マルチクラブオーナーシップとは|サッカー界の規制と企業の関わり方

マルチクラブオーナーシップとは|サッカー界の規制と企業の関わり方 スポーツビジネス

協賛しているクラブの株主が海外のグループに替わる、という知らせが届く。あるいは、クラブへの出資を検討する会議で「相手はほかの国にもクラブを持っている」と聞かされる。そのとき、自社の契約や出資にどんな影響があるのかを、すぐに説明できる人は多くないはずです。

マルチクラブオーナーシップは、1つの資本が複数のクラブを持つ仕組みで、持つこと自体は禁じられていません。規則が禁じているのは、同じ大会に出るクラブ同士を同じ資本が支配することです。欧州サッカー連盟(UEFA)の2025年版の報告書では、複数クラブ投資の関係にあるクラブは世界で345にのぼります。

この記事では、UEFAとJリーグの規則、各グループと企業の公式発表をもとに、仕組みと規制、日本の企業の関わり方を整理します。資料はいずれも2026年10月11日に確認したものです。規制の説明は一般的な内容の紹介ですので、個別の出資や買収は、リーグと弁護士などの専門家に確認してください。

  1. マルチクラブオーナーシップとは1つの資本が複数のクラブを持つ仕組み
    1. UEFAは支配のある保有と支配のない出資を分けている
    2. 世界で345クラブが複数クラブ投資の関係にある
  2. マルチクラブオーナーシップの一覧|世界の主な4グループ
    1. シティ・フットボール・グループ|5大陸の12クラブを一覧に載せる
    2. レッドブル|飲料の会社が3か国のクラブに大宮を加えた
    3. INEOS|化学の会社が3か国のクラブを持つ
    4. BlueCo|チェルシーの買収に続きストラスブールの株主になる合意を発表
  3. UEFAの規則はクラブ大会に出るクラブ同士の支配を禁じている
    1. 第5条は議決権の過半数と決定的な影響力で支配を判断する
    2. 基準日は3月1日で守れていないと1クラブだけが出場する
    3. 2024年の信託は例外で2025年は基準日が厳格に適用された
  4. Jリーグの規約は他のJクラブの株式保有と役職員の兼務を禁じている
    1. 議決権の15%以上を持つ新しい株主にはチェアマンの承認が要る
    2. クラブライセンスは同じ競技会に出るクラブへの関与を禁じている
  5. 日本のクラブと企業の関わり方は4つの形に分かれる
    1. 海外グループの傘下に入る|RB大宮アルディージャ
    2. 日本企業が海外のクラブを持つ|横浜FCとシント=トロイデン
    3. 出資から提携に切り替える|横浜F・マリノスとCFG
    4. 国内で複数競技のクラブを持つ|MIXIのFC東京と千葉ジェッツ
  6. グループの中ではスポンサーの権利と育成の経路が共有される
    1. スポンサー契約がグループ単位になると1本で複数クラブの権利が付く
    2. グループ内の移籍は1クラブあたり平均1件未満にとどまる
    3. UEFAは競技の公正と育成の踏み台になる懸念を挙げている
  7. 出資や協賛の前に企業が確かめる3つの点
    1. 相手のクラブが同じ資本のクラブと同じ大会に出る可能性
    2. 関係が出資か提携かと公式発表の文言
    3. 株主が替わったときのスポンサー契約の扱い
  8. まとめ|マルチクラブオーナーシップは大会と支配の2点で読む

マルチクラブオーナーシップとは1つの資本が複数のクラブを持つ仕組み

マルチクラブオーナーシップのグループが、出資者、グループ会社、所有するクラブ、提携クラブの4層でできていることをシティ・フットボール・グループの例で示した階層図

マルチクラブオーナーシップは、1人の出資者や1つの会社が、2つ以上のクラブを持つ仕組みです。多くの場合、出資者の下にクラブを束ねるグループ会社があり、その下に各国のクラブが並びます。英国のシティ・フットボール・グループ(CFG)の公式サイトを見ると、出資者、グループ会社、所有するクラブ、提携クラブの4層になっていることが分かります。

