アスリートの食事量は「基礎代謝量×身体活動レベル」で決まります。出発点は、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の身体活動レベル「高い」で、1日あたり、18〜29歳の成人男性は3,000kcal、成人女性は2,250kcalです。
練習の後半に脚が止まる、シーズン中に体重が少しずつ落ちていく。そんな場面で最初に疑うのが食事量です。実業団やクラブの食事を見直すときも、アスリート社員の昼食を社員食堂で支えるときも、「何kcal食べれば足りるのか」が分からないと手が打てません。
この記事では、食事摂取基準と国立スポーツ科学センター(JISS)の資料をもとに、食事量の計算式、年代・性別別の早見表、除脂肪量からの試算、足りないサイン、減量・増量のときの調整幅、そして企業ができる食事支援までを順に整理します。
アスリートの食事量は基礎代謝×活動レベルで決まる

1日に必要なエネルギー量は、じっとしていても消費する基礎代謝量に、身体活動レベル(PAL)という係数をかけて求めます。食事摂取基準(2025年版)は、18〜29歳と30〜49歳の身体活動レベルを「低い」1.50、「ふつう」1.75、「高い」2.00の3区分で示しています。
食事摂取基準は健康増進法に基づき、国民が摂取することが望ましいエネルギーと栄養素の量を定めたもので、5年ごとに改定されます。2025年版の報告書は2024年10月11日に公表されました。アスリート専用の基準ではない点を押さえたうえで使います。栄養の全体像はスポーツ栄養学の基礎にまとめています。
基礎代謝量はJISS式の28.5×除脂肪量で見積もる
国立スポーツ科学センターの栄養管理の報告では、基礎代謝量(BMR)を「28.5kcal×除脂肪量(kg)」で推定するJISS式が紹介されています。除脂肪量とは、体重から体脂肪を除いた重さのことです。
この式は、除脂肪量がおよそ50kg以下のエリート男子競技者では実測値より低く出るとされています。女子競技者向けには、田口らが「27.5kcal×除脂肪量(kg)+5」という別の式を示しています。体組成計で除脂肪量を測れる環境なら、体重だけで計算するより個人差を拾えます。
活動レベルは「高い」を起点に体重の推移で調整する
日本スポーツ振興センターのFemale Sport ナビは、成人アスリートの必要量を示す表に、身体活動レベル「高い」の値を使っています。一方で食事摂取基準は、個人のエネルギー必要量を正確に推定するのは難しいため、過不足の判定には推定値ではなく体重の変化やBMIを使うことが望ましいとしています。
つまり、計算で出した値は仮の出発点です。月に1回は体重とBMIの推移を見て、増減に合わせて上下させる前提で使います。
(参考)成人アスリートの身体的・栄養学的特徴(2026年3月19日更新) – 日本スポーツ振興センター Female Sport ナビ
(参考)「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の策定ポイント(2025年2月) – 厚生労働省
(参考)「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(2024年10月11日公表) – 厚生労働省
(参考)ワーキンググループでの作業を踏まえた各論の主な変更点(2023年12月12日) – 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会ワーキンググループ
