健康診断の問診票で「1回30分以上の運動を週2日以上」にチェックが入らない社員が、毎年同じ顔ぶれのまま並んでいる。ウォーキングイベントを企画しても、参加するのはもともと走っている人ばかり。そんな状況で「スポーツウェルネス」という言葉を目にして、自社の取り組みとどうつながるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
スポーツウェルネスとは、運動やスポーツを通じて、心身の健康だけでなく価値観や生きがいまで含めた「多元的な健康」を高める考え方です。企業にとっては、運動の実施率が平均を下回る働く世代に、職場の取り組みで運動の機会を届ける考え方として使えます。この記事では、言葉の意味と立教大学スポーツウエルネス学部の中身、働く世代の実施率データ、企業が使える国の制度、職場での始め方までを順に整理します。
スポーツウェルネスとは|運動を通じて多元的な健康を高める考え方

スポーツウェルネスは、スポーツを手段にして「ウェルネス」を高めることを指す言葉です。ウェルネスは病気がない状態にとどまらず、その人の生きがいまで含めた健康のとらえ方で、スポーツはそこへ近づくための身近な手段として位置づけられています。
この言葉を学部名に使っている立教大学は、ウエルネスを「その人の価値観や生きがいなどを含んだ多元的な健康観」と説明しています。同大学はこの考え方をもとに研究・教育を続けてきた学科を母体に、2023年にスポーツウエルネス学部を独立させました。なお、立教大学の学部名の正式な表記は「ウエルネス」です。
ウェルネスとウェルビーイングは指すものが違う
よく混同されるのが「ウェルビーイング」です。WHO憲章は健康を「complete physical, mental and social well-being」、日本WHO協会の訳で「完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態」と定義しており、ここで使われているのはウェルビーイングという語です。WHOがウェルネスを定義したわけではない点は押さえておきたいところです。
ウェルネスという語は、1950年代末に米国の公衆衛生学者ハルバート・ダンが「ハイレベル・ウェルネス」を論文で論じたことで広まったとされています。満たされた「状態」を表すウェルビーイングに対し、ウェルネスは本人が生活の中で健康を高めていく「方向」を表す言葉として使われることが多いと考えると、使い分けがしやすくなります(本記事の整理)。職場のウェルビーイング施策全体の考え方は、別の記事で詳しく扱っています。
あわせて読みたいスポーツウェルビーイングとは?データから読み解く企業・個人の実践設計›
(参考)Constitution of the World Health Organization – World Health Organization
(参考)世界保健機関(WHO)憲章とは – 公益社団法人日本WHO協会
スポーツには人間性を回復する役割があるという考え方
スポーツとウェルネスを結びつける背景には、スポーツをもともと心身を整える文化としてとらえる見方があります。立教大学スポーツウエルネス学部の学部長メッセージでは、スポーツは本来「人間性を回復」し、心身の健康を増進する人間教育の文化だったと説明されています。
勝ち負けや記録を競う競技スポーツだけでなく、体を動かして気分を切り替える、仲間と一緒に汗をかくといった日常の運動もスポーツウェルネスの対象になります。企業が従業員向けに用意する運動の機会も、この意味でのスポーツに含まれます。