CFGは2013年5月に設立された会社で、過半数をアブダビに登記された会社が持ち、17%近くを米国の投資会社シルバーレイクが持っています。その下に、マンチェスター・シティをはじめ、全部または一部を所有するクラブが並びます。一覧の12クラブのうち2クラブは「Partner」と表記されていて、横浜F・マリノスはこの提携クラブにあたります。

UEFAは支配のある保有と支配のない出資を分けている

UEFAは、欧州のクラブの財務と投資をまとめた報告書「The European Club Finance and Investment Landscape」で、2つの語を書き分けています。「multi-club ownership」は、ある当事者が複数のクラブを支配しているか、決定的な影響力を及ぼしている状態です。「multi-club investment」は、支配や影響力を伴わずに、複数のクラブに出資している状態を指します。

同じ報告書は、過半数の出資や買収が多いため、世間ではまとめてマルチクラブオーナーシップと呼ばれている、とも説明しています。出し手は個人や投資ファンドが普通ですが、事業会社のこともあり、クラブ自身がほかのクラブを持つこともあります。

日本語では、Jリーグの規約にも官公庁の資料にも、この語の定義は見当たりません。国内で確かめられたのは、横浜FCが2023年9月の発表に添えた説明で、「1つのオーナーあるいは資本が、国籍の異なる複数クラブを保有する運営形態」というものです。UEFAの定義は国の違いを条件にしていないので、同じ国の中で複数のクラブを持つ場合も含みます。社内の資料で定義を示すときは、まずUEFAの書き分けを引くのが確かです。

(参考)The European Club Finance and Investment Landscape(2024年2月公表版) – UEFA

(参考)ONODERA GROUP 横浜FC × UDオリヴェイレンセ『日欧マルチクラブオーナーシップ』メディアブリーフィング開催のお知らせ(2023年9月11日) – 横浜FC

世界で345クラブが複数クラブ投資の関係にある

UEFAの2025年版の報告書は、複数クラブ投資の関係にあるクラブを世界で345と数えています。10年前は60に届きませんでした。欧州の1部リーグに限ると122クラブで、全体の16%です。

2024年2月に公表された版では、2023年末の時点で世界に230超、欧州の1部リーグで105クラブ(13%)でした。数は版ごとに増えているので、引用するときは年を添える必要があります。また、この数は支配を伴わない少数の出資も含んでいて、345クラブすべてが同じオーナーに支配されているわけではありません。

国別では、イングランドが42クラブで最も多く、スペインが31、米国が28と続きます。上位15か国に日本は入っていません。2024年2月の版によると、グループの74%は持っているクラブが3つ以下で、58%は2つだけでした。

(参考)The European Club Finance and Investment Landscape(2025年版) – UEFA

(参考)The European Club Finance and Investment Landscape(2024年2月公表版) – UEFA

(参考)Our Clubs Worldwide – City Football Group

(参考)About City Football Group – City Football Group

Q. マルチクラブオーナーシップとは何ですか?

1人の出資者や1つの会社が、複数のクラブを持つ仕組みです。UEFAの報告書は、支配や決定的な影響力を伴う場合を「multi-club ownership」、支配を伴わない出資を含む広い関係を「multi-club investment」と書き分けています。2025年版の報告書では、後者の関係にあるクラブが世界で345あります。

マルチクラブオーナーシップの一覧|世界の主な4グループ

代表的なグループを、それぞれの公式サイトと公式発表で確かめられる範囲で一覧にしました。出資比率まで公表している例は少なく、クラブの数も発表の時点で変わります。

グループ 母体 公式に確認できたクラブ 出資比率の公表
シティ・フットボール・グループ アブダビに登記された会社が過半数を持つ マンチェスター・シティ、ジローナ、ニューヨーク・シティ、メルボルン・シティなど12クラブ(うち2つは提携) クラブごとの比率は一覧に記載なし
レッドブル オーストリアの飲料会社 米国・ドイツ・ブラジルの3クラブに、大宮アルディージャが加わる(2024年8月の発表) 大宮は発行株式の100%
INEOS 化学会社 マンチェスター・ユナイテッド(共同所有)、OGCニース、FCローザンヌ・スポルト 公式ページに記載なし
BlueCo チェルシーを買収した共同体 チェルシー、RCストラスブール(2023年6月に株主になる合意を発表) 発表に記載なし

