スポーツ協賛の稟議書は、目的、相手を選んだ理由、金額と支払い、勘定科目、得られる権利、効果の測り方、期間と見直し、リスクの確認の8項目を1枚にまとめて書きます。決裁者が知りたいのは「なぜ今この相手なのか」と「1年後にどう判断すればよいか」の2つなので、相場との比較とやめる基準まで書いておくと差し戻されにくくなります。
地元のクラブから協賛の提案書が届き、上司に「稟議を上げておいて」と言われた。けれど協賛の稟議は前例がなく、何を書けば通るのか分からない。ここではそんな担当者に向けて、書く項目、記入例、決裁者が差し戻す理由を順に整理します。
協賛の稟議書に書く8項目|決裁者が見る点とセットで書く
協賛の稟議書は、相手の提案書を要約するだけでは足りません。決裁者が判断できるように、自社の側から見た目的と基準を書き足すのが要点です。8つの項目と、それぞれで決裁者が見る点をまとめると次のとおりです。
| 項目 | 書くこと | 決裁者が見る点 |
|---|---|---|
| ①目的 | 何のために協賛するか(1つに絞る) | 自社の事業とつながっているか |
| ②相手を選んだ理由 | なぜこのクラブ・選手・大会なのか | ほかの候補と比べたか |
| ③金額と支払い | 総額・内訳・支払いの時期と回数 | 相場と比べて妥当か |
| ④勘定科目と税 | 広告宣伝費・寄附金・交際費のどれか | 損金にできるか |
| ⑤得られる権利 | 看板・ロゴ使用・招待席など | 金額と釣り合っているか |
| ⑥効果の測り方 | 何を・いつ・どう測るか | 1年後に判断できるか |
| ⑦期間と見直し | 契約期間・更新・解約の条件 | やめるときに困らないか |
| ⑧リスクの確認 | 相手の確認・競合・不祥事時の扱い | 会社の評判を守れるか |
Human Soar 作成。項目の順番は、決裁者が読む順(なぜ→いくら→何が得られる→どう判断する)に合わせている
①目的|何のために協賛するかを1つに絞る
最初に書くのは、協賛で何を達成したいかです。認知を広げる、採用の応募を増やす、取引先との関係を深める、社員の一体感をつくるなど、目的が違えば選ぶ相手も測り方も変わります。複数書きたくなっても、主な目的は1つに絞ります。
国もスポーツを地域経済や他の産業と結びつける方針を掲げています。自社の事業とどうつながるのかを1文で言えれば、決裁者は「なぜ協賛するのか」で迷いません。
(参考)スポーツの成長産業化(第3期スポーツ基本計画) – スポーツ庁
②相手を選んだ理由|ほかの候補と比べた跡を残す
提案を受けた相手1つだけを見て書くと、決裁者から「ほかでは駄目なのか」と聞かれます。地元の別のクラブ、別の競技、協賛以外の広告など、少なくとも2〜3の候補と比べた結果を短く書きます。
選んだ理由は、本拠地が同じ、ファンの年齢層が採用したい層と重なる、といった目的とつながる事実で書きます。ファン層の数字は相手の公表資料から引き、資料を添付します。
③金額と支払い|相場と比べて書く
総額だけでなく、何にいくらかかるかの内訳と、支払いの時期と回数を書きます。金額が妥当かどうかは、料金を公表しているほかのクラブの同じ種類の権利と比べると示しやすくなります。
看板の料金は、自治体の球場の年6万円から、プロのクラブが公表している年88万円からの例まで幅があります。比べ方はスタジアム広告の料金で、公表料金の一覧は下の記事で整理しています。
あわせて読みたいスポーツスポンサー料の相場|29クラブの公表料金と企業の目安›
④勘定科目と税|見返りの中身で科目が変わる
協賛金の科目は、何の見返りがあるかで変わります。国税庁は、事業に直接関係のある広告宣伝の費用は寄附金から除かれるとしています。一方、見返りのない金銭の贈与は寄附金になり、普通法人の一般の寄附金は損金にできる額に上限があります。
招待券を取引先に配るなど、得意先をもてなす部分は交際費等になることがあります。資本金1億円以下の法人は、年800万円までか、飲食費の50%までを損金にできる扱いです。稟議書には想定する科目と理由を書き、最終的な判断は経理や税理士に確認します。
あわせて読みたいスポンサー料の勘定科目|企業のスポーツ協賛の3区分と消費税›
(参考)No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算 – 国税庁
(参考)No.5262 交際費等と寄附金との区分 – 国税庁
