 – 消費者庁
⑤効果をどう測るか
バーチャル広告は配信先がはっきりしているので、表示された回数や秒数は受け取りやすい広告です。ただ、表示の量だけでは社内で効果を説明しにくいので、認知度や好感度の変化をアンケートで測る方法を、出稿の前に決めておきます。
測り方の選び方はスポーツスポンサーシップの効果測定の方法、ほかの広告手法との比べ方はスポーツ広告の効果と事例で詳しく扱っています。中継の配信がどう変わってきたかはNetflixのスポーツ中継の記事が参考になります。
Q. バーチャル広告はステマ規制の対象になりますか?
看板と同じように社名やロゴを広告として見せる形なら、広告であることは見る人に分かるので、ステマ規制が問題にしている「広告と分からない表示」には当たりにくいと考えられます。ただし、試合の演出に溶け込ませて広告と分かりにくくする使い方は避け、判断に迷う場合は専門家に確認してください。
Q. バーチャル広告の料金はいくらですか?
公開されていません。ソフトバンクのスポーツバーチャル広告のページでも、料金と空いている枠は問い合わせで案内するとしています(2026年10月18日確認)。現地の看板の料金と比べたい場合は、料金を公表している球場やクラブの募集要項が目安になります。
スポーツのバーチャル広告のまとめ
バーチャル広告は、看板を作らずに中継の視聴者へ広告を届けられる方法です。スポーツを使った販促の全体像はスポーツマーケティングの定義と事例にまとめています。この記事の要点を振り返ります。
- 中継の映像に広告を合成して配信する仕組みで、会場の観客には見えない
- 日本では2021年にソフトバンクがプロ野球とBリーグのネット中継で始めた
- 海外のサッカーでは、国ごとに看板を差し替えて売り分ける使い方が進んでいる
- 看板の制作がいらず、キャンペーンに合わせて差し替えられるのが企業の利点
- 出す前に、配信先・売り手と権利・業種の重なり・見せ方・効果の測り方の5点を確かめる
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