ジョブローテーションのデメリットと設計手順|スポーツ科学の研究から

ジョブローテーションのデメリットと設計手順|スポーツ科学の研究から ソリューション
SOLUTION|人材育成 × スポーツ科学

定期異動を続けているのに、何が身についたのかを説明できない。異動のたびに仕事を覚え直し、専門性が育たないという不満も出る。スポーツ科学の熟達研究をもとに、どの順に何を経験させ、何ができたら次へ移るのかを職種ごとに決めます。年数で動かす異動を、説明できる育成の計画に変えます。

人材育成ジョブローテーション人事異動配置計画

このプログラムについて相談する

対象となるお客さま

  • 定期異動の基準を見直したい人事責任者・人事企画の担当者
  • 人を送り出す時期と受け入れる時期を読みたい事業部長
  • 育成への投資を数字で説明したい経営者

よくあるお悩み

  • 異動のたびに仕事を覚え直しになり、専門性が育たない
  • 異動の理由を聞かれても、上司が答えられない
  • 次の異動先が欠員の状況で決まり、育成の計画にならない
ISSUE

課題|1,000人以上の企業の70.3%に定期異動があり、専門性が壁になる

経験順序設計プログラム|定期異動のある企業の割合、職種変更を伴う配置転換の課題、人材育成の問題点

ジョブローテーションは、定期的な人事異動で社員に複数の仕事を経験させる仕組みです。労働政策研究・研修機構が2016年に常用労働者300人以上の企業を調べたところ、定期異動が「ある」企業は回答1,852社の53.1%で、正社員1,000人以上の企業では70.3%でした。同じ調査で転勤の目的を聞くと、「社員の人材育成」が66.4%で最多です。

一方で、デメリットとして挙がりやすいのが専門性です。平成28年版の労働経済白書によると、人材の過不足に対応するために職種変更を伴う配置転換を行う場合、59.1%の企業が「職種ごとの専門性が高い」ことを課題に挙げ、37.7%が「本人の同意が得られにくい」ことを挙げました。人手の調整についての調査ですが、職種を変えるときの壁としては定期異動にも共通します。

育てた人の定着も問題です。令和7年度の能力開発基本調査では、人材育成に何らかの問題があるとする事業所が80.1%で、その内訳では「人材を育成しても辞めてしまう」が51.6%でした。異動が離職の原因だと示す数字ではありません。だからこそ、異動が育成につながっているかを自社で確かめる必要があります。

(参考)調査シリーズNo.174 企業の転勤の実態に関する調査(2017年) – 労働政策研究・研修機構

(参考)平成28年版 労働経済の分析 第3-(3)-12図 配置転換の課題 – 厚生労働省

(参考)令和7年度「能力開発基本調査」調査結果の概要 – 厚生労働省

CAUSE

原因|異動の年数を決めても、順番と移る条件は決まらない

経験順序設計プログラム|定期異動のある企業の異動の頻度と、配置転換に応じる条件、効果が見えなくなる3つの原因

異動そのものが悪いわけではありません。効果が見えなくなるのは、仕組みに次の3つが欠けているときです。

  • 移る条件がない:年数で動かすと、身につく前に移る人も、十分に身につけたのにとどまる人も出ます。
  • 順番がない:次の仕事が欠員の状況で決まると、前の経験が次の仕事につながるかは偶然になります。
  • 目的が本人に伝わらない:何を身につけるための異動かが分からなければ、本人も受け入れる部門も成果を確かめられません。

同じ調査で定期異動のある企業983社を見ると、異動の頻度は3年が36.5%で最多、5年が18.1%です。計算すると、1年以下が22.2%、6年以上が10.1%で、周期は企業によって大きく違います。ただ、周期が分かっても、何を身につけて移るのかは分かりません。転勤の目的を聞いた回答では、「事業拡大・新規拠点立ち上げに伴う欠員補充」も42.9%ありました。転勤命令の決め方は、79.7%の企業が会社主導に近いと答えています。育成のための異動と欠員を埋める異動が混ざると、本人には何のための異動かが見えにくくなります。

働く側が求める条件にも表れています。人手不足で社内応援を命じられたときに条件次第で協力すると答えた労働者のうち、34.6%が「職種(専門性)が変わらないこと」を、26.4%が「(事前に)教育訓練を行ってくれること」を重視していました。専門性と事前の準備は、異動を受け入れるかどうかを左右する条件の1つです。