(参考)No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算 – 国税庁
⑤得られる権利|金額と釣り合っているかを示す
看板の掲出、ロゴの使用、招待席、選手の派遣など、協賛で得られる権利を一覧にします。とくにロゴやクラブ名を自社の広告や商品に使えるかどうかは、提案書に書かれていないことが多いので、相手に確認してから書きます。
同じ業種の企業がほかに協賛していないかも、このとき確かめます。競合と並ぶかどうかは一業種一社の考え方で整理しています。
⑥効果の測り方|1年後に判断できる指標を選ぶ
効果は、①の目的に合わせて測るものを選びます。採用が目的なら応募者に知ったきっかけを聞く、認知が目的なら協賛の前後で認知度を調べる、といった形です。何を、いつ、どう測るかまで書いておくと、1年後の判断の材料になります。
露出の量だけで効果を説明すると、決裁者は「それで売上にどうつながるのか」を判断できません。指標の選び方はスポーツスポンサーシップの効果測定の方法で詳しく扱っています。
⑦期間と見直し|やめる基準を先に書く
契約期間、自動で更新されるかどうか、途中で解約できる条件と違約金の有無を書きます。そのうえで、⑥の指標がどこに届かなければ更新しないか、という見直しの基準を書いておきます。
協賛は一度始めると、やめると相手やファンとの関係が気になって続けがちです。始める前にやめる基準を決めておけば、毎年の判断が感情ではなく数字でできます。
⑧リスクの確認|相手の確認と不祥事のときの扱い
相手の団体や運営会社に問題がないかを確認し、その結果を書きます。政府の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(2007年6月19日、犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)は、反社会的勢力との関係を一切遮断することを企業に求めています。契約書の案に排除の条項が入っているかも確かめます。
あわせて、選手やクラブに不祥事があったときに契約を解除できるか、社名の露出を止められるかを確認します。何かあってから慌てないよう、稟議の段階で条項の有無を書いておきます。
(参考)企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について – 法務省
Q. 協賛金は稟議書でどの勘定科目にすればよいですか?
看板や社名の表示など宣伝の見返りがあれば広告宣伝費、見返りのない支出なら寄附金、取引先の招待に使う部分は交際費になるのが一般的な整理です。寄附金と交際費は損金にできる額に上限があるので、稟議書には見返りの中身と想定する科目をあわせて書き、判断は経理や税理士に確認します。
協賛の稟議書の記入例|地元クラブへの看板協賛
8つの項目を実際に埋めると、次のような形になります。採用の応募者を増やすことを目的に、本社のある市のクラブに看板で協賛する場合の例です。
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 件名 | 〇〇FC(地域リーグ)へのスタジアム看板協賛について |
| 目的 | 本社のある〇〇市で、新卒採用の応募者を増やすため |
| 相手を選んだ理由 | 本社と同じ市を本拠地とし、来場者の約4割が20〜30代と公表しているため(相手の公表資料を添付) |
| 金額と支払い | 年額50万円(税別)。契約時に一括で支払い |
| 勘定科目 | 広告宣伝費(看板に社名を表示するため)。招待券の取引先への配布分は交際費として区分 |
| 得られる権利 | ホームゲームでの看板掲出、公式サイトへのロゴ掲載、招待券年20枚 |
| 効果の測り方 | 採用説明会の参加者に「クラブで当社を知ったか」を聞き、前年と比べる |
| 期間と見直し | 1年契約。応募者のうちクラブ経由が5%に届かなければ、翌年は更新しない |
| リスクの確認 | 相手の運営会社の確認を実施済み。契約書に反社会的勢力の排除と、不祥事の際の解除の条項あり |
記入例(地元クラブへの看板協賛)。クラブ名・金額・数値は説明のための例で、実在のクラブや料金を示すものではない
この例で大事なのは、目的の「採用」が、相手を選んだ理由、効果の測り方、見直しの基準まで一本の線でつながっていることです。どれか1つが別の目的を向いていると、決裁者は判断に迷います。
