ストレスチェックの職場環境改善|集団分析後の5手順とスポーツ

ストレスチェックの職場環境改善|集団分析後の5手順とスポーツのアイキャッチ スポーツウェルビーイング

ストレスチェックの職場環境改善は、結果を部や課ごとに集計・分析し、その職場の仕事の量や裁量、上司・同僚の支援といったストレスの原因を減らす取り組みで、労働安全衛生規則第52条の14により事業者の努力義務とされています。令和6年の労働安全衛生調査では、集団分析をした事業所の76.8%が結果を活用し、内容は「残業時間削減、休暇取得に向けた取組」が48.5%で最も多く、従業員参加型の職場環境改善は9.4%にとどまりました。

集団分析の報告書は届いたものの、判定図のどこを見て、誰が何を変えればよいのかが決まらないまま1年が過ぎてしまう。そんな状況を抜け出すために、ここでは厚生労働省のマニュアルが示す5つの手順と、「職場環境改善のためのヒント集」の使い方、公表されている事例、そして運動やスポーツを改善策に組み込むときの考え方を整理します。

  1. ストレスチェックの職場環境改善は努力義務|規模を問わず事業者が取り組む
  2. 集団分析を活用した事業所は約6割|改善策は残業削減と休暇取得が最多
  3. 集団分析の後に職場を変える5つの手順|体制から効果評価まで
    1. 体制づくり|問題解決型の取り組みだと最初に示す
    2. 職場環境等の評価|判定図と現場の情報を突き合わせる
    3. 改善計画の立案|良好事例と労働者の意見から選ぶ
    4. 対策の実施|3か月や6か月で進み具合を報告してもらう
    5. 効果評価と見直し|改善されないときは過程も評価する
  4. 職場環境改善のためのヒント集の使い方|判定図で低い指標から項目を選ぶ
    1. ヒント集の領域と主な項目
    2. 判定図の指標ごとに当てはまる項目
    3. ワークショップで使う時間と人数
  5. ストレスチェック後の職場環境改善の事例|業種と規模で見る打ち手
    1. 経営層主導型|設備や全社の制度を変える
    2. 管理監督者主導型|部署ごとの課題に合わせる
    3. 従業員参加型|職場の全員で話し合って決める
  6. 運動とスポーツを職場環境改善に組み込む|ヒント集の項目に沿って選ぶ
    1. 昼休みの運動指導|対人ストレスとソーシャルサポートの改善が報告されている
    2. 社内スポーツ行事と観戦招待|チームワークづくりの場にする
    3. 運動の機会を会社の仕組みにする|スポーツエールカンパニー
  7. ストレスチェックの職場環境改善のまとめ

ストレスチェックの職場環境改善は努力義務|規模を問わず事業者が取り組む

ストレスチェックの職場環境改善の努力義務が、2028年4月の法改正の前後でどう扱われるかを比べた図

職場環境改善の根拠は、労働安全衛生規則第52条の14です。第1項は、ストレスチェックを行った医師等に結果を部署などの集団ごとに集計・分析させること(集団分析)を、第2項は「分析の結果を勘案し、その必要があると認めるときは」、その集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずることを定めています。どちらも「努めなければならない」という書き方で、義務ではなく努力義務です。

厚生労働省の「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)は、集団分析と職場環境改善は事業場の規模に関わらず努力義務だと明記しています。令和7年の労働安全衛生法の改正で50人未満の事業場のストレスチェックも義務になり、施行は令和10年4月1日ですが、職場環境改善が努力義務である点はその後も同じです。義務化の時期と対象はストレスチェック義務化はいつからかを解説した記事にまとめています。

集団分析の規定には、令和8年6月30日公布の省令(令和8年厚生労働省令第112号)で「特定の個人を識別することができない方法で」という文言が加わり、令和9年4月1日から施行されます。厚生労働省は、従来の解釈を明文化したもので運用は変えないとしています。集計の単位が10人を下回る場合は、原則として集団分析をしません。チーム単位の分析の扱いはストレスチェック実施者の要件と集団分析のルールで解説しています。