世界の主なマルチクラブオーナーシップのグループ(出典:City Football Group、NTT東日本・Red Bull GmbH、INEOS、Racing Club de Strasbourg Alsace の各公式発表。2026年10月11日確認)

シティ・フットボール・グループ|5大陸の12クラブを一覧に載せる

CFGは公式サイトで、世界で12のクラブを全部または一部所有していると説明しています。欧州ではマンチェスター・シティ、ジローナ、ロンメルSK、トロワ、パレルモの5クラブです。米州ではニューヨーク・シティ、モンテビデオ・シティ・トルケ、バイーアに、提携先のクルブ・ボリバルが並びます。

オーストラリアとアジアでは、メルボルン・シティ、中国の深圳新鵬城、そして提携先の横浜F・マリノスです。所有するクラブと提携クラブが同じ一覧に載っているので、「傘下12クラブ」と読むと実態とずれます。

(参考)Our Clubs Worldwide – City Football Group

(参考)About City Football Group – City Football Group

レッドブル|飲料の会社が3か国のクラブに大宮を加えた

レッドブルはオーストリアに本社を置く飲料会社です。2024年8月6日、NTT東日本と連名で、大宮アルディージャを運営する会社の株式100%を譲り受ける契約を結んだと発表しました。

この発表でレッドブルは、サッカーでは米国、ドイツ、ブラジルの3か国で3つのクラブが活動していて、「レッドブルサッカーネットワーク」をつくっていると説明しています。事業会社が自社の名前を付けたクラブを各国に持つ形です。

(参考)エヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社のレッドブル・ゲーエムベーハーへの株式譲渡に関するお知らせ(2024年8月6日) – NTT東日本

INEOS|化学の会社が3か国のクラブを持つ

INEOSは、サッカーボールや人工芝の素材にもなる化学製品をつくる会社です。公式サイトでは、マンチェスター・ユナイテッドを共同で所有して競技面の運営を担い、フランスのOGCニースとスイスのFCローザンヌ・スポルトを所有していると説明しています。

マンチェスター・ユナイテッドとニースは、2024/25シーズンにそろってUEFAヨーロッパリーグの出場権を得ました。このときの対応は、あとの規制の節で取り上げます。

(参考)Football – INEOS

BlueCo|チェルシーの買収に続きストラスブールの株主になる合意を発表

BlueCoは、2022年5月にイングランドのチェルシーを買収した共同体です。フランスのRCストラスブールは2023年6月22日、クラブの株主がBlueCoと合意に達したと発表しました。

ここまでの4グループを見ると、母体は投資家の会社、飲料会社、化学会社、買収のための共同体とさまざまです。事業会社がスポーツに入る形は、スポーツ産業への異業種参入の事例でも整理しています。

(参考)Official statement: BlueCo signs agreement to become the new shareholders of Racing Club de Strasbourg Alsace(2023年6月22日) – Racing Club de Strasbourg Alsace

UEFAの規則はクラブ大会に出るクラブ同士の支配を禁じている

同じ資本の2クラブがUEFAのクラブ大会に2クラブとも出るかどうかと、基準日に支配があるかどうかで、出場の扱いが分かれることを示した分岐図

UEFAは、複数のクラブを持つこと自体を禁じていません。大会規則の第5条が禁じているのは、UEFAのクラブ大会に出るクラブ同士が、株式の保有や経営への関与でつながっていることです。対象の大会は、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、カンファレンスリーグの3つです。

UEFAは2024年10月の通達で、この条の目的を説明しています。競技の公正を守ることと、公正であることに疑いを持たれないようにすることです。同じ持ち主の2クラブが対戦すれば、勝敗への信頼が揺らぎます。

第5条は議決権の過半数と決定的な影響力で支配を判断する

第5条は、まずクラブ自身に、大会に出るほかのクラブの株式を持つことや、その経営や競技面に関わることを禁じています。同じ人が、大会に出る2つ以上のクラブの経営や競技面に同時に関わることも禁じられています。

