非認知能力の測定方法とツール|企業の人材評価とスポーツ経験

非認知能力の測定方法とツール|企業の人材評価とスポーツ経験 スポーツ研修

非認知能力の測定方法は、大きく分けて「本人が答える質問紙」「周りの人が答える質問紙」「行動課題・行動観察」の3つです。どの方法にも偏りがあるため、1つのスコアで個人の良し悪しを決めず、目的を決めたうえで2つ以上の情報を組み合わせて使うのが基本になります。

採用面接で「粘り強そう」「協調性がありそう」と感じても、その印象を何で裏づけるかで手が止まる場面は多いはずです。部活動の経歴を聞いて評価を上げたものの、入社後の働きぶりとつながっていたのかを振り返る材料がない。そんな状態から抜け出すために、大人に使える公開の尺度(ツール)と、内閣府の研究所が適性検査のデータで確かめた結果を、企業の人材評価で使える手順に落とし込みます。

非認知能力は測定できるスキルとして定義されている|OECDの3つの条件

非認知能力は、OECDが「社会情動的スキル」と呼ぶもので、目標の達成・他者との協働・感情の管理に関わる力を指します。OECDはスキルを「生産性」「測定可能性」「成長可能性」の3つの特徴をもつ個人の性質と定義しており、測れることと伸ばせることが最初から前提になっています。

国立教育政策研究所が2017年3月にまとめた報告書は、このOECDの定義を紹介したうえで、経済学では非認知能力が認知能力以外のものを広く指すため、具体的な内容が見えにくいという課題があると整理しています。何を測るのかを先に決めないと、測定そのものが始まらないということですね。

同じ報告書は、測定の目的は子どもたちの全体的な特徴を知ることにあり、個々の子どもの状態の評価に向けたものではない、と注意書きを添えています。対象は子どもですが、企業が個人の評価に使うときにも同じ慎重さが要ります。子どもの発達と非認知能力の関係は、スポーツ教育と非認知能力の解説でも扱っています。

(参考)非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書(2017年3月) – 国立教育政策研究所

Q. 非認知能力は大人になってからも伸びますか?

OECDの定義では、スキルは環境や投資によって変化する「成長可能性」をもつものとされています。ただし、適性検査の中には比較的変化しにくい性格特性を測るものもあり、ツールごとに前提が違います。伸びを見たいなら、同じ尺度を同じ方法でくり返し使って変化を比べるのが確実です。

非認知能力の測定方法は3種類|それぞれの強みと偏り

非認知能力の測定方法は、本人による自己評定、上司や同僚による他者評定、行動課題・行動観察の3つに分けられます。米国の心理学者Duckworth氏らは2015年の論文で「No measure is perfect(完璧な測定法はない)」と書いたうえで、それぞれの長所と限界を並べています。

測定方法 測り方 強み 起きやすい偏り
自己評定の質問紙 本人が項目に答える 安く短時間で使え、成果をよく予測することも多い 判断の基準が人によって違う/よく見せる回答
他者評定の質問紙 上司・同僚などが答える 本人が気づかない行動を拾える 第一印象や全体の印象に引きずられる
行動課題・行動観察 課題や場面での行動を記録する 主観の判断に頼らない 場面が人工的になる/練習で点が上がる

出典:Duckworth & Yeager(2015)、国立教育政策研究所(2017)をもとにHuman Soar作成

自己評定の質問紙は判断の基準のずれに注意する

質問紙は安く、短時間で、結果が安定しており、多くの場合は客観的な成果をよく予測する方法です。弱点は、答える人ごとに「どのくらいなら当てはまると言えるか」の基準が違うことで、論文はこれを参照基準のバイアスと呼んでいます。

国際学力調査PISAの分析では、同じ国の中では勤勉性の自己評価が高い生徒ほど成績も高い一方、国の間で比べると、勤勉性の自己評価が高い国ほど数学と読解の成績が低いという逆転が見られました。部署ごとに求める水準が違う職場でも、同じ質問への答え方が部署によって変わる可能性があります。

(参考)Measurement Matters: Assessing Personal Qualities Other Than Cognitive Ability for Educational Purposes(2015) – Duckworth & Yeager, Educational Researcher

他者評定は全体の印象に引きずられやすい

他者評定は、本人が気づいていない行動を拾える一方、第一印象に引きずられて変化を小さく見積もったり、評価する人が見ている場面が限られたりします。「感じのいい人だから自制心も高いはず」というように、全体の印象が個別の評価に広がることもあります。