Q. アスリートの1日の食事量は何kcalが目安ですか?
18〜29歳の成人では、男性で約3,000kcal、女性で約2,250kcalが目安です。これは食事摂取基準(2025年版)の身体活動レベル「高い」の推定エネルギー必要量です。アスリート専用の基準ではなく、競技・体格・練習量で変わるため、体重の推移を見ながら調整します。
年代・性別別の推定エネルギー必要量は1,700〜3,150kcal
食事摂取基準(2025年版)が示す推定エネルギー必要量を、18〜49歳の男女と3つの活動レベルで並べると次のとおりです。アスリートの食事量を考えるときの、いちばん外側の枠として使えます。
| 活動レベル | 男性18〜29歳 | 男性30〜49歳 | 女性18〜29歳 | 女性30〜49歳 |
|---|---|---|---|---|
| 低い | 2,250 | 2,350 | 1,700 | 1,750 |
| ふつう | 2,600 | 2,750 | 1,950 | 2,050 |
| 高い | 3,000 | 3,150 | 2,250 | 2,350 |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント」(2025年2月)の参考表2から、18〜49歳の区分をHuman Soarが抜粋して整理。単位はkcal/日。
低い|男性2,250〜2,350kcal・女性1,700〜1,750kcal
食事摂取基準では、活動レベル「低い」は自宅にいてほとんど外出しない人に相当すると説明されています。競技者の休養日にこの値を当てはめてよいかは、体重の推移で確かめる必要があります。この行は、食事量の下限を確認する参考値として読んでください。
(参考)「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の策定ポイント(2025年2月) – 厚生労働省
ふつう|男性2,600〜2,750kcal・女性1,950〜2,050kcal
「ふつう」は、自立して日常生活を送る人に相当します。練習の少ない移行期や、仕事をしながら競技を続ける社員アスリートの、練習のない日の目安になります。社員食堂の標準メニューを設計するときの基準も、この行です。
高い|男性3,000〜3,150kcal・女性2,250〜2,350kcal
日本スポーツ振興センターが成人アスリートの必要量に使っているのが、この行です。「ふつう」との差は、18〜29歳で男性400kcal、女性300kcalあります。この差を補食で埋めるのか、主食の量で埋めるのかを決めることが、食事量の設計の中心になります。
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(参考)成人アスリートの身体的・栄養学的特徴(2026年3月19日更新) – 日本スポーツ振興センター Female Sport ナビ
除脂肪量から試算した食事量は約2,500〜4,000kcal
体組成計で除脂肪量が分かる場合は、JISS式で基礎代謝量を出し、身体活動レベルをかけて試算できます。ここでは除脂肪量50kg・60kg・70kgの3パターンに、活動レベル「ふつう」(1.75)と「高い」(2.00)をかけました。
| 除脂肪量 | 基礎代謝量(28.5×除脂肪量) | ×1.75(ふつう) | ×2.00(高い) |
|---|---|---|---|
| 50kg | 1,425 | 2,494 | 2,850 |
| 60kg | 1,710 | 2,993 | 3,420 |
| 70kg | 1,995 | 3,491 | 3,990 |
出典・計算方法:Human Soar試算。国立スポーツ科学センターのJISS式(基礎代謝量=28.5kcal×除脂肪量)に、食事摂取基準(2025年版)の身体活動レベル1.75・2.00をかけ、小数点以下を四捨五入。単位はkcal/日。実測値ではありません。
除脂肪量50kg|2,494〜2,850kcal
小柄な選手のゾーンです。ただしJISS式は、除脂肪量が50kg以下の男子エリート競技者では実測より低く出るとされ、女子には別の式が示されています。この行は下振れしやすい試算なので、体重が落ちるようなら上乗せする前提で使ってください。
除脂肪量60kg|2,993〜3,420kcal
食事摂取基準の「高い」(18〜29歳男性で3,000kcal)と近い水準です。JISS式に「高い」の2.00をかけた試算は3,420kcalで、食事摂取基準の値より約420kcal多くなります。体格と練習量をふまえると、一般の基準だけでは足りなくなる場合があるということです。
(参考)ワーキンググループでの作業を踏まえた各論の主な変更点(2023年12月12日) – 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会ワーキンググループ
除脂肪量70kg|3,491〜3,990kcal
大柄な選手は4,000kcal近くになります。1回の食事で食べきれる量には限りがあるため、3食に補食を組み合わせて分ける設計が必要です。補食は、3度の食事では摂りきれないエネルギーや栄養素を補う役割があります。
(参考)アスリートにとっての補食(2025年4月24日更新) – 日本スポーツ振興センター Female Sport ナビ
競技タイプで変わるのは食事量より配分|たんぱく質は体重1kgあたり1.5〜2.0g
エネルギー量が決まったら、次は配分です。国立スポーツ科学センターは、2003〜2004年のプロジェクトで競技タイプ別のたんぱく質摂取の目安量を設定しました。海外の文献をもとにした値で、日本人の実測データは含まれていません。
日本人競技者の実際の摂取量は、平均1.6±0.5g/kg体重/日(女子1.5±0.4、男子1.8±0.5)と報告されています。目安との差を見ながら、自分の競技と体重に当てはめます。
瞬発系は体重1kgあたり2.0g|体重60kgで120g
短距離走のような瞬発系の目安は、2.0g/kg体重/日です。体重60kgの選手なら、1日120gになります。ほかの報告では、筋力系は約1.3g/kg体重/日とされており、目安には幅があります。
球技系は体重1kgあたり1.75g|体重60kgで105g
球技系の目安は、1.75g/kg体重/日です。体重60kgなら105gで、瞬発系と持久系のちょうど中間にあたります。
持久系は体重1kgあたり1.5g|体重60kgで90g
持久系の目安は、1.5g/kg体重/日で、体重60kgなら90gです。別の報告では持久系は約1.1g/kg体重/日、IAAFの2007年のコンセンサスでは約1.7g/kg体重/日とされています。摂取のタイミングについては、タンパク質摂取タイミングの考え方で整理しています。
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Q. アスリートのたんぱく質は1日何g摂ればよいですか?