(参考)学部長メッセージ・創設の理念 – 立教大学 スポーツウエルネス学部
Q. スポーツウェルネスとは何ですか?
運動やスポーツを通じて、心身の健康に加えて価値観や生きがいまで含めた「多元的な健康」を高めていく考え方です。立教大学はこの「ウエルネス」の考え方をもとに、2023年にスポーツウエルネス学部を設置しています。企業では、従業員の運動習慣づくりを健康経営の一部として進めるときの考え方として使えます。
スポーツウェルネスを学べる大学と専門学校|立教大学スポーツウエルネス学部の中身
スポーツウェルネスを名前に掲げる学部で、公式サイトで中身を確認できたのは立教大学スポーツウエルネス学部です。専門学校では、校名に「ウェルネス」を入れてスポーツ系の学科を置く学校があります。企業の立場では、健康づくりの専門人材がどこで育っているかを知る手がかりになります。
立教大学は2008年の学科を2023年に学部として独立させた
立教大学の沿革によると、2008年にコミュニティ福祉学部の中にスポーツウエルネス学科を設置し、2023年にスポーツウエルネス学部とスポーツウエルネス学研究科を設置しました。学部の英語名は College of Sport and Wellness で、新座キャンパスで学びます。
学部は「スポーツを基盤としたウエルネス社会構築に貢献できる人材を養成」することを教育の方針に掲げています。理念として「すべての人の生きる歓びのために」という言葉も示されており、競技者の育成だけでなく、一般の人の健康づくりまでを視野に入れた学部であることが分かります。
(参考)スポーツウエルネス学部・スポーツウエルネス学研究科の教育目的と各種方針 – 立教大学
学びは3領域で保健体育の教員免許と健康運動指導士を目指せる
学部はスポーツウエルネス学科の1学科で、「アスリートパフォーマンス領域」「ウエルネススポーツ領域」「環境・スポーツ教育領域」の3つの領域を学びます。学科のページでは、取得を目指せる資格として中学校・高等学校の保健体育の教員免許や、健康運動指導士の受験資格を挙げています。
健康運動指導士は、一人ひとりに合った運動の計画を作り、指導する専門職です。企業が社内で運動プログラムを始めるとき、外部の講師やインストラクターを選ぶ目安の一つとして、この資格を持つ人かどうかを確かめる方法があります。
(参考)スポーツウエルネス学部 スポーツウエルネス学科 – 立教大学
専門学校は校名にウェルネスを入れてスポーツ系の学科を置く
専門学校では、学校法人岩崎学園の「横浜スポーツ&医療ウェルネス専門学校」のように、校名にウェルネスを入れてスポーツ系の学科を置く学校があります。ただし、公式サイトで「スポーツウェルネス」という語を定義している専門学校は確認できませんでした。
大学や専門学校を進学先として比べる場合は、名称よりも、どの資格を目指せるか、どんな実習があるかを各校の公式サイトで確かめるのが確実です。企業がインターン生や新卒の受け入れ先として連携を考える場合も、同じ観点で学校を選べます。
(参考)横浜スポーツ&医療ウェルネス専門学校 – 学校法人岩崎学園
Q. スポーツウェルネス学部ではどんなことを学べますか?
立教大学スポーツウエルネス学部は、スポーツウエルネス学科の1学科で、アスリートパフォーマンス・ウエルネススポーツ・環境とスポーツ教育の3領域を学びます。取得を目指せる資格として、中学校・高等学校の保健体育の教員免許や健康運動指導士の受験資格を挙げています。
働く世代のスポーツ実施率は平均を下回る|企業がスポーツウェルネスに関わる理由

企業がスポーツウェルネスに関わる理由は、運動の機会が最も足りていないのが働く世代だからです。スポーツ庁が2026年3月11日に公表した令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」では、20歳以上の週1日以上のスポーツ実施率は51.7%で、20代〜50代の「子育て・働き盛り世代」で引き続き低い傾向が示されました。
同じ調査では、勤務先に運動・スポーツの取り組みがある就業者ほど、週1日以上運動している割合が高いことも分かっています。働く時間の長い世代にとって、職場は運動の機会を届けやすい場所だと言えます。
30代の実施率は45.7%で全年代で最も低い
令和7年度調査の年代別の週1日以上の実施率は、20代49.6%、30代45.7%、40代46.2%、50代47.4%で、いずれも20歳以上の平均51.7%を下回りました。60代は55.1%、70代は65.1%で、働く世代が退職後の世代より運動していない構図になっています。
調査は18〜79歳を対象にしたWebアンケートで、有効回収は40,000件、実施期間は2025年11月7日〜11月28日です。自社の従業員の年齢構成が20〜50代に偏っているなら、全国平均より運動している人が少ない前提で施策を考えるのが現実的です。年代別の数字の読み方は、別の記事でも詳しく解説しています。
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(参考)令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の概要 – スポーツ庁
勤務先に取り組みがある人の実施率は71.1%|ない人より25.9ポイント高い
同調査では、勤務先で運動・スポーツを活用した取り組みが「されている」就業者の週1日以上の実施率は71.1%、「されていない」就業者は45.2%でした。差は25.9ポイントです(本記事の計算値)。一方で、勤務先の取り組みは「何もしていない」が全体の64.5%を占め、取り組みを実施している割合は21.3%にとどまっています。
ただし、この数字は取り組みの有無と実施率を並べた集計で、取り組みが運動を増やしたことまでは示していません。もともと運動に前向きな会社や人が多い可能性もあります。だからこそ、自社で取り組む場合は、始める前と後の実施率を自分たちで測っておくことが効果を確かめる唯一の方法になります。
(参考)令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」の概要(就業者の運動・スポーツ実施状況) – スポーツ庁