(参考)調査シリーズNo.174 企業の転勤の実態に関する調査(2017年) – 労働政策研究・研修機構

(参考)平成28年版 労働経済の分析 第3-(3)-13図 配置転換の条件(労働者条件) – 厚生労働省

SPORTS INSIGHT

スポーツ知見|スポーツ科学では、早い時期の好成績と大人の頂点で条件が逆になる

経験順序設計プログラム|ジュニアの好成績と大人の世界レベルで逆になる競技歴の違いと、職場への置き換え

スポーツ科学には、選手がどのような経験を重ねて高い力を身につけるのかを調べる熟達の研究があります。Güllichらが学術誌Perspectives on Psychological Scienceに2022年に発表したメタ分析(複数の研究をまとめて分析する方法)は、51の研究報告、選手6,096人を分析しました。うち772人は世界トップレベルの選手です。大人の世界レベルの選手は国内レベルの選手に比べ、子どもの頃から10代にかけて複数の競技を多く経験し、主な競技を始めた時期が遅く、主な競技の練習量は少なく、初めの伸びはゆるやかでした。

ジュニアの選手では、この関係が逆になります。Barthらが学術誌Sports Medicineに2022年に発表した系統的レビューとメタ分析は、71の研究報告、選手9,241人を分析しました。ジュニアで成績の高い選手は主な競技を早く始め、練習量が多く、ほかの競技の練習は少なく、初めの伸びも速かったのです。差の大きさ(効果量Cohen’s dの絶対値)は大人で0.23〜0.50、ジュニアで0.23〜0.61で、小さめから中程度です。著者らは、早い時期に専門の練習をしすぎると、使いすぎのけがや燃え尽き、競技との相性の悪さなどで長期の成長を妨げる可能性があると考察しています。

国際オリンピック委員会(IOC)の専門家グループが2015年にBritish Journal of Sports Medicineで公表した合意声明も、早すぎる専門化を避けるよう勧めています。同時に、1つの競技の中でも経験に幅があり、基礎の技術を十分に学び、休養が確保され、本人が楽しめていれば、許容できて健全だとも書いています。育成は年齢で一律に決めるのではなく段階ごとに考え、柔軟に進めるべきだという内容です。一方で、より確かな証拠があれば主張が補強されるとも認めており、体操や水泳のように早く専門化する慣習のある競技があることにも触れています。

(参考)What Makes a Champion? Early Multidisciplinary Practice, Not Early Specialization, Predicts World-Class Performance(Güllich et al., 2022) – Perspectives on Psychological Science

(参考)Predictors of Junior Versus Senior Elite Performance are Opposite(Barth et al., 2022) – Sports Medicine

(参考)International Olympic Committee consensus statement on youth athletic development(Bergeron et al., 2015) – British Journal of Sports Medicine

職場に置き換えると、配属直後の成果と長い目で見た伸びを分けて見る、幅を広げる時期と絞る時期を分ける、基礎が身についたかで次へ移る、の3つになります。

ただし、試合と仕事は同じではありません。これらの研究の対象は選手で、主に子どもの頃から10代の競技歴を比べたものです。会社員の異動で確かめた研究ではありません。成績の高い人と低い人を比べた研究なので、複数の競技を経験したことが伸びの原因だとも言い切れません。また、仕事には資格や長年の蓄積が欠かせない職種があり、配属を本人が選べない会社もあります。そのため全員を回す設計にはせず、対象外の職種を分け、まず1つの職種群で試して確かめます。

SOLUTION

解決策|経験の順番、移る条件、対象外の職種、事前の説明を決める

経験順序設計プログラム|経験の順番、移る条件、対象外の職種、事前の説明の4つの決まり

異動の周期をそろえる議論の前に、職種ごとに次の4つを決めます。

  • 経験の順番:幅を広げる時期、専門を固める時期、専門を別の領域に広げる時期に分け、どの順にどの仕事を経験するかを決める
  • 移る条件:年数ではなく、一人で担当できる業務や身につける知識で、次へ移る基準を決める
  • 対象外の職種:資格や長年の蓄積が欠かせない職種は定期異動から外し、同じ職種の中で担当領域を広げる
  • 事前の説明:異動の前に、理由、身につけること、期間の目安、次の候補を本人と受け入れ部門に伝える

省かれやすいのが移る条件です。条件がなければ、早く移しすぎたのか、長く置きすぎたのかを後から確かめられません。評価の場でも、異動先での短期の成績だけで判断せず、順番のどこにいるかを踏まえて見ます。