国立スポーツ科学センターの目安では、体重1kgあたり瞬発系2.0g、球技系1.75g、持久系1.5gです。体重60kgなら、それぞれ120g・105g・90gになります。海外文献をもとにした値のため、体重の推移を見て調整します。
食事量が足りないサインは体格の数値と食べ方の変化に出る

食事量が足りない状態とは、運動によるエネルギー消費に対して、食事などによる摂取エネルギーが不足した状態です。利用可能エネルギーは「エネルギー摂取量−運動によるエネルギー消費量」で表します。国立スポーツ科学センターの資料では、この不足が続くと、月経に関わるホルモンの分泌や骨代謝を含む身体機能に影響すると考えられています。
体格の数値|18歳未満は標準体重の90%未満・18歳以上はBMI18.5未満
日本スポーツ振興センターのFemale Sport ナビは、体格の目安を年齢で分けています。18歳未満は標準体重の90%未満、18歳以上はBMIが18.5kg/m²未満が、食事量を見直すサインです。15歳以上で平田式を使う場合は、標準体重の85%を下回ったとき、食事量や体重への意識を見直すよう勧めています。
(参考)利用可能エネルギー不足を改善するには?利用可能エネルギー不足の改善法(2025年4月24日更新) – 日本スポーツ振興センター Female Sport ナビ
行動のサイン|体重を減らす意識ばかりで練習が増えても食事量が同じ
体重を減らすことばかり意識している、運動量や強度が増えても食事量を変えない、特定の食品をあえて避けている。この3つが、不足につながる食べ方として挙げられています。女性アスリートでは、利用可能エネルギー不足が無月経や骨粗しょう症のリスクにつながり、「女性アスリートの三主徴」のひとつとされています。
ただし、スポーツの現場でこの状態を確認するのは難しいとされています。体重と食事内容を定期的に記録しておくことが、早く気づく近道です。
(参考)5.女性アスリートの三主徴(Low energy availabilityとは) – 日本スポーツ振興センター 国立スポーツ科学センター
追加するなら1日300〜600kcal|補食と朝食から増やす
運動量が変わらない場合の改善策として、1日あたり300〜600kcalの追加が示されています。1日3食をきちんと食べ、特に朝食を大切にします。練習の前後や練習中に補食で水分とエネルギーを補い、主食の重量を計って、特に夕食の量に注意します。
(参考)利用可能エネルギー不足を改善するには?利用可能エネルギー不足の改善法(2025年4月24日更新) – 日本スポーツ振興センター Female Sport ナビ
Q. アスリートの食事量が足りないサインは何ですか?
18歳以上ならBMIが18.5kg/m²未満、18歳未満なら標準体重の90%未満が、食事量を見直す目安です。体重を減らすことばかり意識する、練習が増えても食事量を変えない、特定の食品を避けるといった食べ方も、不足につながるサインです。
減量・増量のときの食事量は週0.5〜1%と+500〜1,000kcalが調整幅
食事量は、体重を維持したいのか、落としたいのか、増やしたいのかで変わります。国立スポーツ科学センターのウエイトコントロールガイドブックは、エネルギーバランスを基本に、減量と増量のペースを示しています。
減量は週に体重の0.5〜1%のペースで進める
体脂肪の減少を目的とするゆっくり減量は、1週間に体重の0.5〜1%のペースで計画します。体重70kgの選手なら、1週間に0.3〜0.7kg、1か月に1.2〜2.8kgが理想とされています。体脂肪1kgの減量には約9,500kcalのマイナスが必要で、ガイドブックの計画例では、体重維持時より1日約900kcal少なく摂取する設定が示されています。
1週間から数日で体重の5%以上を落とす急速減量は、ゆっくり減量とは区別して定義されています。シーズン中の食事量を決めるときは、どちらの減量なのかをまず分けて考えます。
増量は消費エネルギーより500〜1,000kcal多く摂る
増量では、1日に消費するエネルギーより500〜1,000kcal多く摂取します。除脂肪量の増加速度の目安は1週間に0.25〜0.5kgで、たんぱく質は体重1kgあたり1.6〜2.4gが目安です。増量期間は2〜3か月以上で、オフシーズンに集中的に行うことが推奨されています。