Q. 職場で運動の取り組みをすると、従業員の運動は増えますか?
取り組みのある職場で働く人ほど運動している割合は高いものの、取り組みが運動を増やしたとまでは言えません。スポーツ庁の令和7年度調査では、勤務先に取り組みがある就業者の週1日以上の実施率は71.1%、ない就業者は45.2%でした。もともと運動に前向きな企業や人が多い可能性もあるため、自社で始める前後の実施率を測って確かめることが大切です。
企業のスポーツウェルネスに使える国の制度は3つ|認定と参画で取り組みを示す
企業がスポーツウェルネスに取り組むとき、外部に示す仕組みとして使える国の制度は、スポーツ庁のスポーツエールカンパニー、経済産業省の健康経営優良法人、スポーツ庁のSport in Lifeプロジェクトの3つです。それぞれ対象と中身が違うため、まず一覧で比べます。
| 制度 | 所管 | 中身 | 規模 |
|---|---|---|---|
| スポーツエールカンパニー | スポーツ庁 | 従業員のスポーツ活動の促進に積極的に取り組む団体を認定 | 2026年は1,635団体を認定 |
| 健康経営優良法人 | 経済産業省(認定は日本健康会議) | 従業員の健康管理を経営的な視点で実践する法人を認定 | 2026年は大規模3,765法人・中小規模23,085法人 |
| Sport in Lifeプロジェクト | スポーツ庁 | 生活の中にスポーツを取り入れる取り組みに団体として参画 | 参画団体5,898(2026年10月4日時点) |
出典:スポーツ庁「スポーツエールカンパニー2026」報道発表(2026年1月30日)、経済産業省「健康経営優良法人認定制度」(2026年3月9日発表分)、スポーツ庁「Sport in Lifeとは?」をもとに作成
3つは重ねて使えます。スポーツエールカンパニーは運動の取り組みそのもの、健康経営優良法人は健康管理の体制全体、Sport in Lifeは国の運動推進への参加を示すもので、示せる内容が異なります。
スポーツエールカンパニーは初年度の217社から1,635団体に増えた
スポーツエールカンパニーは、スポーツ庁が「従業員のスポーツ活動の促進に積極的に取り組む団体等」を認定する制度です。2017年の初年度は217社でしたが、2026年は過去最多の1,635団体が認定され、初年度の約7.5倍になりました(本記事の計算値)。2026年からは大学と国の機関も対象に加わっています。
対象になる取り組みは、朝や昼休みの体操・ストレッチ、階段の利用、徒歩・自転車通勤の奨励、スタンディングミーティングなど、スポーツ庁が「スポーツ競技に限らず」と示している幅広いものです。従業員のスポーツ実施率が70%以上なら「+(プラス)」の認定が付き、5回以上の認定で「ブロンズ」、7回以上で「シルバー」になります。
(参考)「スポーツエールカンパニー2026」過去最多の1,635団体を認定 – スポーツ庁
健康経営優良法人2026は中小規模法人部門で23,085法人が認定された
経済産業省の健康経営優良法人2026では、大規模法人部門で3,765法人、中小規模法人部門で23,085法人が認定されました(2026年3月9日発表)。認定期間は2027年3月31日までです。運動の機会づくりは、この認定で問われる健康づくりの施策の一つとして位置づけられます。
スポーツエールカンパニーが運動の取り組みに絞った認定であるのに対し、健康経営優良法人は健康診断や働き方を含めた体制全体を見る認定です。両方を視野に入れておくと、運動の施策を健康経営の計画の中で説明しやすくなります。
あわせて読みたい健康経営とは|認定要件・申請手順とスポーツ施策の入れ方›
Sport in Lifeプロジェクトには5,898団体が参画している
Sport in Lifeは、スポーツ庁が「生活の中にスポーツを」を掲げて進めるプロジェクトで、企業や自治体、団体が参画しています。公式サイトの表示では、2026年10月4日時点の参画団体数は5,898です。
