熱中症対策の義務化|企業が学ぶスポーツ式WBGT中止基準

熱中症対策の義務化|企業が学ぶスポーツ式WBGT中止基準 ソリューション

午後2時、屋外の作業場で暑さ指数が基準を超えた。納期は明日に迫っている。現場責任者は危ないと感じながら、「こまめに水を飲んで続けよう」と声をかけてしまう。

この場面は、特別な現場だけの話ではありません。厚生労働省が2026年5月27日に公表した令和7年(2025年)の確定値では、職場の熱中症による死亡と休業4日以上の死傷者は合わせて1,803人で、統計開始以来最多でした。死亡者は19人と前年より12人(約39%)減りましたが、死傷者は前年から546人(約43%)増えています。

2025年6月1日には改正労働安全衛生規則が施行され、WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行う見込みの作業について、報告体制の整備、対応手順の作成、関係者への周知が事業者に義務づけられました。ただし、これは「症状が出た人への対応」の義務です。確認した範囲の厚生労働省資料からは、暑さ指数がいくつになったら作業を止めるのかという線引きまでは読み取れません。

その「止める線引き」を先に決めてきたのが、スポーツの世界です。日本スポーツ協会は2024年6月3日の対応方針で、WBGT31℃以上なら主催事業を原則中止とし、実施可否の判断フローを事前に参加者へ周知するとしました。本記事では、この仕組みを企業の作業現場に移す導入プランを提案します。

(参考)令和7年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)を公表します – 厚生労働省

  1. プランの概要|熱中症対策の義務化の次に必要な「止める基準」をスポーツの暑熱対策から移す
  2. 課題解決の流れ|過去最多1,803人が示す「手順はあるのに止める線引きがない」状態
    1. 現状の課題|義務化の手順は整ったが止める判断は現場責任者の度胸に残る
    2. 問題の要因|義務の中身が「症状が出た後」に集中していて事前の線引きまでは求められていない
    3. 解決策|基準と判断者と納期の扱いを暑くなる前に決めておく
  3. スポーツの暑熱対策が企業の熱中症対策に効く3つの理由
    1. 理由1|暑さ指数の数字を先に決めて判断を「その場の度胸」から「事前の合意」へ移している
    2. 理由2|競技ごとに階段の高さを変えて現場の実態に合う基準にしている
    3. 理由3|提供主体の強み|スポーツ現場の判断ルールと企業の運営設計の両方に日常的に接している
  4. プランの具体的な内容|止める判断を回す3つの仕組み
    1. 仕組み1|作業別の階段表|暑さ指数の段階ごとに「続ける・変える・止める」を決める
    2. 仕組み2|判断者と権限|止める人を指名して止めた判断を責めない
    3. 仕組み3|工程と納期の事前合意|止まった日の扱いを取引先と先に決める
  5. 導入ロードマップ|試行・標準化・夏季運用の3フェーズで12ヶ月かけて広げる
    1. 0〜3ヶ月|検証|1〜2現場で階段表を試して測る手順の無理を洗い出す
    2. 3〜6ヶ月|標準化|判断者の指名と取引先との合意を全現場でそろえる
    3. 6〜12ヶ月|夏季運用|本番の夏に回して振り返りを月額の運用に組み込む
  6. 効果の経路とKPI・リスク|止める判断のばらつきが縮むまでを数字で追う
    1. 効果が効いてくる経路|基準の整備から症状が出る前の作業変更へ
    2. KPIの設計|フェーズごとに見る指標を決める(仮説としての目安)
    3. リスクと対応策|基準の形骸化と測定の手間を先に防ぐ
    4. 続行・撤退の判断基準|どの数値で見直すかを事前に決めておく
  7. 料金モデルという選択肢|月額提携型で「基準書を納めて終わり」をなくす
    1. 買い切り型の限界|基準は納めた日から古くなる
    2. 新モデルの仕組み|設計費は固定で運用は月額で夏の前後に見直す
    3. 導入時の注意点|成果の指標は発生件数ではなく基準どおり動けた回数に置く
  8. 対象となる組織・読者|暑さの影響を受ける現場を持つ3つのタイプ
    1. 屋外の現場作業を持つ中堅企業の経営者
    2. 倉庫・店舗・運送など屋内外が混在する事業責任者
    3. 安全衛生・人事の担当者
  9. 期待できる効果|止める判断が早まり現場と取引先の負担が下がる
    1. 現場の判断が早くなる
    2. 経営と取引先の見通しが立つ
    3. 「止めてよい」という安心感が組織に定着する
  10. まとめ|義務化の手順に「止める基準」を足して現場が止められる状態をつくる

