マンチェスターシティの財務違反は、オーナーの資金をスポンサー収入に見せかけて、収入を多く、費用を少なく報告していた問題です。プレミアリーグの独立委員会は2026年9月29日、2009/10〜2017/18の9シーズンにわたる財務規則の違反をすべて認め、クラブの不服申し立てを10月2日にリーグが発表しました。勝ち点の剥奪や降格は報道の見通しにとどまり、処分の内容はまだ決まっていません。
シティが降格するかもしれないというニュースを見て、海外クラブとのスポンサー契約を担当している人ほど胸がざわついたはずです。ここでは、リーグの発表と決定文で確かめられる事実と、報道の見通しを分けて整理し、スポンサー契約がなぜ問題の中心にあったのか、海外クラブと契約するときに何を確かめればよいのかを順に説明します。
マンチェスターシティの財務違反は2026年9月に認定された
プレミアリーグが選んだ独立委員会は、シティが財務規則に違反したという疑いのうち、財務に関するものはすべて、調査への協力に関するものは4つのうち3つを認めました。調査の開始から認定まで、およそ8年かかっています。主な出来事を日付順に並べると次のとおりです。
| 日付 | 出来事 | 発表元 |
|---|---|---|
| 2018年12月 | プレミアリーグがシティの調査を始める | プレミアリーグ |
| 2023年2月6日 | リーグが違反の疑いを独立委員会に付託し、対象の条項を公表する | プレミアリーグ |
| 2024年9月〜12月 | 独立委員会が42日間の審理を行う | 独立委員会の決定文 |
| 2026年9月29日 | 独立委員会が違反を認定し、リーグが決定の要旨を公表する | プレミアリーグ |
| 2026年10月2日 | クラブが決定に不服を申し立てたとリーグが発表する | プレミアリーグ |
| 未定 | 処分を決める審理と、不服申し立ての審理 | — |
出典:プレミアリーグの発表(2023年2月6日、2026年9月29日、2026年10月2日)と独立委員会の決定文をもとに Human Soar 作成
独立委員会は、リーグから独立した法律や財務の専門家の名簿から選ばれる組織です。審理は42日間にわたり、委員会は27人の事実の証人から話を聞きました。決定文によると、証人と専門家の発言を書き起こした記録だけで約7,000ページになります。
認定された中身は大きく4つです。シティはスポンサーなどとの契約の一部で実態と違う「見せかけ」の契約を結び、収入を多く、費用を少なく見せていました。その結果、提出した決算書は財務の実態を正しく示しておらず、決算を監査する会計士や規制する側にも本当の状態を隠していました。正しく計上していれば、プレミアリーグとUEFAの支出の上限を大きく超えていたとも認定されています。さらに、リーグの調査を止めたり妨げたりしようとしたことも認められました。
一方で、決まっていないことも多く残っています。処分は独立委員会の別の審理で決まり、その審理は結果の公表が認められるまで非公開です。クラブは決定に不服を申し立て、リーグは10月2日にそれを発表しました。不服の審理を担う上訴委員会は3人で構成され、申し立てを認める、退ける、決定を変えるなどの判断ができます。
(参考)Premier League Statement: Manchester City FC(2026年9月29日) – Premier League
(参考)Manchester City FC appeal decision of independent Commission(2026年10月2日) – Premier League
