社員のSNSを全面的に止めるのは現実的ではなく、禁止の一覧だけでは現場が判断できません。IOCが五輪の参加者に示す発信ルールの形を参考に、認める範囲と線引きを1枚の判断表にまとめ、機密の区分表と問題が起きたときの連絡手順まで整えます。
対象となるお客さま
- 社員のSNS利用のルールを見直したい人事・総務・法務の担当者
- 炎上や情報漏えいへの備えを任されている広報・情報セキュリティの担当者
- 部下から投稿の相談を受ける管理職を抱える事業責任者
よくあるお悩み
- 炎上や情報漏えいが心配だが、どこまでルールに書いてよいか分からない
- ガイドラインはあるのに、迷ったときに見られていない
- 問題のある投稿を見つけても、誰に伝えるかが決まっていない
課題|1件の投稿が、炎上と情報漏えいの両方につながる
総務省の平成27年版情報通信白書は、SNSでの不用意な投稿によって投稿者本人が非難にさらされる現象を取り上げ、共有機能で投稿が短時間に広がることと、スマートフォンの写真を簡単に載せられることを背景に挙げています。
国家公務員向けの資料ですが、総務省人事・恩給局の留意点(平成25年6月)も、SNSの特性を具体的に示しています。削除しても第三者に保存されて広がり続けるおそれがあること、匿名でも過去の発信などから本人や所属を特定されるおそれがあることです。個人の投稿のつもりでも、組織の評判に関わることがあります。
情報漏えいの面でも、備えが欠かせません。IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編では、「内部不正による情報漏えい等」が7位で、2016年以降11年続けて選ばれています。IPAの「組織における内部不正防止ガイドライン」第5版も、SNSに重要情報が書き込まれて漏えいするおそれを挙げています。
(参考)国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たっての留意点(平成25年6月) – 総務省人事・恩給局
原因|禁止の一覧だけでは、迷った場面に答えられない
社員の意識の低さだけが原因ではありません。ルールの作り方に、次の3つの原因があります。
- 場面に答えていない:「会社の信用を損なう発信をしない」という一文だけでは、職場で撮った写真や自社商品の感想をどう扱うかが決まりません。
- 何が機密かを示していない:IPAが公表した調査報告書は、重要な秘密を具体的に示して入社・異動・退職の時期に伝えることや、秘密の重要度を見分ける基準を明文化することを改善策に挙げています。
- 見つけた後の連絡先がない:同じ報告書のアンケートでは、秘密情報の不自然な扱いを目撃したときに全社責任者や経営層へ報告が上がるルートがある企業は34.4%、内部通報体制がある企業は26.3%でした。
同じアンケートで、経営層や責任者が高いと見ている漏えいリスクの1位は「誤送信/可搬媒体の紛失(不注意、ミス)」の59.1%です。SNSに限った数字ではありませんが、悪意のある人を止めるルールだけでは足りないことが分かります。迷った人が見て判断でき、失敗に気づいた人が連絡できる形が必要です。
(参考)内部不正防止対策・体制整備等に関する中小企業等の状況調査 調査報告書(令和6年3月、従業員21人以上の企業に属する回答者1,248件) – 独立行政法人情報処理推進機構
スポーツ知見|IOCは、認める範囲を先に示し、権利に関わる所だけ線を引く
IOC(国際オリンピック委員会)は、ミラノ・コルティナ2026冬季五輪の参加者に向けて「Social and Digital Media Guidelines」(2025年3月付)を出しました。本文は2ページです。冒頭に目的を置き、選手が大会での個人的な体験を共有できるようにしながら、IOCのメディア権利保有者の権利を守ると書いています。
- 対象で分ける:第1部は選手、第2部は選手以外の認定者です。選手は選手村で撮った動画を共有できますが、選手以外の認定者は選手村の動画を投稿できません。
- 認めることを先に書く:写真は個人のSNSやウェブサイトで共有できます。選手の音声・動画は1本2分までで、練習会場や選手村、開閉会式などで撮ったものを共有できます。
