スポーツデータサイエンスは、試合や練習で記録したデータを統計学や機械学習で分析し、競技や運営の課題を解く分野です。国内では日本統計学会スポーツデータサイエンス分科会と統計数理研究所が毎年「スポーツデータサイエンスコンペティション」を開いており、2025年度は口頭発表19件、ポスター83件、インフォグラフィック7件の計109件が審査会のプログラムに載りました。企業は、協賛やデータの提供、審査会の聴講と大学との連携、社内のデータ活用の研修という3つの形で、このコンペと関われます。
データ人材の採用で、応募者が「研究でプロ野球のデータを分析しました」と話す。社内でデータ活用の勉強会を始めたいが、身近で続けやすい題材が見つからない。スポーツのデータは、そうした場面で共通の話題になりやすい素材です。ここでは、スポーツデータサイエンスの中身と、コンペの主催・部門・日程・結果を公式の情報で確かめ、企業として何ができるかを整理します。
スポーツデータサイエンスとは|試合の記録と位置のデータで課題を解く

スポーツデータサイエンスで扱う中心のデータは、試合記録、プレーの記録、選手の位置を追ったトラッキングデータの3種類です。Jリーグは、こうした競技データの総称を2020年7月に「J STATS」と名付け、メンバー表や得点者、警告・退場といった試合記録から、パスやドリブル、ボール支配率といったプレーのデータ、走行距離やポジショニングなどの位置情報までを含むと説明しています。
位置情報の計測は早くから始まっています。Jリーグは2015年、Jリーグメディアプロモーションとデータスタジアムと協力し、J1リーグの全試合にトラッキングシステムを入れ、そのデータを使った速報サービスを始めました。プロ野球やBリーグの計測の取り組みはスポーツのデータ分析の事例5つでまとめています。
データを集めて試合の準備に使う仕事を担うのが、チームのスポーツアナリストです。仕事の中身はスポーツアナリストの仕事内容となり方で解説しています。スポーツデータサイエンスは、そのデータから新しい評価の指標や予測の方法を作るところまでを含む、研究寄りの広い呼び名と考えると分かりやすいです。
(参考)Jリーグ競技パフォーマンスデータの呼称およびロゴデザインについて(2020年7月1日) – 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ
(参考)「LIVEトラッキング」サービスを開始(2015年3月6日) – 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ
Q. スポーツデータサイエンスとは何ですか?
スポーツの試合や練習で記録したデータを、統計学や機械学習で分析して、競技や運営の課題を解く分野です。扱うデータには、得点者などの試合記録、パスやドリブルなどのプレーの記録、走行距離や選手の位置を追ったトラッキングデータがあります。分析の結果を、選手の評価や戦術、観客を増やす施策などの判断に使います。
スポーツデータサイエンスコンペティション2026|主催・5部門・日程
2026年度のスポーツデータサイエンスコンペティションは、日本統計学会スポーツデータサイエンス分科会と情報・システム研究機構 統計数理研究所が主催し、データスタジアム株式会社が協賛しています。部門は野球、サッカー、バスケットボール、MLB、データ表現の5つで、審査会は2027年1月9日と10日に開かれます。
| 項目 | 2026年度の内容 |
|---|---|
| 主催 | 日本統計学会スポーツデータサイエンス分科会、情報・システム研究機構 統計数理研究所 |
| 協賛・後援 | 協賛:データスタジアム株式会社/後援:統計数理研究所統計思考院、同志社大学、一般社団法人日本スポーツアナリスト協会ほか |
| 部門 | 野球、サッカー、バスケットボール、MLB、データ表現 |
| 提供データ | 野球・サッカー・バスケットボールはデータスタジアム株式会社が提供。MLBは提供なし。データ表現はオープンデータを使う |
| 参加資格 | 代表者は分科会の会員で、大学で統計学を教える教員か博士後期課程の大学院生。メンバーは代表者のほか5名まで |
| 費用 | コンペの参加費と分科会の会費は無料。審査会のシンポジウムは一般3,000円、大学院生以下1,000円 |
| 日程 | 申込締切 2026年10月11日/書面審査 11月11日17時/審査会 2027年1月9〜10日(同志社大学今出川キャンパス)/報告書 1月末日 |
出典:スポーツデータサイエンスコンペティション「2026年度開催概要」をもとに Human Soar 作成