そのうえで、個人や法人が2つ以上のクラブを支配すること、影響力を持つことを禁じています。支配と影響力の中身は、議決権の過半数を持つこと、役員の過半数を選んだり解任したりできること、ほかの株主との合意で議決権の過半数を握ること、そしてどんな手段であれクラブの意思決定に決定的な影響力(decisive influence)を行使できることです。

日本の会社法は、議決権の過半数を持つ相手などを子会社と定めています。UEFAの規則は、過半数に届かない場合でも、決定的な影響力があれば支配とみなしうる点で、これより広い物差しです。

(参考)Regulations of the UEFA Champions League 2026/27 Article 5 Integrity of the competition/multi-club ownership – UEFA

(参考)会社法 – e-Gov法令検索

基準日は3月1日で守れていないと1クラブだけが出場する

クラブは、大会が始まる前の3月1日の時点で第5条の基準を満たしていたことを証明し、シーズンの終わりまで守り続ける必要があります。2026/27シーズンなら、2026年3月1日です。2024/25シーズンの基準日は6月3日でしたが、UEFAは審査に時間がかかることを理由に、2025/26シーズンから3月1日へ早めました。

2つ以上のクラブが基準を満たしていない場合、UEFAの大会に出られるのは1クラブだけです。どちらが出るかは、より格の高い大会の出場権を得たクラブ、次に国内リーグの順位が高いクラブ、という順で決まります。

出られなかったクラブが、例外として下位の大会に回ることを認める項もあります。また、チャンピオンズリーグのリーグフェーズに直接入るクラブと、ヨーロッパリーグやカンファレンスリーグのクラブの間など、一部の組み合わせには、この条を適用しないと定められています。

(参考)Regulations of the UEFA Champions League 2026/27 Article 5 Integrity of the competition/multi-club ownership – UEFA

(参考)UEFA Circular No. 54/2024(2024年10月7日)を収録した Circular N.º 41 – RFEF(スペインサッカー連盟)

2024年の信託は例外で2025年は基準日が厳格に適用された

2024年7月5日、UEFAの審査機関は、マンチェスター・シティとジローナのチャンピオンズリーグ出場、マンチェスター・ユナイテッドとニースのヨーロッパリーグ出場を認めました。CFGとINEOSが、ジローナとニースの株式を独立した受託者に預けたためです。CFGは公式サイトで、2024年7月1日から2025年6月30日まで、ジローナの株式を独立したブラインドトラスト(持ち主が運用に口を出せない信託)に入れたと説明しています。

ただし、UEFAはこの信託を、2024/25シーズンに限って例外として認めたものだとしています。第5条の条文に、信託に預ければよいという定めはありません。

2025年は結果が変わりました。UEFAは6月から7月にかけて、3組のクラブが2025年3月1日の時点で基準に違反していたと判断しています。イングランドのクリスタル・パレスは、フランスのリヨンとの関係を理由に、ヨーロッパリーグではなくカンファレンスリーグへの出場になりました。アイルランドのドロヘダとスロバキアのDACドゥナイスカー・ストレダは、カンファレンスリーグへの出場を認められませんでした。

UEFAは2025年12月の通達で、スポーツ仲裁裁判所(CAS)が3件の裁定で、3月1日を「厳格な期限」と認めたと伝えています。2026/27シーズンも基準日は3月1日のままで、第5条に実質的な変更はありません。国際サッカー連盟(FIFA)も2025年3月、クラブワールドカップの規則にある同じ趣旨の基準を満たしていないとして、メキシコのクラブ・レオンを大会から外しました。

(参考)The CFCB decides on multi-club ownership cases for the 2024/25 season(2024年7月5日) – UEFA

(参考)About City Football Group – City Football Group

(参考)Update on multi-club ownership cases for admission to the 2025/26 UEFA club competitions(2025年6月30日) – UEFA

(参考)The CFCB First Chamber renders decision on Crystal Palace and Olympique Lyonnais(2025年7月11日) – UEFA

(参考)Circular No. 69/2025 Decision of the UEFA Executive Committee regarding Article 5 of the UEFA club competition regulations(2025年12月8日) – UEFA