プランの概要|熱中症対策の義務化の次に必要な「止める基準」をスポーツの暑熱対策から移す

  • 対象:屋外作業や高温の屋内作業を抱える、従業員30〜500名規模の企業の経営者・事業責任者・安全衛生の担当者
  • 課題:義務化された報告体制と対応手順はあるが、作業を止める線引きと、止めた日の納期の扱いが決まっていない
  • 導入期間(目安):基準の設計と試行に約3ヶ月、全現場への展開と夏季の運用まで含めて約12ヶ月

本プランは、スポーツの暑熱対策で使われている「数字で先に決める」「競技ごとに階段を変える」「止める人を決めておく」の3つを、「作業別の階段表」「判断者と権限」「工程と納期の事前合意」という3つの仕組みに変えて企業の現場に当てはめます。熱中症が起きてからの対応ではなく、作業を止めるかどうかを現場責任者が一人で背負わない状態をつくることが狙いです。

課題解決の流れ|過去最多1,803人が示す「手順はあるのに止める線引きがない」状態

令和7年の発生状況を業種別に見ると、被害は建設業だけに偏っていません。表は、死傷者数の多い上位5業種を抜き出したものです。

業種別の熱中症による死傷者数(令和7年・確定値)
業種 死傷者数(人) うち死亡者数(人)
製造業 365 2
建設業 292 5
商業 237 2
運送業 220 1
警備業 199 3
全業種の合計 1,803 19

出典:厚生労働省「令和7年職場における熱中症の発生状況(確定値)等について」をもとに作成(休業4日以上の死傷者数。死亡者を含む)

製造業の死傷者数は365人で、建設業の292人を73人上回っています。死亡者数は建設業が5人で最も多く、警備業の3人が続きます。表の5業種の死傷者数を合計すると1,313人で、全体の約72.8%にあたります(いずれも本記事の計算値)。屋外の現場だけでなく、倉庫や工場、店舗、運送の現場でも同じ備えが要ることが分かります。

現状の課題|義務化の手順は整ったが止める判断は現場責任者の度胸に残る

  • 【止める判断の孤立】報告体制と対応手順が整っても、作業を止めるかどうかは、その場の現場責任者が一人で決める状態が残る
  • 【納期との板挟み】止めた分の工程の遅れが誰の責任になるかが決まっておらず、止める判断が遅れる
  • 【現場ごとの暑さの違い】製造・建設・商業・運送・警備のどれでも死傷者が出ており、作業の強さや環境が違う現場を一つの基準では扱いきれない

問題の要因|義務の中身が「症状が出た後」に集中していて事前の線引きまでは求められていない

  • 【義務の焦点】求められているのは、熱中症のおそれがある人を見つけたときの報告体制の整備と、作業からの離脱・身体の冷却・医療機関への搬送などの手順の作成と周知
  • 【線引きの空白】確認した範囲の厚生労働省資料には、作業を中止する暑さ指数の数値基準は示されておらず、事業場ごとの設計に残されている
  • 【判断者と納期が未設計】誰が止める権限を持ち、止めた日の工程と取引先との約束をどう扱うかが決まっていない

厚生労働省の第174回安全衛生分科会資料は、対象作業をWBGT28度以上または気温31度以上の環境で連続1時間以上または1日4時間を超えて行う見込みの作業とし、手順には作業からの離脱、身体の冷却、医療機関への搬送、緊急搬送先の連絡先などを含めるよう示しています。判断に迷う場合の相談先として「#7119」の活用も例に挙げられています。

(参考)職場における熱中症対策が強化されます~令和7年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行~(2025年5月2日公表) – 千葉労働局