(参考)Independent Commission Redacted Core Decision(2026年9月公表) – Premier League
Q. マンチェスターシティの処分はいつ決まりますか?
2026年10月20日の時点で、処分の内容も時期も発表されていません。プレミアリーグは、違反が認められたあとの処分を独立委員会の別の審理で決めるとしており、その審理は結果の公表が認められるまで非公開です。クラブは認定そのものにも不服を申し立てています。
マンチェスターシティの115件の内容はリーグ発表の5分類で読める
「115件」は報道で広く使われている数字ですが、リーグの発表文にも独立委員会の決定文にも出てきません。決定文は「100を超える違反(well over 100)」と書いています。2023年2月6日の発表文は、違反の疑いがある条項をシーズンごとに並べた形で、件数そのものは書いていないためです。発表文に並ぶ条項を分類ごとにまとめると、次の5つになります。
| 分類 | 対象のシーズン | シーズン数 | 挙げられた条項の例 |
|---|---|---|---|
| 正確な財務情報の提出(収入・関連当事者・営業費用) | 2009/10〜2017/18 | 9 | B.13、C.71、E.3 など |
| 監督と選手の報酬を契約にすべて書く | 監督は2009/10〜2012/13、選手は2010/11〜2015/16 | 4と6 | Q.7、P.7、K.12、T.12 など |
| UEFAの財務規則(ファイナンシャル・フェアプレー)を守る | 2013/14〜2017/18 | 5 | B.14.6、B.15.6 |
| リーグの収益性と持続可能性の規則(PSR)を守る | 2015/16〜2017/18 | 3 | E.52〜E.60 など |
| リーグの調査に協力する | 2018年12月〜発表時(2018/19〜2022/23) | 5 | B.16、W.1、W.2 など |
出典:プレミアリーグ「Premier League statement」(2023年2月6日)をもとに Human Soar 作成。シーズン数は発表文の記載から数えた
シーズン数を足すと32になります。同じシーズンの同じ分類で複数の条項が挙げられているため、条項を1つずつ数えると件数はさらに増えます。数え方で件数が変わるので、「何件」よりも「どの分類で、何シーズン分か」で読むほうが中身をつかみやすくなります。
独立委員会は、これらを4つの告発(Charge 1〜4)に整理して判断しました。告発1は決算書の正しさで、スポンサー契約、報酬などの支払い、選手の肖像権の取引、関連当事者の開示に分かれます。告発2はUEFAの財務規則、告発3はリーグの収益性の規則、告発4は調査への協力です。監督と選手の報酬の問題は、告発1の中で扱われています。
認定されなかったのは、調査への協力のうち告発4(B)だけです。告発4(A)は大部分が認められ、4(C)と4(D)は認められました。
(参考)Premier League statement(2023年2月6日) – Premier League
Q. マンチェスターシティの115件とは何ですか?
2023年2月にプレミアリーグが公表した違反の疑いを、条項ごとに数えた数として広まった呼び方です。リーグの発表文と独立委員会の決定文には115という数字は出てこず、決定文は「100を超える違反」と書いています。中身は、財務情報の提出、監督と選手の報酬の記載、UEFAの財務規則、リーグの収益性の規則、調査への協力の5つに分かれます。
スポンサー契約が問題の中心にあるのはオーナー資金をスポンサー収入に見せたため

スポンサー契約が問題の中心にあるのは、財務規則ではオーナーからの出資は収入に数えられず、スポンサー料は収入に数えられるからです。オーナーのお金をスポンサー料の形にすれば、規則上の収入を増やせます。独立委員会は、シティがこの仕組みを使っていたと認定しました。
契約書の金額の一部をオーナーが払っていた
決定文によると、シティは2010年の初めに、当時クラブを所有していたアブダビ・ユナイテッド・グループ(ADUG)の出資を、アブダビの企業からのスポンサー収入に見せる計画を立てました。契約書には市場の相場を大きく上回るスポンサー料を書き、スポンサー企業は実際にはその一部だけを払い、残りはADUGが払うという取り決めです。クラブは契約書の全額を収入として計上し、残りがオーナーの出資であることを隠していました。
こうして多く見せた収入は8億3,000万ポンドを超えると認定されています。報酬の支払いや肖像権の取引で外に出していた費用を足すと、決定文に書かれた金額の合計は計算すると約9億2,000万ポンドになり、リーグ発表の「9億ポンドを超える」と合います。また決定文は、スポンサー企業の負担が実際の支払い分を超えないと伝える文書が作られていたとも認定しています。