努力義務でも取り組む理由は、効果が数字で示されているからです。厚生労働省と労働者健康安全機構の手引「これからはじめる職場環境改善」は、職場環境改善を経験した労働者の約6割がストレスを減らすのに「有用だった」と答えた研究や、実施費用が1人あたり7,660円に対し、生産性の向上で得られる利益が1人あたり15,200円と、費用便益を約2倍と見積もった研究を紹介しています。職場の健康施策全体の組み立て方はウェルビーイング施策の設計法も参考にしてください。

あわせて読みたい中小企業のメンタルヘルス対策|義務化・助成金とスポーツ活用›

(参考)労働安全衛生規則 – e-Gov法令検索(デジタル庁)

(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省

(参考)ストレスチェックの「集団分析」を適切に実施しましょう!(2026年7月) – 厚生労働省

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

Q. ストレスチェック後の職場環境改善は義務ですか?

努力義務です。労働安全衛生規則第52条の14は、集団分析と、その結果を踏まえて心理的な負担を軽減する措置のどちらも「努めなければならない」と定めています。厚生労働省の小規模事業場向けマニュアルは、事業場の規模に関わらず努力義務だとしており、50人未満の事業場のストレスチェックが義務になる2028年4月以降も、この扱いは同じです。

集団分析を活用した事業所は約6割|改善策は残業削減と休暇取得が最多

ストレスチェックを実施した事業所のうち、集団分析の結果を職場の改善にまで使っているのは約6割です。厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、ストレスチェックを実施した事業所のうち集団分析を実施したのは75.4%(令和5年調査は69.2%)、そのうち分析結果を活用したのは76.8%(同78.0%)でした。2つを掛け合わせると、ストレスチェックを実施した事業所のうち結果を活用したのは約58%と計算できます。

活用した事業所が何をしたのかを、割合の高い順に並べると次のとおりです。

分析結果の活用内容 令和6年 令和5年
残業時間削減、休暇取得に向けた取組 48.5% 55.7%
相談窓口の設置 41.2% 38.9%
上司・同僚に支援を求めやすい環境の整備 36.7% 37.1%
業務配分の見直し 34.8% 34.1%
人員体制・組織の見直し 33.8% 30.2%
衛生委員会又は安全衛生委員会での審議 30.5% 31.9%
管理監督者向け又は労働者向け研修の実施 22.6% 23.9%
職場の物理的環境の見直し 19.6% 18.8%
従業員参加型の職場環境改善、ワークショップの実施 9.4% 6.0%

出典:厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」第4表をもとに Human Soar 作成。分析結果を活用した事業所を100とした割合(複数回答)

最も多いのは残業時間の削減や休暇取得の取り組みで、労働時間に手を入れる対策が中心になっています。ただし令和5年の55.7%からは下がり、相談窓口の設置(38.9%→41.2%)や人員体制・組織の見直し(30.2%→33.8%)が伸びました。時間の対策だけでなく、相談先や体制の見直しへと打ち手が広がりつつあることが読み取れます。

一方で、従業員参加型の職場環境改善やワークショップは9.4%にとどまります。厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルは、この方式を職場環境改善のなかで「もっとも効果がある方法であるとされています」と説明しており、推奨と実態の差が最も大きい打ち手です。規模別に見ると、1,000人以上の事業所では28.7%が実施しているのに対し、50〜99人の事業所では4.1%でした。

衛生委員会または安全衛生委員会での審議も、1,000人以上で62.5%、30〜49人で23.2%、10〜29人で22.1%と、規模で大きな差があります。また、集団分析をした事業所の19.5%は、結果を「特に活用していない」と答えています。分析で終わらせず、誰がどの順で何を決めるのかを先に決めておくことが、次の手順の出発点になります。

(参考)令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況(事業所調査) – 厚生労働省

(参考)労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル – 厚生労働省

集団分析の後に職場を変える5つの手順|体制から効果評価まで

集団分析の後の進め方は、厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルが「効果的な職場環境等の改善のための5つのステップ」として示しています。体制づくり、評価、計画、実施、効果評価の順に、PDCAを1年で回すのが基本です。

体制づくり|問題解決型の取り組みだと最初に示す

最初に事業者が方針を表明し、衛生委員会などで職場環境改善の目的・方針・体制・進め方を決めます。マニュアルは、悪い職場を指摘する「問題指摘型」ではなく、どうすれば良くなるかを考える「問題解決型」の取り組みだと明確にすることを重視しています。事業者、産業保健スタッフ、管理監督者、労働者の代表が参加する委員会や作業部会を置き、そこを中心に進める方法が推奨されています。