(参考)FIFA Appeal Committee decision on CF Pachuca and Club León(2025年3月21日) – FIFA

Q. ブラインドトラストに株式を預ければ、同じ大会に2クラブとも出られますか?

出られるとは限りません。UEFAが信託を認めたのは2024/25シーズンに限った例外で、大会規則の第5条に信託の定めはありません。2025/26シーズンは、3月1日の基準日に基準を満たしていなかったクラブが、出場を認められなかったり下位の大会に回ったりしました。

Jリーグの規約は他のJクラブの株式保有と役職員の兼務を禁じている

Jリーグの規約に、マルチクラブオーナーシップという語は出てきません。関係するのは、株主を定めた第29条と、役職員の禁止事項を定めた第30条、そしてクラブライセンスの法務基準です。いずれも、対象は「他のJクラブ」や「同じ競技会に出場している他のクラブ」です。

議決権の15%以上を持つ新しい株主にはチェアマンの承認が要る

Jリーグ規約の第29条は、Jクラブが他のJクラブの株式を持つことを禁じています。他のJクラブに重大な影響を与えうる法人の株式を、議決権の15%以上持つことも禁じられています。違反が分かると、Jリーグは期間を決めて、持株比率を適正にするよう求めることができます。

同じ条は、新しい大株主が現れるときの手続きも定めています。議決権の15%以上を持つ株主、3分の1を超える株主、50%を超える株主が新たに生まれる場合は、その株主が適正かどうかについて、チェアマンの承認が必要です。承認されない理由の1つに、クラブライセンスの「他クラブの経営等への関与の禁止」に当たる場合が挙げられています。

海外の会社が日本のクラブの株式を取得する場合は、Jリーグの承認とは別に、国の手続きも関係しえます。外国為替及び外国貿易法は、外国投資家が上場していない会社の株式を取得することを「対内直接投資等」に含めています。届出が要るかどうかは事業の内容などで変わるので、個別の案件は専門家に確認してください。

(参考)Jリーグ規約 – 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ

(参考)外国為替及び外国貿易法 – e-Gov法令検索

クラブライセンスは同じ競技会に出るクラブへの関与を禁じている

規約の第30条は、Jクラブの役員と職員に、他のJクラブの役職員を兼ねること、他のJクラブの株式を持つこと、他のJクラブやその役職員とお金の貸し借りをすることを禁じています。資本だけでなく、人とお金のつながりも対象です。

J1・J2クラブライセンス交付規則の法務基準L.03は、クラブの経営や競技活動に関わる人や法人が、同じ競技会に出場している他のクラブの議決権の過半数を持つことや、役員の過半数を選ぶ権利を持つことなどに当たらないと宣言する文書を、クラブに求めています。組み立てはUEFAの第5条とほぼ同じです。

文言の上では、禁じられているのは同じ競技会に出るクラブとの関係です。国内リーグが違う海外のクラブを持つことや、サッカーと別の競技のクラブを持つことを直接禁じる文は、規約と交付規則には見当たりません。ただし、実際に認められるかどうかはJリーグの判断によります。

あわせて読みたいクラブライセンスとは|Jリーグの基準と債務超過・制裁の扱い›

(参考)Jリーグ規約 – 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ

(参考)J1・J2クラブライセンス交付規則 – 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ

日本のクラブと企業の関わり方は4つの形に分かれる

日本のクラブや企業が関わる例を、当事者の公式発表だけで確かめると、4つの形に分けられます。同じ「グループの一員」という言い方でも、株式を持つ関係と持たない関係があるので、発表の文言を読み分けることが大切です。

形 例 公式発表の内容
海外グループの傘下に入る RB大宮アルディージャ 2024年8月6日、NTT東日本が運営会社の株式100%をレッドブルへ譲渡する契約を発表
日本企業が海外のクラブを持つ ONODERA GROUP、DMMグループ 2022年11月にオリヴェイレンセの株式の過半数を取得/2017年11月にシント=トロイデンの経営権を取得
出資から提携に切り替える 横浜F・マリノスとCFG 2026年6月25日、CFGが持つ全株式を日産自動車へ譲渡すると発表。以後はパートナークラブ
国内で複数競技のクラブを持つ MIXI FC東京の運営会社の議決権51.3%を取得(2021年11月の発表)。千葉ジェッツふなばしも運営