(参考)職場における熱中症対策の強化について(第174回安全衛生分科会 資料3) – 厚生労働省 労働基準局 安全衛生部 労働衛生課

(参考)令和7年職場における熱中症の発生状況(確定値)等について – 厚生労働省

解決策|基準と判断者と納期の扱いを暑くなる前に決めておく

  • 【作業別の階段表】暑さ指数の段階ごとに、作業の種類別に「続ける・変える・止める」を決める
  • 【判断者の指名】止める権限を持つ人を事前に指名し、止めた判断を評価の対象にしない
  • 【納期の事前合意】暑さで止まった日の工程と納期の扱いを、取引先と夏が来る前に決める

Q. 熱中症対策の義務化は、どんな作業が対象ですか?

WBGT28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行う見込みの作業が対象です。2025年6月1日から、事業者には熱中症のおそれがある人を見つけたときの報告体制の整備、対応手順の作成、関係者への周知が求められています。

スポーツの暑熱対策が企業の熱中症対策に効く3つの理由

熱中症対策の義務化|現場の判断任せと事前の基準で運用する場合の流れの比較

図は、暑さを感じてから作業を続けるまでの流れを、現場の判断に任せる場合と、事前に決めた基準で動かす場合で並べたものです(本記事の整理)。違いは「誰がその場で悩むか」ではなく、「悩む前に何が決まっているか」にあります。

理由1|暑さ指数の数字を先に決めて判断を「その場の度胸」から「事前の合意」へ移している

日本スポーツ協会(JSPO)は2024年6月3日に「スポーツ活動中の暑熱対策に関するJSPO対応方針」を策定し、主催事業ではWBGT31℃以上の場合に活動を原則中止とし、WBGTに基づく実施可否の判断フローを事前に参加者へ周知するとしました。各部署は事業ごとの個別指針を定め、委員会などの承認を得ることも求められています。

当日の空気ではなく、あらかじめ承認された基準で判断するため、止める側も止められる側も納得しやすくなります。企業に置き換えると、数字を先に決め、誰が承認したかを記録に残すということです。

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(参考)スポーツ活動中の暑熱対策に関するJSPO対応方針を策定しました(2024年6月3日) – 公益財団法人日本スポーツ協会

理由2|競技ごとに階段の高さを変えて現場の実態に合う基準にしている

国民スポーツ大会の暑熱対策に関する対応方針(2025年8月20日施行、第79回大会から適用)は、競技ごとに基準を変えています。軟式野球では、WBGT28〜31℃未満で5分間のクーリングブレイクを設け、31℃以上で原則中止・中断・延期、33℃以上で中止・順延・時間変更を判断し、35℃以上では中止または順延を判断します。テニスは28℃で頻繁な休息、30.1℃でヒートルールの適用、32.2℃でプレーの一時中止を検討する形です。

ゴルフは33℃以上で原則プレーを中断し、トライアスロンは28℃以上が予想される場合に前日の検討会議で距離短縮などを検討して、最終判断を競技開始の3時間前に置きます。同じ暑さ指数でも、動きの激しさや競技の特性によって止める線が違うという考え方です。

企業の現場でも、重い荷物を運ぶ作業と、立ったまま行う検品では、同じ数字で同じ対応にはなりません。作業別に階段の高さを変えることが、現場に受け入れられる基準の条件になります。合否を数字や写真で決めて運用する考え方は、多店舗経営の品質ばらつきを防ぐ店舗ライセンス基準の記事でも扱っています。

(参考)国民スポーツ大会における暑熱対策に関する対応方針(2025年8月20日施行) – 国民スポーツ大会委員会

理由3|提供主体の強み|スポーツ現場の判断ルールと企業の運営設計の両方に日常的に接している

本プランを提供する側は、スポーツの現場で使われる中止・中断の判断ルールの設計と運用に関する情報に日常的に接し、同時に、企業の現場運営や人事・安全衛生の制度設計も扱っています。この両方に接しているからこそ、競技の基準をそのまま写すのではなく、作業の種類や取引の慣行に合わせて翻訳できます。