手引には、高ストレスと判定された部署の管理監督者から「悪い点をとってしまったことへのおしおきですか」と受け止められた例が紹介されています。ストレスチェックの呼び方を変えたり、職場の強みを伸ばす活動だと説明したりして、管理監督者の態度が前向きになった工夫も載っています。

(参考)労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル – 厚生労働省

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

職場環境等の評価|判定図と現場の情報を突き合わせる

標準的な57項目または23項目の調査票を使った場合は、「仕事のストレス判定図」で部署ごとの仕事の量的負担、仕事のコントロール(裁量)、上司・同僚の支援を全国平均と比べられます。ただし判定図は回答者の主観の平均なので、実際の職場の状態とずれることがあります。マニュアルは、日常の職場運営や職場巡視で得た情報、管理監督者や労働者からの聞き取りも合わせてストレス要因を把握するよう求めています。手引も、残業時間や休業者数など産業保健スタッフが日頃の活動で得た情報をあわせて検討するよう勧めています。

手引は、集団分析では受検率が低いと一人の回答の影響が大きくなるため、回答率は60%程度を目安に確保するよう勧めています。繁忙期か閑散期かといった実施時期の事情も、解釈に加えておきます。

(参考)労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル – 厚生労働省

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

改善計画の立案|良好事例と労働者の意見から選ぶ

計画を立てるときにマニュアルが勧めるのは3点です。事業場の内外から良好事例を集めておくこと、改善策の検討や実施に労働者が参加できるようにすること、作業量や人間関係だけでなく幅広い職場環境に目を配ることです。何を変えるかを選ぶ道具として、次の章で紹介する「職場環境改善のためのヒント集」があります。

労働者の意見を集める道具には、職場の望ましい状態を45項目並べた「メンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)」もあります。項目ごとに改善の必要性を4択で答えてもらい、改善を求める割合が高い項目から話し合う方法です。いずれもストレスチェックの調査票ではなく、集団分析の後に改善策を決めるための道具です。

(参考)労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル – 厚生労働省

対策の実施|3か月や6か月で進み具合を報告してもらう

計画を立てたら、衛生委員会や職場の定例会合で、予定どおり進んでいるか、困りごとが起きていないかを定期的に確かめます。マニュアルは、各部署に中間報告を求めたり、3か月や6か月で実施状況と効果を報告してもらったりする方法を挙げています。

手引には、良い計画を立てたのに多忙な管理監督者が実施状況を確かめず、計画がいつの間にか立ち消えになり、従業員に失望が広がった例が載っています。担当者を決めて定期的に報告させる形に変えたことで、改善が進むようになりました。計画ごとに担当者と期限を決めておくことが、実施段階でいちばん効く工夫です。

(参考)労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル – 厚生労働省

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

効果評価と見直し|改善されないときは過程も評価する

評価には、計画が決めたとおりに実施されたかを見るプロセス評価と、目的とした指標が良くなったかを見るアウトカム評価の2種類があります。アウトカムの指標には、対策の前後のストレスチェックの集団分析の比較、健康診断や休業の統計、労働者の感想などが使えます。うまくいった対策は事業場内に好事例として広げます。

手引は、取り組んでも1年後の集団分析の結果が良くならない、休職者が減らないことがあると説明しています。業務や会社を取り巻く状況など複数の要因が数字に表れ、効果が出るまで時間がかかることが多いためです。話し合いの場を持てたことや改善案が出たことも、評価に含めます。指標の選び方はメンタルヘルス施策の効果測定の方法でも解説しています。

(参考)労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル – 厚生労働省

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

Q. 職場環境改善の効果はどうやって確かめますか?

計画どおりに実施できたかを見るプロセス評価と、指標が良くなったかを見るアウトカム評価の2つで確かめます。アウトカムの指標には、翌年のストレスチェックの集団分析、健康診断や休業の統計、労働者の感想などが使えます。1年で数字が良くならないこともあるため、話し合いの場を持てたことや改善案が出たことも評価に含めます。

