「スポーツ人材を活用したいが、何から手をつければいいか分からない」——そう感じる人事担当者や経営者は少なくありません。結論から言うと、スポーツ人材への関わり方は正社員採用だけでなく、兼業受け入れや研修活用など複数の入り口があるため、自社の経営課題に合わせて入り口を選ぶことが遠回りを避ける近道です。
本記事では、スポーツ人材の定義、企業がいま注目する3つの背景、実際に活用されている6つのパターン、導入を進める3つのステップ、受け入れ後に起きやすい落とし穴までを、一次データと当サイトの関連記事を横断して整理しました。
すでに個別のテーマで記事を読んだことがある方も、まずは本記事で全体像を掴んでから、興味のある章の関連記事に進んでいただく読み方をおすすめします。
スポーツ人材とは何か|企業が押さえる3つの人材類型
スポーツ人材とは、競技経験やスポーツ団体の運営で培った実践力を、企業活動に転用できる人材の総称です。ひとくくりに語られがちですが、企業が実際に検討する際は①アスリート人材②スポーツ経営人材③兼業・副業スポーツ人材の3類型に分けて考えると、自社に合う関わり方が見えてきます。
| 類型 | 特徴 | 主な関わり方 |
|---|---|---|
| ①アスリート人材 | 目標設定力・自己管理力に強み | 正社員採用・研修講師 |
| ②スポーツ経営人材 | チーム・興行運営の実務経験 | GM招聘・団体との人材交流 |
| ③兼業・副業スポーツ人材 | 現役を続けながら実務に参加 | 副業受け入れ・業務委託 |
スポーツ人材の3類型と企業の関わり方(Human Soar作成)
アスリート人材|競技経験を実務力に転換できる人材
現役時代・引退後を問わず、目標設定力・自己管理力・チームワークといった資質は多くの職種で評価されます。特に営業や新規事業のように成果までの距離が長い仕事では、記録更新やチーム成績向上のために逆算して行動計画を立ててきた経験が活きます。
一方で、ビジネス実務の経験が少ないケースもあるため、配属直後の研修設計や評価基準のすり合わせが欠かせません。採用してからのフォロー体制まで含めて検討することが定着率を左右します。
あわせて読みたい引退アスリートの就職課題|企業ができる3つの支援›
スポーツ経営人材|チーム・団体運営の実務を担う人材
プロスポーツクラブやスポーツ団体のGM・事務局長として、興行運営やスポンサー営業、選手編成といった経営実務を担ってきた人材です。事業計画の立案から現場のオペレーションまで一貫して見る経験を持つため、事業責任者やプロジェクトマネージャーとしての適性が高いとされます。
受け入れる企業側は、単なる「知名度のある人」としてではなく、どの事業フェーズでどんな意思決定を任せるのかを具体的に描いてから招聘を検討する必要があります。スポーツ団体側の人材育成の考え方も参考になります(スポーツ団体の人材育成計画はどう立てるべきか)。
兼業・副業スポーツ人材|現役を続けながら企業に関わる人材
現役選手が競技を続けながら、平日は企業でマーケティングや広報の実務に携わるケースが増えています。企業側から見れば、フルタイム採用よりも導入のハードルが低く、まず小さく関わってもらいながら相性を見極められる利点があります。
ただし、練習・遠征スケジュールとの調整や、業務時間の柔軟な設計が前提になるため、制度そのものを事前に整えておくことが受け入れの成否を分けます。
なぜ今スポーツ人材に企業が注目するのか|3つの背景
企業がスポーツ人材に注目する背景は単なるブームではなく、人手不足の深刻化・スポーツの成長産業化という政策目標・経済界がスポーツ経験者に示す評価という3つの動きが同時に重なっているためです。
深刻化する人手不足|正社員不足は7月として4年連続で5割超
帝国データバンクの調査によると、2026年7月時点で正社員の人手不足を感じている企業は51.3%にのぼり、7月としては4年連続で5割を超えました。前年同月からも0.5ポイント上昇しており、高水準での推移が続いています。
「人手不足倒産」も2026年上半期に227件発生し、上半期としては5年連続で前年を上回って過去最多を更新しました。採用市場の母数そのものが縮小するなかで、企業は従来と異なる人材プールに目を向ける必要に迫られています。
(参考)人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月) – 株式会社帝国データバンク
スポーツの成長産業化という政策目標|市場規模を15兆円に拡大
スポーツ庁は第3期スポーツ基本計画のなかで、スポーツ市場規模を5.5兆円から2025年までに15兆円に拡大するという政策目標を掲げています。スポーツ市場を拡大し、その収益をスポーツ環境の改善に還元してスポーツ参画人口を増やすという好循環を生み出すことが狙いです。
市場拡大の担い手として民間企業の参入を促す施策が並んでおり、スポーツ人材の受け皿となる求人・事業機会も政策的に後押しされている状況です。
(参考)スポーツの成長産業化(第3期スポーツ基本計画) – スポーツ庁
経済界が評価するスポーツ経験者の資質|目標達成力とリーダーシップ
経済界でも、スポーツ経験者の資質を企業人材として評価する動きがあります。経団連のスポーツ推進委員会企画部会は、スポーツ選手の資質として「組織行動力、リーダーシップ、精神力」や「ゴールを設定し、そこへ向けて全力で取り組む力」に着目していると報告されています。