基準づくりは、数字を決めて終わりではありません。現場責任者の声を聞きながら試し、直し続ける作業です。その運用を継続して支えられる体制があることが、提供主体の強みになります。

Q. スポーツの暑さ指数の基準を、そのまま職場に当てはめてよいですか?

そのまま当てはめず、作業の種類ごとに階段を作り直します。国民スポーツ大会の方針でも、軟式野球・テニス・ゴルフで基準の数値が異なります。職場でも、作業の強さ、服装、休憩の取りやすさに合わせて段階を設定します。

プランの具体的な内容|止める判断を回す3つの仕組み

熱中症対策の暑さ指数WBGT別|運動指針の段階ごとの扱い(31℃以上は原則中止)

図は、日本体育協会が1994年に示した「熱中症予防のための運動指針」が、暑さ指数の段階ごとに運動の扱いを分けている様子です。企業ではこの形を、作業の種類ごとに作り直して使います。

仕組み1|作業別の階段表|暑さ指数の段階ごとに「続ける・変える・止める」を決める

作業を「重い・中程度・軽い」などに分け、暑さ指数の段階ごとの対応を一枚の表にします。最も高い段階は、スポーツの指針と同じく特別な場合を除いて作業を止める線とし、その下の段階には作業時間の短縮や休憩間隔の短縮など「変える」対応を置きます。

測る場所、測る時刻、測る人も表に書き込みます。同じ現場で毎日同じ手順で測れるようにしておくことが、階段表を形骸化させない第一歩です。

(参考)暑さ指数の表示について(日本体育協会「熱中症予防のための運動指針」1994年を掲載) – 環境省

仕組み2|判断者と権限|止める人を指名して止めた判断を責めない

国民スポーツ大会の方針では、選手が熱中症の症状を訴えた場合に審判が直ちに試合を止め、競技役員は救護員と状況を確認する形が定められています。企業では、現場責任者以外にも、作業班のリーダーや安全衛生の担当者など、止める権限を持つ人を事前に指名します。

そのうえで、止めた判断は評価に響かないことを経営者が明言します。止めた結果の遅れを個人に負わせないことが、判断の遅れを防ぎます。判断を預ける設計は、経営者の意思決定を速めるスポーツ采配式合議の記事とも通じます。

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仕組み3|工程と納期の事前合意|止まった日の扱いを取引先と先に決める

国民スポーツ大会の方針は、暑熱で日程を変更する場合の順位や成績の取扱いを、事前に決めておく事項に入れています。企業の側では、暑さで作業を止めた日の工程の振替、納期の延長、費用の負担を、夏が来る前に取引先と文書で合意しておきます。

止めるたびに交渉が必要な状態では、現場は止められません。納期の扱いを先に決めておくことが、基準を実際に使える状態に変えます。

導入ロードマップ|試行・標準化・夏季運用の3フェーズで12ヶ月かけて広げる

熱中症対策の中止基準づくり|12か月の導入ロードマップのガント図

基準は、先に試して初めて現場の言葉になります。そのため、全現場に広げる前に1〜2か所で試し、次に判断者と取引先との合意をそろえ、夏の本番運用で振り返る順に進めます。図は、12か月の中で各取り組みがどの時期に重なるかを示したものです。

0〜3ヶ月|検証|1〜2現場で階段表を試して測る手順の無理を洗い出す

階段表の案を作り、1〜2現場で、暑さ指数を測る場所・時刻・担当者を決めて試します。この時期に検証するのは、測れない日がなぜ生まれるか、階段の高さが作業の実態に合っているかの2点です。収益化はまだ考えず、設計費の範囲で進めます。

3〜6ヶ月|標準化|判断者の指名と取引先との合意を全現場でそろえる

検証で直した階段表を全現場の様式にそろえ、止める権限を持つ人を現場ごとに指名します。取引先との工程・納期の合意文書もこの時期に整えます。標準化するのは、表の様式、測定の手順、止めた記録の付け方です。