APPROACH

進め方|1つの職種群で試してから、年次の人事計画に組み込む

経験順序設計プログラム|診断・設計と試行・定着の3つのフェーズで、やること・役割分担・期間の目安

全社の制度を一度に変えると、例外の調整に時間がかかります。まず営業や管理部門など1つの職種群で、順番と条件が現場で使えるかを確かめます。

診断では、直近数年の異動履歴を一緒に棚卸しし、在籍年数、異動の理由、異動後の評価、異動後の退職を調べ、職種ごとの偏りを見ます。設計・試行では、経験順序表と移る条件の基準表を作り、次の異動から説明シートを使います。定着では対象の職種を広げ、年次の人事計画に組み込みます。

期間は目安です。診断だけ、1職種群だけといった始め方もご提案します。Human Soarは様式の用意・聞き取り・集計・レビューの進行を担い、御社には異動履歴と評価の記録の共有、試す職種群の決定、本人への説明をお願いします。就業規則や労働条件に関わる確認は、御社の社会保険労務士などの専門家と進めます。

OUTPUT

成果物|順番から説明まで、社内で回せる4つの道具

経験順序設計プログラム|経験順序表・移る条件の基準表・異動説明シート・年次配置レビューの手順の4つの成果物と活用場面

成果物は、ひな形を渡して終わりにはしません。どれも御社の職種と実際の異動履歴をもとに、一緒に作ります。

最初に作るのが「職種別の経験順序表」です。人事が配置案を作るときに使い、どの順に何を経験するかと、対象外の職種を示します。次に、上司が面談で使う「移る条件の基準表」を整え、何ができたら次へ移るかを確かめます。異動を決めたら、上司が本人と受け入れ部門に「異動説明シート」を渡し、理由と身につけることを伝えます。

最後に、人事と事業部長が毎年の配置を決める前に開く「年次配置レビューの手順」を整えます。順番どおりに進んだか、条件を見直す職種はないかを確かめるので、支援が終わった後も社内だけで回し続けられます。

VALUE

期待できる効果|異動の理由と次の経験を説明できるようになる

経験順序設計プログラム|経営・人事・事業部長・社員の変化と、定期異動を見直す時期かを確かめるセルフチェック

経営にとっては、育成への投資がどの経験に使われているかを説明しやすくなります。人事は、配置案の根拠を順序表で示せます。事業部長は、送り出す時期と受け入れる時期を読みやすくなります。社員は、今の異動で何を身につけ、次に何を経験するのかが分かります。

見る数字は2つです。「異動の前に説明シートを渡せた割合」で説明が届いているかを、「移る条件を満たして異動した割合」で順番どおりに進んでいるかを確かめます。異動の直後は成績が下がることもあるので、短期の成績だけで良し悪しを判断しません。スライド下のセルフチェックで2つ以上当てはまれば、定期異動の仕組みを見直す時期です。

COMMENT

Human Soarからのコメント

スポーツ科学の研究が教えてくれるのは、早い時期の成績と長い目で見た伸びは同じではないということです。もちろん、選手の研究をそのまま社員に当てはめることはできません。それでも、短期の成果と長期の育成を分けて考えることは、人を異動させる企業にも通じます。何のための異動なのかを説明できる仕組みを、御社の職種に合わせて一緒につくります。

FAQ

よくあるご質問

Q. ジョブローテーションは何年ごとが適切ですか?

全社で一律に正しい年数はありません。定期異動のある企業では3年ごとが最も多いという調査がありますが、これは多くの企業の実態で、効果を確かめた基準ではありません。このプログラムでは職種ごとに移る条件を決め、年数は目安として扱います。

Q. 専門職が多い会社やジョブ型の会社には合いませんか?

全員を回すことを前提にしていないので、合わせて設計できます。資格や長年の蓄積が必要な職種は対象外に分け、同じ職種の中で担当領域を広げる順番を決めます。どの職種を対象にするかは、診断の結果を見て一緒に決めます。

Q. 社内公募制度と併用できますか?

併用できます。社内公募は本人が手を挙げる入口で、経験順序表は会社が育成のために示す順番です。順序表を社内に公開すれば、応募する人が次に必要な経験を確かめやすくなります。公募の結果で順番が変わる場合の扱いも、運用の手順に入れます。

元気な社員が、いちばんのマーケティングになる。

社員のウェルビーイングを高め、
その元気が自然と外に伝わる仕組みをつくります。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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