ただし、オーナーとつながりのある企業とのスポンサー契約がすべて問題とされたわけではありません。決定文では、初期の2つの契約について、リーグ自身が通常の交渉で決まり相場どおりだったと認めています。また審理の焦点はアブダビの企業との契約で、それ以外の企業とのスポンサー契約は焦点になっていません。問題とされたのは、契約書と実際のお金の流れが食い違っていた契約です。
(参考)Independent Commission Redacted Core Decision(2026年9月公表) – Premier League
関連当事者取引は公正な価値で審査される
プレミアリーグには、クラブとオーナーなど「関連当事者」との取引を審査する規則(Associated Party Transaction、APT)があります。規則は関連当事者として、クラブを支配する人、株式の5%を超えて持つ人、クラブと同じ政府や公的機関に支配されている組織などを挙げています。こうした相手とのスポンサー契約は、事前か、契約から2営業日以内にリーグへ提出し、公正な価値(Fair Market Value)かどうかの審査を受けます。
公正な価値とは、事情をよく知り取引する意思のある独立した当事者どうしが、通常の取引で決める金額のことです。リーグの承認が出るまで、クラブはその契約の対価を受け取れません。また、相手方の取締役などが「公正な価値だと考える」と表明した書類を添えて出す決まりがあります。
この規則をめぐっては、シティがリーグを相手に別の仲裁を起こしていました。2024年10月7日の決定は規則の仕組みそのものは必要だと認めつつ、一部が競争法などに合わないと判断し、2025年2月14日には旧規則は全体として執行できないとされました。加盟クラブは2024年11月の投票で新しい規則を導入しており、2025年9月8日の和解でシティは現在の規則を有効と認めています。
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(参考)Premier League Handbook 2026/27(Rule A.1.27、A.1.113、E.49〜E.52) – Premier League
(参考)Premier League statement(2024年10月7日) – Premier League
(参考)Premier League statement(2025年2月14日) – Premier League
(参考)Premier League statement(2025年9月8日) – Premier League
マンチェスターシティの処分は規則の選択肢から独立委員会が決める

処分は、リーグではなく独立委員会が、規則に並んだ選択肢から決めます。処分の重さによって、スポンサー企業に起きることも変わります。確定している仕組みと、報道されている見通しを分けて見ていきます。
規則にある処分は戒告から除名の勧告まで
プレミアリーグ規則のW.64は、違反が認められたクラブに対して、戒告、上限のない制裁金、リーグ戦などへの出場停止、勝ち点の剥奪、再試合の勧告、リーグからの除名の勧告、上限のない補償金の支払い、規則に反した選手登録の取り消しを挙げ、これらを組み合わせることもできるとしています。委員会はクラブとリーグから処分を重くする事情と軽くする事情を聞いたうえで決めます。リーグの発表も、委員会には処分について広い裁量があると説明しています。
リーグ戦の順位については、シーズンを終えた時点で下位3クラブがイングランド・フットボールリーグ(EFL)へ降格すると規則のC.14が定めています。つまり勝ち点の剥奪は、剥奪の大きさと残りの試合の結果しだいで、降格につながる場合があります。
(参考)Premier League Handbook 2026/27(Rule W.64、C.14) – Premier League
大幅な勝ち点の剥奪や降格はまだ報道の見通し
英国の新聞は、大幅な勝ち点の剥奪や、その結果としての降格の可能性を報じています。これらは報道の見通しであり、2026年10月20日の時点でリーグは処分の内容を発表していません。処分の審理は非公開で、クラブの不服申し立ての審理も続いています。担当者が社内で説明するときは、確定した事実と見通しを分けて伝えることが大切です。
スポンサー企業は露出の場と契約の前提が変わる
スポンサー契約の多くは、クラブがどのリーグで戦い、どの大会に出るかを前提に金額や権利を決めています。降格すればプレミアリーグの試合での露出はなくなり、順位が下がれば出場できる大会も変わります。罰がクラブに科されても、スポンサー企業の看板やユニフォームの露出は同じ試合の場で続くため、評判の面で影響を受けることもあります。
そこで、契約書に所属リーグが変わったときの金額の見直しや、処分を受けたときの解除の条件が書かれているかを確かめておきます。降格がスポンサーにもたらす負担はスポーツスポンサーのデメリットで、契約書に入れておく項目はスポーツスポンサー契約の確認項目で詳しく説明しています。
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Q. マンチェスターシティは降格しますか?