6〜12ヶ月|夏季運用|本番の夏に回して振り返りを月額の運用に組み込む

本番の夏には、止めた回数、止めた理由、工程への影響を月ごとに振り返り、階段の高さを見直します。この振り返りと見直しの支援を月額の提携に切り替え、基準が古くならない仕組みにします。

Q. 暑さ指数の基準づくりは、いつから始めればよいですか?

夏が終わったこの時期から始めるのが向いています。約3ヶ月で1〜2現場に試行し、その後に全現場へ広げれば、翌年の夏の本番に間に合います。暑い時期に慌てて作るより、振り返りの材料が新しいうちに設計できます。

効果の経路とKPI・リスク|止める判断のばらつきが縮むまでを数字で追う

効果は、階段表を作った瞬間ではなく、毎日使われ、止めた判断が責められない経験が積み重なってから現れます。ここでは、効果の経路、見る指標、起きやすいリスク、見直しの基準の順に整理します。

効果が効いてくる経路|基準の整備から症状が出る前の作業変更へ

経路は、階段表の整備から、止める判断の早期化、症状が出る前の作業変更、熱中症のおそれがある人の減少へと進みます。最初の数か月は指標が動きにくく、止めた経験が現場に蓄積されてから変化が見え始める点に注意が要ります。

KPIの設計|フェーズごとに見る指標を決める(仮説としての目安)

KPIは、自社の導入前の状況(ベースライン)を把握することが前提です。次の表は、フェーズごとに見る指標の目安です。

フェーズ別のKPI(仮説としての目安)
フェーズ 指標 見方
0〜3ヶ月 暑さ指数の測定実施率 測った日の割合。測れない日の理由を記録する
3〜6ヶ月 判断者を指名した現場の割合 全現場に対する割合で見る
6〜12ヶ月 階段表に基づく作業変更・中止の件数 基準どおりに動けた回数として見る
6〜12ヶ月 熱中症のおそれによる救急要請・早退の件数 前年の同時期と比べる

出典:本記事の整理(仮説としての目安。自社のベースラインに合わせて調整する)

特に注意したいのは、作業変更・中止の件数の読み方です。夏季運用の初期に件数が増えても、それは悪化ではなく、基準どおりに止められている証拠として扱います。逆に、件数がゼロのまま夏が終わったときは、基準が現場に合っていないか、止めた事実が記録されていない可能性を疑います。

リスクと対応策|基準の形骸化と測定の手間を先に防ぐ

想定されるリスクと対応策
リスク 兆し 対応策
階段表が貼ってあるだけになる 測定の記録が抜ける日が続く 測る担当者を固定し、記録を朝礼で確認する
止める判断が納期に押し切られる 基準を超えても作業が続く 取引先との事前合意を文書にし、判断者の権限を明記する
現場の作業実態と階段が合わない 「この数字では止まれない」という声が出る 夏季運用の振り返りで作業別に階段の高さを見直す

出典:本記事の整理

3つのうち最も起きやすいのは、止める判断が納期に押し切られることです。階段表を作っても、取引先との合意がなければ、現場は基準を超えたまま続けざるを得ません。事前合意は、基準を実際に使える状態に変える土台と考えてください。

続行・撤退の判断基準|どの数値で見直すかを事前に決めておく

たとえば、導入から6か月たっても暑さ指数の測定実施率が8割に届かない場合は、基準の中身ではなく測る手順(機器の置き場所や担当者)の見直しを優先します。夏季運用が終わっても階段表に基づく作業変更が1件も記録されない場合は、基準の設計を現場の作業に合わせてやり直します。12ヶ月の時点で現場の半数以上が階段表を使っていなければ、全現場への展開を止め、使われている現場に絞って再設計します(数値はいずれも仮説です)。

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料金モデルという選択肢|月額提携型で「基準書を納めて終わり」をなくす

このプランに合う料金の形は、設計費を固定にし、運用を月額で継続する月額提携型です。理由は、暑さ対策の基準が一度作って終わりではなく、季節ごとの見直しで価値が保たれる性質を持つためです。

買い切り型の限界|基準は納めた日から古くなる

基準書を一度納めて終わる買い切り型では、作業内容の変更や設備の入れ替え、法令や指針の更新に基準が追いつきません。使われない基準書は、義務化への対応の記録としては残っても、現場の判断を支えなくなります。