添付資料は、相手の提案書、料金表または見積書、契約書の案、相手の団体の概要、ほかのクラブと比べた表の5つを用意すると、質問で差し戻される回数が減ります。
Q. 協賛の稟議書にはどんな資料を添付しますか?
相手から受け取った協賛の提案書、料金表または見積書、契約書の案、相手の団体の概要がわかる資料の4つが基本です。金額の妥当性を示すために、ほかのクラブの公表料金と比べた表を付けると判断が早くなります。
協賛の稟議を通すまでの進め方|提案から決裁まで5段階

稟議書は、書き始める前の準備でほぼ決まります。提案を受けたら、まず社内で目的を決め、相手と条件を詰めてから稟議書を書くのが順番です。目的が決まらないまま書き始めると、項目どうしがつながらなくなります。
相手との条件の詰めでは、提案書に書かれていない権利(ロゴの使用、競合の扱い、解約の条件)を必ず聞きます。ここで得た回答をそのまま稟議書の⑤⑦⑧に使えます。
決裁の前に、経理と法務に科目と契約書の案を見てもらっておくと、決裁者からの質問に担当者がすぐ答えられます。協賛の始まる時期から逆算して、2〜3か月前には動き始めるのが目安です。
Q. 少額の協賛でも稟議は必要ですか?
必要かどうかは、会社の決裁権限の規程で決まります。ただ、金額が小さくても毎年続く協賛は合計が大きくなり、相手の確認や見直しの基準も必要です。少額でも目的と見直しの時期だけは書面に残しておくと、担当者が替わっても判断を引き継げます。
協賛の稟議が差し戻される3つの理由

協賛の稟議が差し戻されるときは、決裁者が「来年どう判断すればよいか」を読み取れないことがほとんどです。よくある3つの理由と、書き直し方を整理します。
効果を露出の量だけで説明している
「看板がテレビに何秒映る」「来場者が何万人」だけでは、自社の目的にどうつながるかが見えません。露出の量は書いてよいですが、その先の指標(認知度、応募者数、商談の数など)を1つ足します。
金額の根拠が相手の提案書だけ
提案書の金額をそのまま書くと、高いのか安いのかを決裁者が判断できません。料金を公表しているほかのクラブの同じ種類の権利と並べて、相場の中でどこに位置するかを示します。
やめる基準が書かれていない
期間と更新の条件だけでは、続けるかやめるかの判断ができません。「この数字に届かなければ更新しない」という基準を書くと、決裁者は始めることへの不安が小さくなります。
協賛を広告の枠を買うだけで終わらせず、一緒に企画をつくる形に広げる方法は、スポーツマーケティングの定義と事例で整理しています。
Q. 協賛の稟議が差し戻されるのはどんなときですか?
多いのは、効果を露出の量だけで説明している、金額の根拠が相手の提案書だけ、やめる基準が書かれていない、の3つです。どれも決裁者が「来年どう判断すればよいか」を読み取れないことが原因なので、比較と見直しの基準を足すと通りやすくなります。
スポーツ協賛の稟議書の書き方のまとめ
協賛の稟議書は、相手の提案を通すための書類ではなく、自社が判断するための書類です。この記事の要点を振り返ります。
- 目的・相手を選んだ理由・金額と支払い・科目・権利・効果の測り方・期間と見直し・リスクの8項目を1枚にまとめる
- 目的を1つに絞り、相手選び・測り方・見直しの基準まで同じ目的でつなげる
- 金額はほかのクラブの公表料金と比べ、科目は見返りの中身で決めて経理に確認する
- 反社会的勢力の排除と不祥事のときの解除の条項を、稟議の段階で確かめる
- 差し戻しを防ぐには、露出の先の指標・相場との比較・やめる基準の3つを書く
FREE DOCUMENT
関連する資料を無料でダウンロード




コメント