- 線は場面と形で引く:選手の場合、メダル授与式と競技の動画、ライブ配信、2分を超える動画は認めません。写真でも、商用の投稿、医療エリアやドーピング検査室などの場所を写したもの、AIを使ったものは認めません。
- 結果を書く:違反すると投稿が削除されることがあり、オリンピック憲章に沿った措置もありうると明記しています。
周知の方法も参考になります。各国・地域のオリンピック委員会の選手団向け参加条件の書式には、守るべき規則の1つとしてこのガイドラインが挙げられています。スイスのオリンピック委員会は選手向けに、できること(DO’S)としないこと(DON’TS)を2列に並べた1枚と問い合わせ先を公開しています。JOC(日本オリンピック委員会)も、選手の肖像使用に関するガイドラインで、スポンサーへの感謝投稿の「認められる」「認められない」例と、問い合わせ先の事務局を示しています。
(参考)Markenschutz und Rule 40 Milano Cortina 2026 Social Media Onepager(2026年2月版) – Swiss Olympic
(参考)第25回オリンピック冬季競技大会(2026/ミラノ・コルティナ)TEAM JAPAN選手等の肖像使用に関するガイドライン(2025年8月 ver1.0) – 公益財団法人日本オリンピック委員会
ただし、試合と仕事は同じではありません。五輪のルールは大会という限られた期間に、認定を受けた参加者へ向けたもので、主な目的はメディアの権利を守ることです。一方、社員の生活は期間で区切れません。総務省の留意点も、SNSの私的利用は本来、個人の自覚と責任で自由に行うものだと書いています。そこでルールの中身は写さず、形だけを使います。私的な発信を許可制にせず、会社の情報や立場と結びつく場面にだけ線を引きます。
解決策|発信を3つに分ける判断表に、機密の区分と連絡手順をそろえる
長い規程を増やすのではなく、迷った人がその場で確かめられる3つの道具を作ります。判断表では、発信を次の3つに分けます。
- 自由に発信してよい:会社名も業務の情報も出ない私的な発信です。会社は許可も確認も求めません。
- 確かめてから発信する:所属を明かす投稿、職場で撮った写真、自社の商品やサービスに触れる投稿です。
- 発信しない:機密の区分に当たる情報、顧客や同僚の個人情報や写真を本人の同意なく載せること、他人への誹謗中傷です。
「確かめてから」の中で特に注意したいのが、ステルスマーケティングの規制です。消費者庁のQ&Aは、従業員が自社商品の感想を投稿しただけで直ちに違反とはならないとしています。ただし、販売や開発に関わる役員・管理職・担当チームの一員が販売促進のために投稿すれば「事業者の表示」に当たると考えられ、「広告」などの明示が必要です。所属を書くだけでは足りるとは限りません。
機密の区分表は「公開」「社内限り」「秘密」のように情報を分け、判断表とつなげます。不正競争防止法の営業秘密は、秘密として管理されていることが要件の1つなので(第2条第6項)、区分はその土台にもなります。連絡手順は、投稿した本人と見つけた人の両方が使える窓口を1つ決めます。個人データの漏えいのおそれがあれば、個人情報保護委員会への報告が必要かも確かめます(個人情報保護法第26条、同法施行規則第7条)。
ルールの強さには労働法上の注意が要ります。懲戒の根拠にするなら、種類と程度を就業規則に定め(労働基準法第89条第9号)、周知します(同第106条)。作成や変更では労働者の過半数代表などの意見を聴きます(同第90条)。懲戒は客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠けば無効です(労働契約法第15条)。厚生労働省のモデル就業規則も、私生活上の行為については、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす場合を例に挙げています。組合活動や公益通報を妨げないことも明記します(労働組合法第7条、公益通報者保護法第3条・第5条)。個別の判断は弁護士や社会保険労務士に確認します。