認定のような審査を受ける前に、まず国の運動推進に加わっていることを示したい企業にとって入り口になる制度です。社内で運動の取り組みを始めたばかりの段階でも、参画を通じて方針を社外に示せます。
(参考)Sport in Lifeとは? – スポーツ庁 Sport in Lifeプロジェクト
職場でスポーツウェルネスを始める3段階|測る・足す・認定を受ける

職場でスポーツウェルネスを始めるなら、今の実施率を測り、競技に限らない運動を勤務の中に足し、続けた結果で認定を受けるという3段階で進めると、効果を確かめながら広げられます。いきなり大きなイベントを企画するより、日常の運動を増やすほうが参加する人の幅が広がります(本記事の整理)。施策全体の設計で失敗しやすい点はウェルビーイングとは?施策が失敗する理由と設計法でまとめています。
第1段階|健康診断の問診で今の運動習慣を測る
最初にやることは、従業員がどのくらい運動しているかを数字で把握することです。新しく調査を作らなくても、定期健康診断の問診にある運動習慣の質問の回答を集計すれば、部署や年代ごとの傾向が見えてきます。具体的な使い方は健康診断の運動習慣の質問を施策に生かす方法で解説しています。
この数字が、あとで取り組みの効果を確かめるときの基準になります。スポーツ庁の調査で見た「取り組みがある職場ほど実施率が高い」という関係を、自社で確かめるための出発点です。
第2段階|朝の体操や階段の利用など競技に限らない運動を足す
次に、勤務の流れの中に短い運動を組み込みます。スポーツエールカンパニーの対象例にある朝や昼休みの体操、階段の利用、徒歩・自転車通勤の奨励、立ったまま行う会議などは、道具も場所も要らず、運動が苦手な人でも参加しやすい取り組みです。
もう一歩進めるなら、社内の有志が集まって走るランニングクルーや、スポーツクラブの法人会員のように、勤務時間外に運動できる場を用意する方法もあります。小さな取り組みから始め、参加者の声を聞きながら広げるのが無理のない進め方です。
第3段階|実施率を測り直してスポーツエールカンパニーに申請する
取り組みを1年ほど続けたら、第1段階と同じ方法で実施率を測り直します。数字の変化を記録しておくと、社内で施策を続ける理由を説明する材料になり、スポーツエールカンパニーへの申請にも使えます。従業員の実施率が70%を超えていれば「+(プラス)」の認定も視野に入ります。
認定を受けると、2022年6月3日からはハローワークの求人票などにPRロゴマークを表示できます。運動に取り組む職場であることを、採用の場面でも伝えられるようになります。
Q. スポーツエールカンパニーに認定されると何ができますか?
2022年6月3日から、ハローワークの求人票などにスポーツエールカンパニーのPRロゴマークを表示できるようになっています。従業員のスポーツ実施率が70%以上の団体には「+(プラス)」の認定が付くため、採用の場面で運動に取り組む職場であることを示す材料になります。
まとめ|スポーツウェルネスは働く世代の運動不足を職場から補う考え方
スポーツウェルネスは、言葉の意味を知るだけでなく、職場の運動の機会づくりに置き換えて初めて企業の役に立ちます。この記事の要点を振り返ります。
- スポーツウェルネスは、運動やスポーツを通じて、生きがいまで含めた「多元的な健康」を高める考え方
- 立教大学は2008年の学科を母体に、2023年にスポーツウエルネス学部を設置した
- 20〜50代の週1日以上の実施率はいずれも平均51.7%を下回り、30代は45.7%で最も低い
- 勤務先に取り組みがある就業者の実施率は71.1%、ない就業者は45.2%(因果ではなく傾向)
- 職場では「測る・足す・認定を受ける」の3段階で、スポーツエールカンパニーなどの制度を使って進められる
まずは次の健康診断の問診データから、自社の従業員がどのくらい運動しているかを集計するところから始めてみてください。
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