日本のクラブと企業がマルチクラブオーナーシップに関わる4つの形(出典:NTT東日本、横浜FC、シント=トロイデンVV、横浜F・マリノス、株式会社MIXI の各公式発表。2026年10月11日確認)

海外グループの傘下に入る|RB大宮アルディージャ

レッドブルとNTT東日本は2024年8月6日、大宮アルディージャと女子の大宮アルディージャVENTUSを運営する会社の株式100%を、レッドブルに譲渡する契約を結んだと発表しました。譲渡は2024年9月の予定とされ、金額は公表されていません。

発表は、ネットワークの一員になることで実現することとして、選手と指導者の育成、ノウハウの活用、環境への投資を挙げています。Jリーグのクラブが、海外に複数のクラブを持つグループの100%子会社になった例です。

(参考)エヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社のレッドブル・ゲーエムベーハーへの株式譲渡に関するお知らせ(2024年8月6日) – NTT東日本

日本企業が海外のクラブを持つ|横浜FCとシント=トロイデン

横浜FCを持つONODERA GROUPは2022年11月4日、ポルトガル2部のUDオリヴェイレンセの株式の過半数を取得したと発表しました。同社はこれを、Jリーグのクラブと欧州のクラブの経営権を持つ企業として史上初だと説明しています。日本の若手選手が欧州に挑戦する入り口にする、というねらいも書かれています。

DMMグループは2017年11月15日、ベルギー1部のシント=トロイデンVVの経営権を取得しました。2025年7月には株式の一部をジャパネットホールディングスに譲渡し、DMMを含む4社が出資する体制になっています。ジャパネットはV・ファーレン長崎を経営する会社で、国内のクラブを持ちながら海外のクラブにも出資する形です。

シンガポールに本社を置き、日本人が率いるACAフットボール・パートナーズも、欧州の複数のクラブを持つグループをつくると公式サイトで説明しています。ただし、中心だったベルギーのKMSKデインズについては、2024年10月に株式を譲渡する合意を発表しました。複数のクラブを持つ事業が、いつも続くとは限りません。

(参考)ONODERA GROUPがUD オリヴェイレンセ(ポルトガル 2 部)の経営権を取得、同クラブをグループ傘下へ(2022年11月4日) – 横浜FC

(参考)DMMグループが、ベルギー1部リーグSTVVの経営権を取得(2017年11月15日) – シント=トロイデンVV

(参考)株式会社ジャパネットホールディングスとの資本業務提携および プラチナスポンサー契約締結のお知らせ(2025年7月22日) – シント=トロイデンVV

(参考)Our clubs – ACA Football Partners

(参考)Official Statement from ACA Football Partners Regarding the Transfer of KMSK Deinze Shares – ACA Football Partners

出資から提携に切り替える|横浜F・マリノスとCFG

CFGは2014年、日産自動車が持つ横浜F・マリノスの少数株主になりました。日産の当時の発表は、CFGの知識や専門性、サービスをクラブに提供する関係だと説明しています。出資比率は公表されていません。

横浜F・マリノスは2026年6月25日、CFGが持つ全株式が日産自動車に譲渡されると発表しました。今後はパートナークラブとして活動を続け、チームの強化や新しいスポンサーの獲得にともに取り組むとしています。株式を持たない提携でも、グループの一覧にクラブの名前は残ります。

(参考)日産とシティフットボールグループ グローバルサッカーパートナーシップを締結(2014年7月16日) – 日産自動車

(参考)株主構成の変更に関するお知らせ(2026年6月25日) – 横浜F・マリノス

国内で複数競技のクラブを持つ|MIXIのFC東京と千葉ジェッツ

MIXIは2021年11月22日、FC東京を運営する会社の増資を引き受けて子会社にすると発表しました。議決権の割合は4.2%から51.3%になり、取得価格は11.5億円です。この発表には、Jリーグの理事会の承認を得ることが実行の条件だと書かれていて、先に見た規約の手続きが実際に働いていることが分かります。