大学の運動部所属者のみを対象にした就職説明会に出展する企業数も増加傾向にあるとされ、採用市場でスポーツ経験者への注目が高まっていることがうかがえます。
(参考)企業にとってのスポーツの活かし方~人材強化への活用事例から考える~ – SOMPOインスティチュート・プラス
Q. スポーツ人材とはどのような人を指しますか?
競技経験やスポーツ団体運営の実務を通じて、目標設定力やチーム運営力を培った人材の総称です。本記事では企業が実務で活用しやすいように、アスリート人材・スポーツ経営人材・兼業スポーツ人材の3類型に整理しています。
Q. なぜ今スポーツ人材への注目が集まっているのですか?
正社員不足が7月として4年連続で5割を超える人手不足と、国のスポーツ市場拡大方針、経済界がスポーツ経験者に示す評価という3つの動きが重なっているためです。単発のブームではなく、構造的な背景があります。
企業がスポーツ人材を活用する6つのパターン
スポーツ人材の活用方法は正社員採用だけではありません。企業の課題や体制に応じて、関わり方の強度が異なる6つのパターンから選ぶことができます。
| パターン | 概要 | 向いている企業 |
|---|---|---|
| ①正社員採用 | 引退アスリートを営業・企画・研修講師として雇用 | 中長期でチームの核を育てたい企業 |
| ②兼業・副業受け入れ | 競技を続けながら業務委託や時短で参加 | まず小さく試したい企業 |
| ③GM・経営人材の招聘 | 事業責任者としてスポーツ経営人材を採用 | 事業立ち上げ・再建フェーズの企業 |
| ④社員研修への活用 | 講演・合宿型研修の講師として関わる | 管理職層のマネジメント教育をしたい企業 |
| ⑤団体との人材交流・出向 | 団体運営の実務をOJTで学ぶ出向制度 | 地域連携・CSRを重視する企業 |
| ⑥独立・起業支援 | 引退後の起業を資金・販路面で支援 | 長期的な関係構築を狙う企業 |
企業がスポーツ人材を活用する6つのパターン(Human Soar作成)
引退アスリートの正社員採用|営業・企画職での定着を見据える
最も一般的な関わり方が正社員採用です。営業や企画職では、目標達成に向けた粘り強さやチームでの役割意識が評価されやすい一方、入社後3〜6か月は業務知識のインプットに時間がかかる前提で育成計画を組む必要があります。
研修講師としての採用も広がっています。自社の営業経験がなくても、競技生活で培った「振り返りの型」を教える役割であれば、入社直後から強みを発揮しやすいという特徴があります。
現役アスリートの兼業・副業受け入れ|競技と実務を両立する仕組み
現役を続けながら業務委託契約で広報・マーケティング業務に関わってもらう形です。競技スケジュールに合わせた柔軟な稼働設計と、成果物ベースの評価基準を事前に決めておくことで、双方にとって無理のない関わりになります。
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GM・スポーツ経営人材の招聘|事業責任者としての実務経験を生かす
チームの興行やスポンサー営業を統括してきたGM人材は、限られた予算とリソースで成果を出す経験が豊富です。事業の立ち上げや再建フェーズにある企業では、意思決定のスピード感が合いやすいとされています(スポーツGM人材の育成プログラム設計|3能力と実践手順)。
社員研修へのアスリート活用|合宿型研修でチーム運営力を養う
アスリートを講師に招いた合宿型研修は、座学だけでは伝わりにくいチームマネジメントの感覚を体験的に学べる点が評価されています。管理職候補が「監督役」を担う形式など、役割を入れ替えた設計が効果を高めます(アスリートのソフトスキルを研修で企業人材に転換)。
スポーツ団体との人材交流・出向|現場を知る機会をつくる
地域のスポーツ団体に社員を一定期間出向させ、大会運営や地域連携の実務をOJTで学んでもらう仕組みです。CSRの一環としてだけでなく、地域との接点づくりや社員のマネジメント経験の幅を広げる目的でも活用されています。
独立・起業支援によるパートナーシップ|引退後の挑戦を後押しする