評価の対象は分析の手法だけではありません。開催概要の趣旨では、スポーツの現場にある問題をどう選んで定義したか、分析の課題にどう落とし込んだか、結果から導く行動がどれだけ具体的か、その行動でどんな効果が見込めるかまで含めて評価するとしています。表彰は部門ごとの最優秀賞と優秀賞のほか、データスタジアム賞などの特別賞、学部生だけのチームに贈る奨励賞があります。
提供されるデータの権利は提供元の企業にあり、使ってよいのはコンペの中だけです。参加者には機密を守る義務があり、成果を学会や論文で発表するには別に申請と承認が要ります。前年度に参加したチームは、データを消したことの証明書を出すまで新しいデータを受け取れません。
大会は以前「スポーツデータ解析コンペティション」という名前で、2018年度が第8回、2021年度が第11回でした。2022年度から今の名前になっています。
(参考)2026年度スポーツデータサイエンスコンペティション開催概要 – スポーツデータサイエンスコンペティション事務局
(参考)2026年度 スポーツデータサイエンスコンペティション SDSC2026 開催概要(PDF) – スポーツデータサイエンスコンペティション事務局
(参考)スポーツデータ解析コンペティションWebサービス(2018) – 第8回スポーツデータ解析コンペティション事務局
Q. スポーツデータサイエンスコンペティション2026の日程はいつですか?
2026年度は申込が2026年10月11日に締め切られ、書面審査の提出期限が11月11日17時です。12月上旬に審査結果が発表され、2027年1月9日と10日に同志社大学今出川キャンパスで審査会が開かれます(現地とオンラインの併用)。報告書の提出期限は2027年1月末日です。
スポーツデータサイエンスコンペティションの結果|2025年度は109件の発表
直近3年度の審査会のプログラムに載った発表は、2023年度が96件、2024年度が94件、2025年度が109件でした。口頭発表はどの年度もサッカーと野球が中心で、2025年度は19件のうちサッカーが9件、野球が6件を占めています。
| 年度 | 審査会の日程・会場 | 口頭発表(競技別) | ポスター | インフォグラフィック | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年度 | 2024年1月6〜7日・中央大学 | 22件(サッカー7、野球6、柔道4、MLB3、バスケ2) | 68件 | 6件 | 96件 |
| 2024年度 | 2025年1月11〜12日・同志社大学 | 16件(サッカー7、野球5、バスケ2、eスポーツ2) | 73件 | 5件 | 94件 |
| 2025年度 | 2026年1月10〜11日・中央大学 | 19件(サッカー9、野球6、MLB2、バスケ2) | 83件 | 7件 | 109件 |
出典:スポーツデータサイエンスコンペティション「審査会プログラム」(2023〜2025年度)に載った発表を数えて Human Soar 作成。当日欠席の発表を含む
2025年度の主な受賞|サッカーと野球に最優秀賞
2025年度の審査結果は2026年1月26日に公表されました。サッカー部門の最優秀賞は2件で、ポジションチェンジが攻守の結果に与える影響の分析(東京大学)と、強化学習を使って全選手の行動を評価する研究(名古屋大学ほか)です。野球部門の最優秀賞は、投手の属性を考慮したパフォーマンス低下の要因分析(上智大学)でした。
MLB部門とバスケットボール部門は最優秀賞が該当なしで、優秀賞がそれぞれ1件と2件です。協賛企業の名前を冠したデータスタジアム賞は、サッカー部門と野球部門で1件ずつ選ばれています。口頭発表のチームは全チームが入賞の扱いです。
(参考)2025年度スポーツデータサイエンスコンペティション審査結果(2026年1月26日) – スポーツデータサイエンスコンペティション事務局
(参考)2025年度スポーツデータサイエンスコンペティション 審査会プログラム – スポーツデータサイエンスコンペティション事務局
(参考)2024年度スポーツデータサイエンスコンペティション 審査会プログラム – スポーツデータサイエンスコンペティション事務局
(参考)2023年度スポーツデータサイエンスコンペティション 審査会プログラム – スポーツデータサイエンスコンペティション事務局
報告書|年度ごとの報告集を分科会が公開
参加した全チームは、審査会のあとに2〜4枚の報告書を出す義務があり、それをまとめた報告集がオンラインで公開されます。日本統計学会スポーツデータサイエンス分科会のサイトには2021年度から2025年度までの報告集が並んでおり、2025年度分は2026年7月18日に掲載されました。