(参考)ステルスマーケティングに関するQ&A(Q3・Q12) – 消費者庁
進め方|現場の迷う場面を集め、1部門で試してから全社に広げる
最初に集めるのは、禁止したい投稿ではなく、社員が迷う場面です。診断では、今の規程と過去の相談を読み、部門ごとに聞き取りをして、扱う情報と迷う場面を一覧にします。
設計・試行では、判断表・区分表・連絡手順の案を作り、法務や顧問の専門家の確認を受けたうえで、1部門で3か月使います。答えられなかった場面を集めて案を直します。定着では全社に広げ、入社・異動・退職の時期の説明に組み込み、年に1回見直します。
期間は目安です。判断表だけ、既存のガイドラインの診断だけといった始め方もご提案します。Human Soarは聞き取り、案の作成、説明資料の作成を担い、御社には規程と過去の相談の共有、試す部門の決定、就業規則に関わる場合の労働者側との手続きをお願いします。
成果物|支援が終わっても社内で更新できる5つの資料
どれも御社の情報と現場で集めた場面をもとに作ります。中心になるのは「発信の判断表」で、社員が投稿の前に確かめる1枚です。自由・確認・禁止の3区分に、御社でよくある場面の例を添えます。「機密の区分表」は、情報の種類ごとに区分と管理者を示し、判断表から参照します。
「問題が起きたときの連絡手順」は、窓口と、広報・法務・情報システム・経営への連絡の順番、投稿や画面の記録の残し方を1枚にしたものです。総務省の留意点が示すとおり、不適切な発信に気づいたら削除で終わらせず、相談や訂正につなげます。
「管理職向けの説明資料」は、部下から相談されたときの答え方と、私的なアカウントに踏み込まないための注意をまとめます。最後に「年次見直し手順」で、新しいSNSの機能や法令の改正、1年間の相談を反映する流れを決めます。IOCが大会ごとにガイドラインを出し直しているように、版と更新日を残します。
期待できる効果|経営・管理部門・現場の3つが変わる
経営にとっては、問題が起きたときに情報が早く上がり、初動を判断しやすくなります。人事・法務・広報は、会社が口を出す範囲と出さない範囲を説明でき、一件ごとの判断が担当者によってぶれにくくなります。現場の社員は、何を投稿してよいか、迷ったら誰に聞けばよいかが分かります。
見る数字は「判断に迷って窓口へ相談された件数」と「問題の発見から窓口に届くまでの時間」です。炎上や漏えいをゼロにすることは約束できません。相談が増え、窓口に届くまでの時間が短くなれば、ルールが使われている目安になります。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、見直す時期です。
Human Soarからのコメント
SNSのルールは、禁止を増やすほど安心できるように見えますが、現場で使われなければ守りにはなりません。五輪のルールから借りたいのは、中身ではなく、認める範囲を先に示して線引きを短く伝える形です。社員の私生活を尊重しながら、迷ったときに頼れる1枚を一緒に作ります。
よくあるご質問
Q. 社員の私的なSNSを禁止したり、会社が見回ったりできますか?
一律の禁止や見回りはお勧めしていません。私的な発信は本来個人の自由であり、会社が処分できる場面も限られるためです。このプログラムでは、会社の情報や立場と結びつく場面に絞って線を引きます。個別の事案は弁護士や社会保険労務士にご確認ください。
Q. ガイドラインを作れば、違反した社員を懲戒できますか?
ガイドラインだけでは十分とは言えません。懲戒をするなら、種類と程度を就業規則に定めて周知することが前提です。そのうえで、行為の内容に照らして合理的で相当な処分である必要があります。就業規則との関係は、設計の段階で専門家と確認します。
Q. 社員が自社商品をSNSで紹介してもよいですか?
投稿すること自体は禁止されません。ただし、販売や開発に関わる立場の人が販売促進のために投稿すると「事業者の表示」に当たると考えられ、「広告」などの明示が必要です。所属を書くだけでは足りるとは限らないので、判断表の「確かめてから発信する」に入れます。
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