引退後に起業を目指すアスリートに対して、資金や販路の面で伴走する関わり方です。単発の支援で終わらせず、事業が軌道に乗った後も取引先として関係を継続できると、双方にとって長期的な価値が生まれます(アスリートの独立・起業支援|企業担当者の伴走設計)。
アスリート人材のキャリア支援|引退前後で企業が果たす3つの役割
アスリート人材の活用を長期的な関係につなげるには、採用した瞬間だけでなく現役時代・引退直前・引退後という3つのフェーズで企業が果たす役割を理解しておく必要があります。

現役時代からのデュアルキャリア支援|競技と実務の両立を後押しする
現役の段階から企業との接点を持っておくことで、引退後の移行がスムーズになります。競技と仕事を両立する「デュアルキャリア」という考え方を早期に取り入れている企業ほど、優秀な人材との関係を長く維持できる傾向があります(デュアルキャリアとは|アスリートの競技と仕事の両立支援)。
引退直後の求職支援|JOC「アスナビ」に見る官民連携の仕組み
日本オリンピック委員会(JOC)は2010年から現役・引退アスリートの就職支援制度「アスナビ」を実施しており、2026年8月20日時点で253社・団体、461名の採用が決まっています。同日には企業説明会も開催され、民間企業とアスリートを直接つなぐ場が継続的に設けられています。
こうした官民連携の枠組みを知っておくと、自社単独で候補者を探すよりも効率よく出会いの機会をつくれます。
(参考)JOCの就職支援「アスナビ」:8月20日企業説明会を実施 – 日本オリンピック委員会
あわせて読みたい引退後アスリートの就職支援|企業プログラム事例›
引退後のアイデンティティ再構築支援|「アスリートだった自分」からの移行
引退直後は、競技者としてのアイデンティティから新しい役割への移行に時間がかかることが少なくありません。上司や人事が「元アスリート」という肩書きだけで扱わず、本人が新しい役割で成果を出す機会を意図的につくることが定着の鍵になります(アスリートのアイデンティティ形成とキャリア計画の関係)。
Q. 引退直後のアスリートを採用する際、企業はどんな支援を用意すべきですか?
求職活動そのものへの伴走と、入社後のアイデンティティ再構築支援の両方が必要です。JOC「アスナビ」のような官民の枠組みを活用しつつ、入社後は「元アスリート」という肩書きに頼らず新しい役割で成果を出す機会を用意することが定着につながります。
スポーツ人材の受け入れで注意すべき3つの落とし穴
ここまで紹介した活用パターンや導入手順を踏んでも、受け入れ後に思ったような成果が出ないことがあります。多くの場合、①期待値のズレ②評価制度の未整備③兼業選手のスケジュール管理という3つの落とし穴のいずれかが原因です。
期待値のズレ|「元アスリート」への過度な期待を避ける
「体育会系だから根性がある」といった漠然としたイメージだけで採用すると、本人の実際の強みとのズレに双方が戸惑うことになります。競技経験のどの部分を自社のどの業務に活かしたいのかを、面接段階で具体的に言語化しておくことが重要です。
特に管理職候補として採用する場合は、競技での実績と現場マネジメントに求められる能力は完全には一致しません。過去の実績を評価しつつも、入社後にどんな課題を任せて成長を確認するかを別途設計しておく必要があります。
評価制度の未整備|ビジネス実務の経験不足を前提にした基準づくり
アスリート人材は、競技での実績と同じ物差しで評価されると不利になりがちです。入社直後から売上や成約数といった短期的な成果指標だけで評価してしまうと、本来の強みを発揮する前に本人の自信を損なうことになりかねません。
入社後1年程度は、成果指標だけでなく行動プロセスも評価に含めるなど、業務経験の浅さを前提にした評価制度を用意しておくことが定着への近道です。上司側にも、評価基準をあらかじめ共有しておく必要があります。
兼業選手のスケジュール管理|遠征・大会期間の業務調整
兼業・副業スポーツ人材の受け入れでは、遠征や大会期間中の業務をどう引き継ぐかが曖昧なまま契約を結んでしまうケースが目立ちます。繁忙期とオフシーズンとで稼働イメージが大きく異なることを、双方が事前に理解しておく必要があります。