降格するかどうかは決まっていません。リーグの規則には勝ち点の剥奪が処分の一つとして定められており、シーズンを終えた時点で下位3クラブに入ると降格します。大幅な勝ち点の剥奪や降格の可能性は英国の新聞が報じた見通しで、リーグは処分の内容を発表していません。
海外クラブとスポンサー契約を結ぶ日本企業が確かめる4つのこと
今回の認定は、クラブの側の違反です。ただ、契約の相手になる企業も、契約書の作り方やお金の流れしだいで、知らないうちに問題の当事者に近づくことがあります。海外クラブとスポンサー契約を結ぶ前に確かめたいことは次の4つです。
契約書の金額と実際に払う金額をそろえる
シティの件で問題になったのは、契約書のスポンサー料と、スポンサー企業が実際に払う額が違っていたことです。「残りは別の誰かが払う」「表に出す金額だけ大きくする」といった提案を受けたら、その場で断ります。契約書と別に覚え書きを交わす場合も、金額と支払う人が契約書と食い違っていないかを確かめます。
相手クラブのオーナーと自社のつながりを確かめる
自社や親会社が、相手クラブのオーナーと資本や経営でつながっていないかを確かめます。プレミアリーグの規則では、株式の5%を超える保有や、同じ政府や公的機関による支配もつながりに含まれます。つながりがあれば関連当事者との取引としてリーグの審査を受け、承認まではクラブが対価を受け取れないため、支払いと権利の開始の日程に余裕を持たせます。
金額の根拠を説明できる資料を残す
関連当事者との取引では、金額が公正な価値かどうかが問われます。リーグの規則は、似た取引との比較や、複数の企業が入札した結果などを、通常の取引条件であることの根拠として挙げています。自社が関連当事者に当たらない場合でも、ほかのスポンサー料と比べた資料や社内の稟議の記録を残しておけば、金額の妥当性を後から説明できます。
(参考)Premier League Handbook 2026/27(Rule A.1.22、E.50〜E.52) – Premier League
日本の親会社と球団の税務の扱いとは分けて考える
日本では、国税庁が1954年の通達で、親会社がプロ野球の子会社の球団に支出したお金のうち広告宣伝費の性質を持つものを損金に入れ、球団の赤字を埋めるための支出も一定の範囲で広告宣伝費として扱うと定めています。これは税金の計算の扱いで、プレミアリーグの財務規則とは目的も対象も違います。プレミアリーグでは、オーナー側のお金をスポンサー収入として見せることが違反と判断されました。
国内の親会社とクラブの関係に慣れた感覚のまま、海外クラブのオーナーの関連会社としてスポンサーになると、扱いの違いに気づきにくくなります。日本での会計処理の考え方はスポンサー料の勘定科目にまとめていますが、海外との契約は現地の規則と日本の税務の両方にかかわるので、契約の前に弁護士や税理士に確認してください。
(参考)職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について(昭和29年8月10日 直法1-147) – 国税庁
Q. 海外クラブのスポンサーになる企業は、この問題から何を学べばよいですか?
契約書に書いた金額と実際に払う金額を必ずそろえ、第三者が一部を負担する約束をしないことです。あわせて、自社や親会社が相手クラブのオーナーと資本や経営でつながっていないかを確かめます。つながりがある場合は、リーグが協賛金の水準を審査するので、その期間を見込んで契約の日程を組みます。
マンチェスターシティの財務違反と処分のまとめ
シティの件は、スポーツクラブの財務の透明性が、スポンサー企業にとっても契約判断の材料になることを示しています。クラブ経営の課題は日本でも議論されており、全体像は日本スポーツ業界の課題で整理しています。数値の出典は本文の各セクションに記載しています。
- 2026年9月29日、独立委員会は2009/10〜2017/18の9シーズンの財務規則の違反をすべて認め、調査への協力の違反は4つのうち3つを認めた
- 中心はスポンサー契約で、オーナーの資金をスポンサー収入に見せ、収入を8億3,000万ポンド超多く見せていたと認定された
- 「115件」はリーグの発表にない数字で、中身は5つの分類、合計32シーズン分で読める
- 処分は未定で、勝ち点の剥奪や降格は報道の見通しにとどまる。クラブの不服申し立ては10月2日にリーグが発表した
- 海外クラブとの契約では、契約書と支払いの一致、オーナーとのつながり、金額の根拠を確かめる
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