国立教育政策研究所の報告書は、自己報告の質問紙では偽の回答や社会的に望ましい回答をしようとする偏りを排除できないと指摘し、本人だけでなく教師・家族・友人など複数の情報を集める方法を挙げています。企業に置き換えれば、本人の回答に上司や同僚の評定を重ねることにあたります。

(参考)非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書(2017年3月) – 国立教育政策研究所

行動課題は偏りを避けられるが場面が人工的になる

行動課題は、主観の判断に頼らないため、判断の基準のずれやよく見せる回答を避けられます。ただし、課題という人工的な場面での行動は日常の行動とずれやすく、くり返すと練習で点が上がるという限界があります。

研修中のグループワークやロールプレイを観察するのは、この方法の企業版といえます。1回の場面で決めず、同じ観点で記録を重ねるほうが、たまたまの出来に引っ張られずに済みます。

(参考)Measurement Matters: Assessing Personal Qualities Other Than Cognitive Ability for Educational Purposes(2015) – Duckworth & Yeager, Educational Researcher

Q. 非認知能力の測定方法で一番正確なものはどれですか?

どれか1つが最も正確という方法はありません。質問紙は安く短時間で使えますが、判断の基準のずれや印象の影響を受けます。行動課題は偏りを避けられる一方で場面が人工的になるため、目的に合わせて2つ以上を組み合わせるのが基本です。

大人の非認知能力を測定するツール|公開されている尺度と枠組み4つ

大人の非認知能力を測定するツールとしては、学術誌で公開されている日本語版の尺度と、国が示した能力の枠組みが使えます。下の表は、論文と国・自治体の公式資料で中身を確かめられたものを、Human Soarが4つに絞って並べたものです。

名称 測るもの 項目数・構成 企業での使い方の目安
TIPI-J(日本語版Ten Item Personality Inventory) 性格の5因子(Big Five) 10項目(5因子×各2項目) 短時間で性格の全体像をつかむ
日本語版Grit-S尺度 やり抜く力(粘り強さと一貫性) 8項目・2因子 長期の目標に向かう力を見たい場面
社会人基礎力(経済産業省) 職場で求められる基礎的な力 3つの能力・12の能力要素 何を測るかを決める物差し
OECD社会情動的スキルに関する調査(SSES) 社会情動的スキル 5領域・15スキル 10歳・15歳が対象のため分類の参考にする

出典:小塩ほか(2012)、西川ほか(2015)、経済産業省、群馬県・ヘルシンキ市の公表資料をもとにHuman Soar作成

TIPI-Jは10項目で性格の5因子をつかむ

TIPI-Jは、小塩真司氏らが2012年に作った日本語版の短い性格尺度で、外向性・協調性・勤勉性・神経症傾向・開放性の5因子を、それぞれ2項目、合計10項目で測ります。作成の研究は902名を対象に行われ、各因子の2項目の間に有意な相関があり、くり返し測っても結果が安定していることが確かめられています。

注目したいのは、本人の評定と友人による評定の関係が、外向性と勤勉性では中程度の相関だったと報告されている点です。周りから見える特性と見えにくい特性があるということで、本人の回答と上司の評定を並べるときの読み方の手がかりになります。

(参考)日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)作成の試み(2012) – パーソナリティ研究

日本語版Grit-Sは粘り強さを8項目で測る

グリット(やり抜く力)は、Duckworth氏らが2007年に「長期的な目標への粘り強さと情熱」と定義した特性です。2009年には原版より4項目少ない短縮版Grit-Sが作られ、本人が答える版に加えて周りの人が答える版も用意されました。大人では、Grit-Sの得点が学歴の高さや転職回数の少なさと関連していたと報告されています。

日本語版は西川一二氏らが2015年に作成し、大学生1,043名の回答で2因子の構造を確かめています。一方、2007年の研究では、グリットが説明した成功指標のばらつきは平均4%で、性格の勤勉性とは高い相関がありました。グリットの得点だけで成果を言い当てることはできないので、他の情報と並べて使う前提で取り入れてください。

(参考)日本語版Short Grit (Grit-S)尺度の作成(2015) – パーソナリティ研究

(参考)Development and validation of the Short Grit Scale (Grit-S)(2009) – Journal of Personality Assessment(Europe PMC)

社会人基礎力は測る項目を決める物差しになる

社会人基礎力は、経済産業省が2006年に提唱した「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」で、前に踏み出す力・考え抜く力・チームで働く力の3つの能力と12の能力要素からなります。2017年度には「人生100年時代の社会人基礎力」として定義し直され、振り返り(リフレクション)の大切さが加えられました。