新モデルの仕組み|設計費は固定で運用は月額で夏の前後に見直す

初期の設計と試行は固定の設計費とし、運用は月額の提携で、夏の前の準備、夏季の月次振り返り、夏の後の見直しを継続して支援します。導入する企業側は、基準を継続的に更新できます。提供する側は、運用で得た現場の知見を次の設計に反映できます。

導入時の注意点|成果の指標は発生件数ではなく基準どおり動けた回数に置く

熱中症の発生件数に報酬を連動させる成果報酬型は、件数を減らすために申告や報告が控えられるおそれがあるため、このプランには向きません(本記事の考え方)。月額提携でも、最初は1〜2現場だけで契約し、振り返りの仕組みが回り始めてから対象を広げる段階的な導入が現実的です。

Q. 成果報酬型ではなく、月額提携型にするのはなぜですか?

熱中症の発生件数に報酬を連動させると、件数を減らすために申告や報告が控えられるおそれがあるためです。月額提携では、基準どおりに作業を変更・中止できた回数など、報告を促す指標を見ながら、運用と見直しを継続して支援します。

対象となる組織・読者|暑さの影響を受ける現場を持つ3つのタイプ

暑さの影響を受ける現場は業種を問いません。令和7年は製造業から警備業まで死傷者が出ており、次の3タイプが特に当てはまります。

屋外の現場作業を持つ中堅企業の経営者

建設や設備、造園などの現場を持ち、納期と安全の板挟みを現場責任者に任せている経営者です。止める基準と納期の扱いを経営の側が先に決めることで、現場責任者の負担を減らせます。

倉庫・店舗・運送など屋内外が混在する事業責任者

積み込みや搬入は屋外、保管や検品は屋内というように、同じ事業の中で暑さの条件が分かれる責任者です。作業別の階段表が最も効くタイプです。運送の現場については、物流ドライバーの事故を減らすコンディション自己管理の記事も参考になります。

安全衛生・人事の担当者

義務化の手順を整えたあと、「次に何を決めればよいか」を探している担当者です。判断者の指名、止めた判断の評価、取引先との合意は、経営層の了承を得て進める必要があるため、本プランの設計を提案資料として使えます。

期待できる効果|止める判断が早まり現場と取引先の負担が下がる

効果は、現場の判断、経営と取引先との関係、組織全体の安心感の3つの流れに分けて考えられます。

現場の判断が早くなる

階段表と判断者の指名により、止めるかどうかを現場責任者が一人で悩む時間が減ります。症状が出る前に作業を変えられる回数が増えることが、最も直接的な効果です。

経営と取引先の見通しが立つ

止まった日の工程と納期の扱いが事前に決まっているため、暑さによる遅れが突発的なトラブルから、織り込み済みの調整に変わります。経営者は、遅れの責任を現場に押し付けない方針を、取引先との文書でも示せます。

「止めてよい」という安心感が組織に定着する

止めた判断が評価に響かない経験が積み重なると、現場は暑さ以外の危険にも声を上げやすくなります。基準づくりは、熱中症対策にとどまらず、安全を優先する組織の習慣づくりにもつながります。声を上げやすい環境づくりは、企業の内部通報の形骸化を防ぐガバナンス運用の記事でも扱っています。

まとめ|義務化の手順に「止める基準」を足して現場が止められる状態をつくる

  • 令和7年の職場の熱中症は死傷者1,803人で統計開始以来最多。業種は建設業に限らない
  • 義務化されたのは報告体制と対応手順で、作業を止める線引きは事業場ごとの設計に残る
  • スポーツは暑さ指数の数字を先に決め、競技ごとに階段を変え、止める人を決めている
  • 作業別の階段表、判断者と権限、工程と納期の事前合意の3つの仕組みで企業に移す
  • 設計費は固定、運用は月額の提携型にして、夏の前後に基準を見直し続ける

「暑さ指数がいくつになったら、うちの現場は誰が止めるのか」という疑問が浮かんだ時点が、相談のタイミングです。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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