職場環境改善のためのヒント集の使い方|判定図で低い指標から項目を選ぶ

ストレスチェックの仕事のストレス判定図の指標と、職場環境改善のためのヒント集の領域、改善の例の対応を示した図

「職場環境改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト)」は、ストレス対策として役立った改善事例を全国から集め、6つの領域・30項目にまとめたチェックリストです。厚生労働省の「こころの耳」からダウンロードでき、平成14〜16年度の厚生労働科学研究の一環として開発されました。マニュアルによると、作成にあたって200以上の改善事例が集められています。

職場の良し悪しを点検する道具ではなく、改善のアイデアを選ぶための道具です。各項目について「提案しない」「提案する」を選び、提案する項目のうち優先したいものに印を付けて、グループ討議で優先課題を絞り込みます。職場に関係の大きい項目だけを抜き出したり、順番を変えたりして使ってよいとされています。

ヒント集の領域と主な項目

30項目は次の6領域に分かれています。かっこ内は各領域の項目の例です。

  • 作業計画への参加と情報の共有(作業の日程作成に参加する手順を定める、必要な情報が全員に正しく伝わるようにする)
  • 勤務時間と作業編成(労働時間の目標値を定め残業の恒常化をなくす、休日・休暇が十分取れるようにする)
  • 円滑な作業手順(物品と資材の取り扱い方法を改善する、作業ミス防止策を多面に講じる)
  • 作業場環境(温熱環境や視環境・音環境を快適化する、衛生設備と休養設備を改善する)
  • 職場内の相互支援(上司に相談しやすい環境を整備する、チームワークづくりを進める)
  • 安心できる職場のしくみ(相談できる窓口を設置する、セルフケアについて学ぶ機会を設ける)

(参考)職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト) – こころの耳(厚生労働省)

判定図の指標ごとに当てはまる項目

手引は、集団分析で課題が出た指標ごとに、ヒント集から効果的な計画の例を挙げています。仕事の量的負担が大きい職場には、個人あたりの過大な作業量の見直し、労働時間の目標値の設定、繁忙期の作業方法の改善、休日・休暇の確保、物品と資材の取り扱い方法の改善などです。仕事のコントロールが低い職場には、作業の日程作成への参加、少人数単位の裁量範囲を増やすこと、朝の短時間ミーティングなどで必要な情報が全員に伝わる仕組みが挙がっています。

上司の支援が低い職場には、上司に相談しやすい環境の整備、チームワークづくり、仕事に対する適切な評価、昇進・昇格や資格取得の機会の明確化が対応します。同僚の支援が低い職場には、同僚に相談でき、コミュニケーションが取りやすい環境の整備と、チームワークづくりです。判定図で全国平均より低かった指標から、対応する項目を2〜3個選んで話し合うと、議論が散らばりにくくなります。

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

ワークショップで使う時間と人数

マニュアルは、ヒント集を使った従業員参加型のワークショップに、通常2時間から2時間半、最低でも90分を充てるとしています。進行役の短い講義のあと、5〜8名程度の小グループで討議し、職場の良い点を最大3つ、改善提案を最大3つまとめます。

最後に職場の責任者が優先して実施する改善案を選び、改善計画ごとに担当者と実施時期を決めて文書にし、職場全体で共有します。良い点から話し始めるのは、職場の強みに目を向けることで「自分たちにもできそうだ」という意欲を引き出すためです。

(参考)労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル – 厚生労働省

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

ストレスチェック後の職場環境改善の事例|業種と規模で見る打ち手

公表されている事例を見ると、改善策は設備への投資から研修、職場の役割の見直し、話し合いまで幅があります。厚生労働省の小規模事業場向けマニュアルに載っている取組例を、業種・規模と、集団分析などで分かったこと、変えたことで並べました。