12の能力要素は、主体性・働きかけ力・実行力、課題発見力・計画力・創造力、発信力・傾聴力・柔軟性・情況把握力・規律性・ストレスコントロール力です。経済産業省のページでは標準化された質問紙は示されていないので、尺度というより「自社が何を測るか」を決める物差しとして使うのが向いています。

(参考)社会人基礎力 – 経済産業省

OECDのSSESは子どもの調査なので分類の参考にとどめる

OECDの社会情動的スキルに関する調査(SSES)は、課題遂行・感情調整・他者との関わり・開放性・協働の5領域、15のスキルを測る国際調査です。2023年に集めたデータは10歳と15歳が対象で、大人は含まれていません。

日本からは群馬県が参加し、県内の公立・私立高校79校で、生徒3,528名、教員608名、校長79名が回答しました。調査は大人向けのツールではありませんが、責任感・自制心・ねばり強さ・共感といったスキルの分け方は、自社で測る項目を考えるときの参考になります。

(参考)OECD SSES Round2 国際報告書(第1弾)の概要 – 群馬県

(参考)Results of the OECD’s Survey on Social and Emotional Skills published: Helsinki included – City of Helsinki

Q. 大人の非認知能力を測定するツールにはどんなものがありますか?

学術誌で公開されている日本語版の尺度として、性格の5因子を10項目で測るTIPI-Jや、やり抜く力を8項目で測る日本語版Grit-S尺度があります。経済産業省の社会人基礎力は、測る項目を決める枠組みとして使えます。使う前に、論文に書かれた対象や利用の条件を確かめてください。

適性検査のスコアと入社後の評価|内閣府の研究所の分析が示した結果

非認知能力の測定と離職の関係|ミスマッチと認知能力の条件を示す分岐図

内閣府経済社会総合研究所の論文(2019年)は、5社の適性検査のデータを入社後1〜3年目の上司の評価や離職と照らし合わせ、仕事とのミスマッチは上司の評価に有意な影響を与えないという結果を示しました。離職が増えたのは、認知能力の低さとミスマッチが重なった場合でした。

分析に使われたのはSPI3で、性格特性18尺度と、言語・非言語の能力を測る検査です。論文は、この検査が比較的変化しにくい資質的な性格特性や知的能力を測っていると説明しています。データを提供したのはメーカー2社、情報処理業1社、対事業所サービス業2社で、従業員規模は1,000人から20,000人超でした。

ほかの要素を調整する前の集計でも、上司から高い評価を得た人の割合はミスマッチが高い人で0.57、低い人で0.56とほぼ同じで、離職した人の割合も0.10と0.11でした。論文は、ミスマッチの効果は一律ではなく、個人の性格特性に大きく左右されると結んでいます。

企業側の読み方としては、性格検査の1つのスコアで「合う・合わない」を切り分けるより、どの組み合わせで離職が増えるのかを見て、入社後の支援を厚くする相手を決めるほうが、このデータの使い方に近いといえます。

(参考)認知能力・非認知能力スコアを用いた人材活用(経済分析 第199号、2019年) – 内閣府経済社会総合研究所

スポーツ経験は面接の加点より行動の確認に使う

非認知能力の測定でスポーツ経験を扱う見方の比較図

スポーツ経験と非認知能力の関係は、今のところ相関が示されている段階です。OECDのワーキングペーパー日本語版(2015年)は、日本の横断的研究で、部活動への参加が高い水準の社会情動的スキルと関係していることを紹介しています。

紹介されている研究では、部活動に参加している高校生は目標の達成、意見の表明、他者との協働に関わるスキルが高く、運動部への参加と社会的スキルの間にも肯定的な関係が見られました。ただし横断研究なので、部活動がスキルを高めたのか、スキルの高い人が部活動を続けたのかまでは区別できません。

そのうえ、先に見たとおり他者評定は全体の印象に引きずられやすいものです。競技歴そのものを点数にせず、「試合に出られない時期に何をしたか」「チームの約束ごとをどう守ったか」のように、粘り強さや協働が表れた具体的な行動を聞き、測定結果と照らし合わせるのが現実的です。逆境から立ち直る力を伸ばす方法はレジリエンスを高める方法の解説、運動と心の状態の関係はスポーツと不安・抑うつの関係で詳しく扱っています。