MIXIは、バスケットボールのBリーグに所属する千葉ジェッツふなばしも運営しています。サッカーとバスケットボールは別のリーグなので、他のJクラブの株式保有を禁じる規約の対象にはなりません。UEFAのいう複数クラブとは別の話ですが、1つの会社が複数のクラブを運営する点では共通しています。

(参考)FC東京を運営する東京フットボールクラブ株式会社の第三者割当増資引受(子会社化)に関するお知らせ(2021年11月22日) – 株式会社MIXI

(参考)スポーツ – 株式会社MIXI

Q. 日本にマルチクラブオーナーシップの例はありますか?

あります。横浜FCを持つONODERA GROUPは2022年11月、ポルトガル2部のUDオリヴェイレンセの株式の過半数を取得しました。大宮アルディージャは2024年、運営会社の株式100%がレッドブルに譲渡される契約が発表され、海外グループの一員になっています。

グループの中ではスポンサーの権利と育成の経路が共有される

グループ会社を中心に、出資者、所有するクラブ、提携クラブ、スポンサー企業との間で、資金、選手と指導者、ノウハウ、スポンサーの権利が動くことを示した関係図

グループの中では、資金、選手と指導者、ノウハウ、スポンサーの権利が、グループ会社を通じて動きます。協賛する企業から見ると、契約の相手がクラブではなくグループになる場合がある、という点が実務に関わります。クラブを取り巻く関係者の全体像は、スポーツ業界のステークホルダーの記事で整理しています。

スポンサー契約がグループ単位になると1本で複数クラブの権利が付く

日産自動車は2014年7月、CFGとグローバルパートナーシップを結んだと発表しました。期間は5年で、日産はCFGの公式の自動車パートナーになり、マンチェスター・シティのスタジアムでブランドを展開する権利を得ています。あわせて、世界中のCFGのクラブのサポーターと交流する機会も得ました。

この発表は、権利を「CFGのサッカークラブの各ネットワーク内で活用できる」ものだと説明しています。クラブごとに契約を結ぶのではなく、グループと1本の契約を結んで、複数の国のクラブで権利を使う形です。金額は公表されていません。

出資とスポンサー契約を同時に結ぶ例もあります。ジャパネットホールディングスは2025年7月、シント=トロイデンVVと資本業務提携を結ぶと同時に、プラチナスポンサーになりました。ユニフォームの鎖骨の位置にロゴが入り、BS放送局のBS10で試合を放送する計画も示されています。契約で決めておく項目は、スポーツスポンサー契約で確かめる6項目にまとめています。

(参考)日産とシティフットボールグループ グローバルサッカーパートナーシップを締結(2014年7月16日) – 日産自動車

(参考)株式会社ジャパネットホールディングスとの資本業務提携および プラチナスポンサー契約締結のお知らせ(2025年7月22日) – シント=トロイデンVV

グループ内の移籍は1クラブあたり平均1件未満にとどまる

グループをつくる理由として、選手を行き来させることがよく挙げられます。レッドブルと大宮の発表も、選手と指導者を育てる経路づくりを掲げていました。

ただし、UEFAの集計では、同じグループの中で行われる移籍は、1クラブあたり平均で1件に届きません。2023年は0.60件でした。中身も、期限付き移籍と移籍金のない移籍が大半です。UEFAは、選手の移籍は投資の動機の1つにすぎず、おそらく主な動機ではないと書いています。

UEFAの2025年版の報告書は、複数のクラブを持つねらいとして、リスクを分散することと、運営の力を大きな規模で使うことを挙げています。移籍金そのものの仕組みは、移籍金は誰がもらうのかで説明しています。

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(参考)The European Club Finance and Investment Landscape(2024年2月公表版) – UEFA

(参考)The European Club Finance and Investment Landscape(2025年版) – UEFA

(参考)エヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社のレッドブル・ゲーエムベーハーへの株式譲渡に関するお知らせ(2024年8月6日) – NTT東日本

UEFAは競技の公正と育成の踏み台になる懸念を挙げている

UEFAが第一に挙げる論点は、競技の公正です。2024年2月の報告書は、同じ持ち主や出資者を持つ2クラブが同じ大会で対戦する危険が高まっていると書いています。大会規則の第5条は、この懸念に応えるものです。