事例 業種・労働者数 分かったこと 変えたこと
A 技術サービス業・約110名 業務の量や質によるストレス負荷が高い 各部門長がグループのリーダーに結果を共有し、業務効率化の方法を検討
B 鉱業,採石業,砂利採取業・約25名 職場環境によるストレスが高く、夏場の現場が高温 スポットクーラーを新たに配置
C 製造業・75名 身体的負担と騒音・照明・温度などの職場環境 遮熱塗料の塗装(5か年計画)、水銀灯103基をLEDに交換、休憩室の整備
D 建設業・1,000名以上(企業単位) 若手社員が先輩社員の言葉遣いに委縮 全社員にハラスメント防止研修
E 製造業・約1,000名(部署は79名) 上司のサポートが低い(機械のトラブルが多く上司が多忙) 小グループごとにサブリーダーを設置
F 製造業・約150名(部署は26名) 同僚のサポートが低い 従業員参加型の話し合いで、情報周知のホワイトボードと情報交換会を実施

出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)の取組例をもとに Human Soar 作成。労働者数は事業場単位(Dは企業単位)

同じ「高ストレス」でも、原因が暑さなのか、上司の忙しさなのか、言葉遣いなのかで打ち手はまったく違います。どの事例も、集団分析の数字だけでなく、現場を見たり話を聞いたりして原因を特定してから対策を決めています。誰が中心になって計画を立てるかで分けると、手引が示す3つの方式に近い形で整理できます。

経営層主導型|設備や全社の制度を変える

集団分析の結果をもとに、経営層が事業場全体の対策を進める方式です。事例Cの遮熱塗料やLED化、事例Bのスポットクーラー、事例Dの全社員向けハラスメント防止研修のように、予算や全社の判断が要る対策に向いています。手引は、労働時間の削減や人員配置など事業場全体の取り組みが必要な場合に有効な一方、部署ごとの課題を反映しにくい場合があるとしています。

(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

管理監督者主導型|部署ごとの課題に合わせる

部署ごとの集団分析の結果をもとに、管理監督者が対策を進める方式です。事例Eでは、上司のサポートの得点が低く、機械のトラブルが多い割に上司が忙しくて相談に乗れないことが原因と考えられました。小グループごとに権限と技術を持つサブリーダーを置いて細かい指示を任せたところ、2年後には対策をしなかった職場に比べて高ストレス者の割合が減り、疾病で休む日数も減りました。

手引は、この方式は部署の特徴を反映できる一方で、管理監督者の権限を越えた対策はできず、独りよがりにならないよう産業保健スタッフや従業員の意見を聞く工夫が要るとしています。

(参考)小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月) – 厚生労働省

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

従業員参加型|職場の全員で話し合って決める

働く従業員自身が対策の立案に参加する方式です。事例Fでは、同僚のサポートが低いという結果を受け、上司の提案で2時間のグループ討議を行い、情報周知のためのホワイトボードの設置と、他チームの情報を得るための情報交換会の2つを決めて実行しました。その後の調査では、職場の一体感とワーク・エンゲイジメントの点数が上がっていました。

手引は、従業員同士のコミュニケーションも改善するメリットがある一方、多忙すぎる部署や人間関係に明らかな問題がある部署、ハラスメントがある職場などでは実施が難しい場合があるとしています。そうした職場では、まず経営層や管理監督者が原因に手を打ってから参加型に移る順番が考えられます。

(参考)これからはじめる職場環境改善~スタートのための手引~ – 独立行政法人労働者健康安全機構・厚生労働省

Q. ストレスチェック後の職場環境改善の事例にはどんなものがありますか?

厚生労働省のマニュアルには、暑い現場へのスポットクーラーの設置、工場の照明のLED化、ハラスメント防止研修、サブリーダーの設置、従業員の話し合いで決めた情報共有のホワイトボードなどの事例が載っています。サブリーダーを置いた職場では、2年後に高ストレス者の割合と疾病で休む日数が減ったと報告されています。

運動とスポーツを職場環境改善に組み込む|ヒント集の項目に沿って選ぶ

運動やスポーツの取り組みは、集団分析で上司・同僚の支援が低いと出た職場や、セルフケアの機会が足りない職場で、ヒント集の項目を実行する手段として使えます。一方で、仕事の量的負担が原因の職場では、運動の時間を足しても負担そのものは減りません。どの指標に対する打ち手なのかを決めてから選ぶことが前提です。