あわせて読みたいアスリートのソフトスキルを研修で企業人材に転換›

(参考)家庭、学校、地域社会における社会情動的スキルの育成(OECDワーキングペーパー日本語版、2015年) – ベネッセ教育総合研究所

企業で非認知能力の測定を始める4つの手順

企業で非認知能力の測定を始める4つの手順の図

企業で非認知能力を測るときは、ツールを選ぶ前に目的を決め、測る力を絞り、2つ以上の方法を組み合わせ、同じ方法で変化を追う、の4つの手順で進めます。ここまで見た研究の注意点を、Human Soarが企業の人事の流れに並べ直したものです。

①目的を決める|採用・育成・組織診断で使い方が変わる

採用の選考に使うのか、研修の効果を見るのか、組織全体の傾向をつかむのかで、必要な精度も結果の見せ方も変わります。Duckworth氏らは、いまある測定法を学校どうしを比べる評価のような利害の大きい判断に使うことには慎重な立場をとっています。

個人の合否や処遇に直結する使い方ほど、1つの尺度に頼らない設計が必要です。まずは育成や組織診断のように、結果を本人の振り返りや施策の見直しに使う場面から始めると、測定への抵抗も小さく済みます。

(参考)Measurement Matters: Assessing Personal Qualities Other Than Cognitive Ability for Educational Purposes(2015) – Duckworth & Yeager, Educational Researcher

②測る力を絞る|社会人基礎力の12要素から選ぶ

非認知能力をまるごと測ろうとすると、範囲が広すぎて何も決まりません。社会人基礎力の12の能力要素や性格の5因子のような既存の枠組みから、自社の職務に関係の深いものを2〜3個選ぶと、質問紙の項目も面接での質問も決めやすくなります。

たとえば営業職なら働きかけ力と実行力、企画職なら課題発見力と計画力、というように職種ごとに重みを変えておくと、同じ尺度でも結果の読み方がぶれにくくなります。

③方法を組み合わせる|本人の回答に上司の評定を重ねる

本人の質問紙に上司や同僚の評定を重ね、研修中の観察記録も加えると、1つの方法の偏りを別の方法で補えます。TIPI-Jの研究でも、本人と友人の評定の一致は特性によって差がありました。

本人と上司の評定が大きくずれた項目は、評価を下げる理由ではなく、面談で具体的な行動を確かめるきっかけとして扱います。

あわせて読みたい非認知能力の育成方法|スポーツを使う企業研修の設計›

④変化を追う|人的資本の開示項目とつなげる

測定は1回で終えず、研修の前後や半年ごとに同じ方法でくり返すと、育成の効果として読めるようになります。人的資本可視化指針(2022年)は、育成に関する開示事項の例として、研修時間、研修費用、研修参加率、リーダーシップの育成、研修と人材開発の効果などを挙げています。

指針に「非認知能力」という言葉は出てきませんが、研修と人材開発の効果を説明する材料の1つとして、同じ尺度の変化を記録しておくことはできます。研修への投資を効果につなげる考え方は、人的資本投資とスポーツを活かした事例で整理しています。

(参考)人的資本可視化指針(2022年8月) – 内閣官房 非財務情報可視化研究会

Q. 非認知能力の測定結果を採用の合否に使ってもよいですか?

1つの尺度のスコアだけで合否を決める使い方は避けたほうが安全です。質問紙は判断の基準のずれやよく見せる回答の影響を受け、内閣府経済社会総合研究所の分析でも、仕事とのミスマッチは入社後の上司の評価に有意な影響を与えていませんでした。面接での行動の確認など、ほかの情報と組み合わせて使ってください。

まとめ|非認知能力の測定は組み合わせと継続で偏りを補う

非認知能力は測れるスキルとして定義されていますが、どの測定方法にも偏りがあります。要点を振り返ります。

  • 測定方法は自己評定・他者評定・行動課題の3つで、完璧な方法はない
  • 大人向けにはTIPI-J(10項目)や日本語版Grit-S(8項目)などの公開尺度があり、社会人基礎力は測る項目を決める物差しになる
  • 内閣府の研究所の分析では、仕事とのミスマッチは上司の評価に有意な影響を与えず、離職が増えたのは認知能力の低さと重なった場合だった
  • スポーツ経験は加点の材料ではなく、具体的な行動を確かめる入り口として使う

まずは自社で測りたい力を2〜3個に絞り、次の研修の前後で同じ尺度をとってみることから始めてみてください。

あわせて読みたいスポーツに学ぶ人材育成|企業が活かす5つの視点›

元気な社員が、いちばんのマーケティングになる。

社員のウェルビーイングを高め、
その元気が自然と外に伝わる仕組みをつくります。

インナーマーケティングを知る →

About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

コメント

タイトルとURLをコピーしました