報告集は、どの大学のどの研究室が、どんな競技のどんな問いに取り組んでいるかを一度に見渡せる資料です。採用や共同研究の相手を探すときの下調べに使えます。
(参考)コンペティション(過去の報告集) – 日本統計学会 スポーツデータサイエンス分科会
Q. スポーツデータサイエンスコンペティションの結果や報告書はどこで見られますか?
結果は大会の公式サイトのお知らせで、報告書は日本統計学会スポーツデータサイエンス分科会のサイトで見られます。2025年度の審査結果は2026年1月26日に公式サイトに掲載され、2025年度の報告書は2026年7月18日に分科会のサイトに載りました。分科会のサイトには2021年度以降の報告集がまとめられています。
参加している大学と発表テーマ|2025年度は48校・経営に近い題目は5件
2025年度の109件の発表者の所属を数えると、海外の大学1校を含む48の大学・学校が名を連ねていました。発表件数が多かったのは東京理科大学の10件、東京大学の9件、千葉工業大学の7件です。
| 所属 | 2025年度の発表件数 |
|---|---|
| 東京理科大学 | 10件 |
| 東京大学 | 9件 |
| 千葉工業大学 | 7件 |
| 名古屋大学 | 5件 |
| 東海大学 | 5件 |
| 鹿屋体育大学 | 5件 |
出典:スポーツデータサイエンスコンペティション「2025年度 審査会プログラム」の口頭発表・ポスター・インフォグラフィック109件を所属ごとに数えて Human Soar 作成(共同発表は所属ごとに1件と数えた)
統計学や情報系の学部をもつ大学に加え、鹿屋体育大学のように体育系の大学からの発表も入っています。データ人材を新卒で採りたい企業にとっては、スポーツのデータを使って研究している研究室の分布を知る手がかりになります。大学全体でもデータサイエンスの教育は広がっており、文部科学大臣が認定する「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」は、令和7年度に新たにリテラシーレベル98件、応用基礎レベル132件が認定されました。
発表の題目を見ると、ほとんどは選手の評価の指標、戦術、投球や打球の分析といった競技の中の問いです。観客動員や球場の楽しみ方、年俸、贅沢税やサラリーキャップといった制度など、経営に近い題目は109件のうち5件でした。Bリーグの観客動員数に影響する要因の分析や、日本のプロ野球で日本人選手と外国人選手の年俸の決まり方を比べた分析がその例です。
2023年度にもプロ野球の球場の来場者数を予測するモデルや、観客数と成績の関係の分析が出ています。観客や売上に関わる問いは、競技のデータと組み合わせれば研究の題材になります。経営の課題をもつ企業の側から問いを出す余地がある分野と言えます。
(参考)令和7年度「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の認定・選定結果について(2025年8月26日) – 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局
企業がスポーツデータサイエンスコンペティションに関わる3つの方法

企業の社員はデータ提供のある部門のチームに入れないため、企業が関わるなら協賛とデータの提供、審査会の聴講と大学との連携、社内の研修の3つの方法になります。どれを選ぶかは、データを持っているか、人材を探したいか、社員を育てたいかという目的で決まります。
国もスポーツデータを使える人材の不足を課題に挙げています。スポーツ庁の委託でまとめられた令和4年度の調査報告書は、スポーツの現場でデータを使いこなせる人材が足りないことや、一般の企業の側でスポーツデータを使うビジネスへの認識やデータを読み解く力が十分でないことを、データ活用が広がらない原因として整理しています。
(参考)令和4年度スポーツ産業の成長促進事業「スポーツ×テクノロジー活用推進事業」スポーツのデータ利活用におけるルール検討調査(PDF) – スポーツ庁(委託先:アビームコンサルティング株式会社)
協賛とデータの提供|データを持つ企業の関わり方
2026年度はデータスタジアムが協賛し、野球、サッカー、バスケットボールの3部門のデータを提供しています。提供したデータの権利は提供元に残り、使い道はコンペの中に限られ、参加者は機密を守ると誓約します。データを手放さずに、大学の研究者に自社のデータを分析してもらえる仕組みです。