契約書には稼働時間の目安だけでなく、大会期間中の連絡手段や代替対応者の有無まで明記しておくと、シーズン中のトラブルを未然に防げます。
スポーツ人材の導入を進める3つのステップ
スポーツ人材の活用を検討し始めた企業が実際に動き出すまでには、①自社の関わり方を決める②受け入れ先の候補を探す③試験的に小さく始めるという3つのステップがあります。
自社の関わり方を決める|6パターンから優先度をつける
前章の6パターンのうち、自社の経営課題に最も近いものを1〜2個に絞り込みます。人手不足が課題であれば正社員採用や兼業受け入れ、管理職育成が課題であれば研修活用というように、目的から逆算すると選びやすくなります。
受け入れ先の候補を探す|人材紹介サービスと直接接点の両輪
候補者探しは、スポーツ人材専門の紹介サービスを使う方法と、JOC「アスナビ」のような官民の枠組みを通じて直接出会う方法の2つを併用するのが効率的です。自社の採用力に応じてどちらに比重を置くかを決めます(スポーツ人材紹介サービス|選び方比較)。
試験的に小さく始める|1名の受け入れから検証する
いきなり複数名を採用するのではなく、まず1名の兼業受け入れや単発の研修講師依頼から始め、社内の受け入れ体制やマネジメント上の課題を洗い出すことが定着率を高めます。小さく始めて検証し、うまくいった型を横展開するという順序が失敗を減らします。
スポーツ人材をさらに知る|3つのテーマ別記事ガイド
ここまで紹介した内容をさらに深掘りしたい場合は、以下のテーマ別記事が参考になります。①キャリア移行・アイデンティティ②デュアルキャリア・引退支援③経営・採用実務の3つに分けて紹介します。
キャリア移行・アイデンティティ関連記事
引退後のキャリア移行を具体的な事例で知りたい場合はアスリート引退後のキャリア移行と活躍事例が参考になります。国際的な支援の枠組みを知りたい場合はIOCのアスリートキャリア支援プログラムの全体像、支援の考え方を学術的な視点から押さえたい場合は引退アスリートへの総合的支援|ウェルビーイング研究から見る必要性をあわせてご覧ください。
デュアルキャリア・引退支援関連記事
セカンドキャリアを支える仕組み全体を知りたい場合はアスリートのセカンドキャリアを支える仕組みとは、海外の制度と比較したい場合は欧州基準に学ぶデュアルキャリア卓越性が参考になります。現役選手の燃え尽き防止という観点ではデュアルキャリア選手の燃え尽きを防ぐ企業支援ガイドも押さえておきたい記事です。
経営・採用実務関連記事
学生アスリートの採用を検討している場合は学生アスリートの自己効力感と将来設計、スポーツ経営人材の育成そのものを社内で進めたい場合はスポーツ経営人材の育成プログラム|企業が導入する視点が実務の参考になります。
Q. スポーツ人材について、まず何を調べればよいですか?
自社が抱える課題(人手不足・管理職育成・事業立ち上げなど)を先に整理し、それに対応する活用パターンから逆算して調べるのが近道です。課題が明確になれば、正社員採用と兼業受け入れのどちらを優先すべきかも自然と絞り込めます。
まとめ
スポーツ人材の活用は、正社員採用の一択ではなく、自社の課題に合わせて選べる複数の入り口があります。人手不足や管理職育成といった経営課題を先に言語化し、そこから活用パターンを逆算する順序を守ることが、遠回りを避ける最短ルートです。最後に本記事の要点を振り返ります。
- スポーツ人材はアスリート人材・スポーツ経営人材・兼業スポーツ人材の3類型に分けて検討する
- 人手不足の深刻化とスポーツ市場拡大方針、経済界の評価という3つの背景が重なっている
- 活用パターンは正社員採用だけでなく6通りあり、自社の課題に合わせて選べる
- 導入は「関わり方を決める→候補を探す→小さく始める」の3ステップで進める
- キャリア支援は現役時代・引退直前・引退後の3フェーズで継続的に行う
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