(参考)体重階級制競技のためのウエイトコントロールガイドブック(2019年) – 日本スポーツ振興センター 国立スポーツ科学センター
Q. 減量中の食事量は、どれくらい減らしてよいですか?
ゆっくり減量なら、1週間に体重の0.5〜1%のペースが目安です。体重70kgの選手で1週間に0.3〜0.7kgにあたります。1週間から数日で体重の5%以上を落とす急速減量とは区別して計画します。
企業が選手・従業員の食事支援に活かす3つの視点

ここまでの数字は、企業が食事支援を設計するときにも使えます。食事摂取基準は国民全体の基準で、18〜49歳のBMI目標範囲は18.5〜24.9です。一般の従業員向けは「ふつう」、練習量の多いアスリート社員や実業団選手は「高い」を出発点にする、といった区分を先に決めておくと、食堂や補食の量を説明しやすくなります。
提供する|食堂の主食量と補食で必要量を確保する
補食は、3度の食事では摂りきれないエネルギーや栄養素を補うものです。トレーニングの2〜3時間前か直後にとるとよいとされ、朝・昼・夕の食事に影響が出ないようにすることが大切です。菓子や清涼飲料水とは区別して、補食として選べる食品を用意しておきます。
(参考)アスリートにとっての補食(2025年4月24日更新) – 日本スポーツ振興センター Female Sport ナビ
測る|体重とBMIを定点で記録する
食事摂取基準は、エネルギーの過不足の判定に体重の変化やBMIを使うことを勧めています。週1回、同じ条件で体重を測り、食事の記録とあわせて残します。記録の手段は、スポーツ栄養管理アプリの比較で選び方を整理しています。
(参考)「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の策定ポイント(2025年2月) – 厚生労働省
相談する|管理栄養士・スポーツ栄養士につなぐ窓口を決める
利用可能エネルギー不足は、スポーツの現場で確認するのが難しいとされています。計算値と体重の推移が合わないときに、個別に調整できる相談先を決めておくと安心です。外部の専門家を招く場合の内容と効果は、スポーツ栄養士の企業研修で解説しています。
(参考)利用可能エネルギー不足を改善するには?利用可能エネルギー不足の改善法(2025年4月24日更新) – 日本スポーツ振興センター Female Sport ナビ
Q. 一般の従業員にも、アスリートと同じ食事量でよいですか?
同じにする必要はありません。一般の従業員は食事摂取基準の「ふつう」(18〜49歳で男性2,600〜2,750kcal、女性1,950〜2,050kcal)が基準です。練習量の多いアスリート社員は「高い」を出発点にして、体重の推移で調整します。
まとめ|アスリートの食事量を決めるときの要点
食事量を決めるときの要点は、次の5つです。
- 食事量は「基礎代謝量×身体活動レベル」で求め、食事摂取基準の「高い」(18〜29歳で男性3,000kcal、女性2,250kcal)が出発点です。
- 除脂肪量が分かるなら、JISS式で試算できます。除脂肪量50〜70kgで、約2,500〜4,000kcalの幅になります。
- たんぱく質は競技タイプで変わり、目安は体重1kgあたり1.5〜2.0gです。
- 足りないサインは、BMI18.5未満などの体格の数値と、食べ方の変化に出ます。
- 減量は週に体重の0.5〜1%、増量は消費エネルギーより500〜1,000kcal多くが、調整幅の目安です。
最初の一歩は、対象者の体重を週1回、同じ条件で測ることです。試算値と体重の推移を並べて見れば、食事量が足りているかどうかが数字で分かります。
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