協賛企業の名前を冠した特別賞もあり、2025年度はデータスタジアム賞が2件選ばれました。試合や観客、会員のデータを持つ企業が協賛やデータの提供を考えるなら、まず主催の事務局に条件を相談するのが入り口です。データを分析して事業に生かす企業の例はスポーツのデータ分析を企業経営に活かす方法にまとめています。
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審査会の聴講と大学との連携|人材を探す企業の関わり方
審査会のシンポジウムは聴講にも参加費がかかり、2026年度は一般3,000円です。口頭発表は1件15〜20分で質疑もあり、学生がどんな問いを立て、どう説明するかを直接見られます。発表した研究室が分かれば、報告集で過去の研究も確かめられます。
大学と協定を結ぶ方法もあります。熊本大学情報融合学環とデータスタジアムは、スポーツデータの活用と人材育成に関する協定を結び、2026年1月27日に締結式を開くと発表しました。協定は、スポーツデータを使った教育プログラムの設計や、データアナリスト・データサイエンティストの育成を一緒に進めることを目的とし、同社の役員や社員が教育に加わる形をとっています。
(参考)熊本大学情報融合学環・データスタジアム株式会社 スポーツデータ活用と人材育成・社会実装に関する協定締結式の開催について(令和8年1月21日) – 熊本大学
社内の研修|社員を育てる企業の関わり方
コンペのデータはコンペの外では使えませんが、評価の考え方と報告集は社内の研修に生かせます。データ表現部門がオープンデータだけで作品を作ることからも分かるとおり、公開されているデータでも題材は組めます。具体的な進め方は次の章でまとめます。
Q. 企業の社員はスポーツデータサイエンスコンペティションに参加できますか?
データが提供される野球・サッカー・バスケットボールの部門には、民間企業に勤める人はチームに入れません。代表者は大学で統計学を教える教員か博士後期課程の大学院生と決められています。企業が関わるなら、協賛やデータの提供、審査会の聴講、大学との連携といった形になります。
社内のデータ活用の研修に使う|コンペの評価の観点を手順にする

社内でデータ活用を教えるなら、コンペが評価する観点をそのまま研修の手順にすると、分析だけで終わらない練習になります。開催概要の趣旨にある観点は、問題の選び方と定義、分析の課題への落とし込み、手法の使い方の妥当さ、導いた行動の具体性、その行動で見込める効果の5つです。
研修では、まず社員に「自社の課題」を1つ選んでもらい、それを数字で確かめられる問いに言い換えます。次に、使えるデータと手法を決めて分析し、結果から「来月、誰が何をするか」まで書き出します。最後に、その行動で何がどれだけ変わるかの見込みを添えて発表します。
スポーツの題材が向いているのは、勝敗や得点という結果がはっきりしていて、分析の良し悪しを誰でも直感的に確かめやすいからです。熊本大学の発表資料も、スポーツデータを学部1、2年次から学べる教材として挙げています。スポーツの分析を経営の指標づくりにつなげる考え方はスポーツDXとはでも紹介しています。
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スポーツデータサイエンスのまとめ
スポーツデータサイエンスは、試合の記録や位置のデータから競技や運営の問いに答える分野です。国内の研究の動きは、毎年のコンペティションの審査会と報告集でつかめます。数値の出典は本文の各セクションに記載しています。
- 扱う主なデータは、試合記録、プレーの記録、選手の位置を追ったトラッキングデータの3種類
- コンペは日本統計学会の分科会と統計数理研究所が主催し、2026年度は5部門で、審査会は2027年1月9〜10日
- 2025年度の発表は109件で、48の大学・学校が参加し、経営に近い題目は5件だった
- 企業の社員はデータ提供のある部門に参加できず、協賛・データ提供、聴講と大学連携、社内研修の3つで関わる
- 評価の観点(問題の定義から効果の見込みまで)は、社内のデータ活用の研修の手順にそのまま使える
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