同じ報告書は、グループの中の一部のクラブが、成績を上げる意思のない「選手育成の場」として使われるおそれにも触れています。グループの中の移籍が、出資者に都合のよい金額で行われて、移籍市場をゆがめるおそれも挙げました。ただし後者については、いまのところ証拠はないとも書いています。

クラブとスポンサー、ファンの関係に広く影響が及ぶ、という指摘もあります。統括団体の文書がサポーターの受け止めに触れた箇所は、確かめた範囲ではこの指摘までです。協賛する企業は、クラブの持ち主が替わるとブランドの見え方も変わりうる、という論点として押さえておけば足ります。

(参考)The European Club Finance and Investment Landscape(2024年2月公表版) – UEFA

出資や協賛の前に企業が確かめる3つの点

ここまでの規則と事例を、出資や協賛を検討するときの確認に置き換えると、3つの点になります。いずれも、相手のクラブの公式発表と、リーグの規則で確かめられることです。

相手のクラブが同じ資本のクラブと同じ大会に出る可能性

最初に確かめるのは、相手のクラブを持つ資本が、ほかにどのクラブを持っているかです。同じ大会に出る可能性があれば、基準日までに持株や役員の体制を変える必要が出てきます。変えられなければ、出場する大会が変わります。

クリスタル・パレスの例では、出場する大会がヨーロッパリーグからカンファレンスリーグに変わりました。協賛する企業にとっては、契約したときに見込んでいた試合や露出が変わるということです。契約の前に、出場する大会が変わった場合の扱いを決めておくと安心です。

関係が出資か提携かと公式発表の文言

次に、相手のクラブとグループの関係が、株式を持つ出資なのか、持たない提携なのかを確かめます。横浜F・マリノスとCFGのように、同じ相手との関係が出資から提携に変わることもあります。

確かめる先は、クラブと出資者の公式発表です。「経営権を取得」「過半数を取得」「少数株主」「パートナークラブ」では、意思決定に関わる度合いが違います。出資比率は公表されないことも多いので、報道の数字だけで判断しないことが大切です。

株主が替わったときのスポンサー契約の扱い

3つ目は、協賛しているクラブの株主が替わったときに、自社の契約がどうなるかです。運営会社の株式がすべて別の会社に移る場合、クラブの名前や、グループ共通のスポンサーとの関係が変わることがあります。

契約書に、株主の変更があったときの通知や協議の定めがあるかを確かめておきます。出資する側であれば、Jリーグの承認が要る比率(15%、3分の1、50%)のどこに当たるかを、早い段階でクラブと確認してください。サッカーの協賛先を広く比べたい場合は、サッカーのスポンサー一覧も参考になります。

まとめ|マルチクラブオーナーシップは大会と支配の2点で読む

マルチクラブオーナーシップをめぐる規則は、同じ大会に出るかどうかと、支配があるかどうかの2点で整理できます。要点を振り返ります。

  • マルチクラブオーナーシップは1つの資本が複数のクラブを持つ仕組みで、UEFAは支配を伴う保有と、支配を伴わない出資を書き分けている
  • UEFAの2025年版の報告書では、複数クラブ投資の関係にあるクラブは世界で345、欧州の1部リーグで122(16%)
  • UEFAの大会規則の第5条は、クラブ大会に出るクラブ同士の支配を禁じ、3月1日の基準日に守れていないと1クラブだけが出場する
  • Jリーグの規約は他のJクラブの株式保有と役職員の兼務を禁じ、議決権の15%以上を持つ新しい株主にはチェアマンの承認を求めている
  • 日本の例は、海外グループの傘下に入る、海外のクラブを持つ、出資から提携に切り替える、国内で複数競技のクラブを持つ、の4つの形に分かれる

出資や協賛を検討するときは、相手のクラブの株主と、その株主がほかに持つクラブを、公式発表で確かめるところから始めてください。スポーツ産業全体の動きは、日本スポーツ業界の8つの課題でも整理しています。なお、この記事の規制の説明は一般的な内容の紹介です。個別の案件は、リーグと弁護士などの専門家に確認してください。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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