昼休みの運動指導|対人ストレスとソーシャルサポートの改善が報告されている

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の資料「働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント」は、日本の11の職場の労働者59人を対象に、昼休みに週3回の運動指導を10週間行った研究を紹介しています。運動指導を受けなかった群と比べて、活力、対人ストレス、ソーシャルサポート、仕事の満足度などに改善が見られました。同じ資料は、労働者を対象にした研究から、身体活動量が多いほど抑うつなどの健康指標が良好であることが示唆されているとまとめています。

ヒント集に当てはめると、職場単位の運動は「チームワークづくりを進める」や「セルフケアについて学ぶ機会を設ける」の実行策になります。研究の規模は小さく、ストレスチェックの点数が下がることを示したものではないため、翌年の集団分析で同僚の支援の得点などがどう動くかを確かめながら続けます。続けるための設計は職場の運動習慣を定着させるプログラムで解説しています。

(参考)健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 働く人が職場で活動的に過ごすためのポイント – 厚生労働省

社内スポーツ行事と観戦招待|チームワークづくりの場にする

ヒント集の「チームワークづくりを進める」は、メンバーで懇親の場を設けたり研修の機会を持ったりして、互いに助け合う雰囲気をつくる項目です。部署対抗の軽いスポーツ行事や、協賛しているクラブの試合への観戦招待は、その場として使えます。行事の予算や組み立て方は社内スポーツイベントの企画ガイドで紹介しています。同僚の支援が低いと出た部署で、ふだん話す機会の少ないメンバーを同じチームに入れるといった設計にすると、改善策としての狙いがはっきりします。

注意したいのは、参加を事実上強制したり、休日の行事を増やしたりすると、かえって負担になることです。業務時間内に行う、参加しない人が不利にならないようにする、といった配慮を計画の段階で決めておきます。協賛で受け取った観戦チケットを社員に配る場合は、福利厚生費になるか交際費になるかの扱いも事前に確かめます。

あわせて読みたいスポーツ観戦チケットの福利厚生と交際費|協賛企業の配り方›

(参考)職場改善のためのヒント集(メンタルヘルスアクションチェックリスト) – こころの耳(厚生労働省)

運動の機会を会社の仕組みにする|スポーツエールカンパニー

単発の行事で終わらせず、運動の機会を職場の仕組みとして残すときの目標になるのが、スポーツ庁の「スポーツエールカンパニー」です。朝や昼休みの体操・ストレッチ、階段の利用や徒歩・自転車通勤の奨励、スタンディングミーティングなど、従業員の健康増進のためにスポーツの実施に積極的に取り組む団体を認定する制度で、「スポーツエールカンパニー2026」には1,635社が認定されました。

令和4年6月3日からは、ハローワークの求人票などに認定のロゴを表示できるようになっています。ストレスチェック後の職場環境改善として始めた運動の取り組みを、衛生委員会の年間計画に載せて毎年続け、その実績で認定を目指すと、改善の取り組みを社外にも示せます。認定基準と申請の流れはスポーツエールカンパニーの認定基準と申請期限にまとめています。

(参考)スポーツエールカンパニー – スポーツ庁

Q. 運動やスポーツの取り組みはストレスチェック後の職場環境改善に使えますか?

集団分析で同僚や上司の支援が低いと出た職場では、使える場面があります。職場環境改善のためのヒント集には、懇親の場や研修の機会を設けてチームワークをつくる項目があり、社内のスポーツ行事や運動の時間はその手段になります。ただし仕事の量が原因の職場では、先に業務量や労働時間を見直すことが必要です。

ストレスチェックの職場環境改善のまとめ

職場環境改善は努力義務ですが、集団分析を活用した事業所のなかでも従業員参加型の取り組みはまだ少なく、手を付ける余地の大きい領域です。数値の出典は本文の各セクションに記載しています。

  • 集団分析と職場環境改善は、事業場の規模に関わらず努力義務で、2028年4月の改正後も同じ扱い
  • 体制づくり、評価、計画、実施、効果評価の5つの手順で、1年単位のPDCAとして回す
  • 判定図で低かった指標から、ヒント集の対応する項目を2〜3個選んで話し合う
  • 原因が暑さ、上司の多忙、言葉遣いなど職場ごとに違うため、現場の情報と合わせて打ち手を決める
  • 運動やスポーツの取り組みは、支援やチームワークの課題に対する打ち手として使い、翌年の集団分析で確かめる

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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