カスハラ対策の義務化|スポーツの警告・退場基準に学ぶ企業対応

カスハラ対策の義務化|スポーツの警告・退場基準に学ぶ企業対応 カスハラ対策のソリューションプラン ソリューション

電話口で2時間、同じ要求を繰り返される。「責任者を出せ」「謝罪文を書け」と言われ、担当者は席を立てない。上司に相談しても、返ってくるのは「なんとか収めてくれ」のひと言。ここまでが対応で、どこからは断ってよいのか。この線引きに、いま現場の誰が即答できるでしょうか。

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策は事業主の義務になりました。厚生労働省の令和5年度調査では、過去3年間に顧客等から著しい迷惑行為を受けた労働者が10.8%(2024年1月調査・8,000人)、相談があった企業が27.9%(2023年12月調査・有効回答7,780件)でした。同じ労働者調査で、勤務先の取組として「特にない」を選んだ人は71.1%で最多です。

義務化で求められる方針の明確化、相談体制の整備、あらかじめ定めた対処内容の周知は、方針を掲示するだけでは動きません。動かないのは、線引きを現場の個人の我慢と判断に任せているからです。

この線引きを、競技場は観客の迷惑行為への対応として段階で定め、あらかじめ告知しています。本記事では、この「段階対応」を企業の窓口や店舗に移し、現場に判断を背負わせない対応基準をつくるプランを提案します。

(参考)事業主が講ずべきハラスメント対策(パンフレット) – 厚生労働省・都道府県労働局

(参考)令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版) – 厚生労働省

  1. プランの概要|カスハラ対応を「警告から退場まで」の段階で決め現場の判断を会社が引き取る
  2. 課題解決の流れ|義務化は始まったが線引きの決まっていない現場に判断が集中している
    1. 現状の課題|窓口の担当者が「我慢の限界」を一人で決めている
    2. 問題の要因|「どこから断るか」の線が会社として書かれていない
    3. 解決策|スポーツの「事前公開・段階・判断者の分離」を窓口の基準に移す
  3. 現場に判断を背負わせない競技場の段階対応がマニュアル配布と違う3つの理由
    1. 理由1|禁止行為と段階を先に公開するので現場は「個人の判断」でなく「規程の執行」になる
    2. 理由2|最終判断を現場から切り離すので担当者の責任の重さが変わる
    3. 理由3|提供主体の強み|スポーツ運営の現場の一次情報と企業の相談体制・規程の設計の両方に日常的に接している
  4. プランの具体的な内容|禁止行為の公開・4段階の対応・判断者の分離を3点セットで決める
    1. 仕組み1|禁止行為の事前公開|何が「超えた行為」かを顧客にも従業員にも示す
    2. 仕組み2|4段階の対応と判断者の分離|第3段階以降は本部が決める
    3. 仕組み3|記録とケア|対応のたびに残し担当者の回復も決めておく
  5. 導入ロードマップ|基準の設計・試行・月次の見直しという3フェーズで12ヶ月かけて定着させる
    1. 0〜3ヶ月|検証|過去の事案を棚卸しして禁止行為と4段階の案をつくる
    2. 3〜6ヶ月|標準化|2〜3拠点で試行して判断者への連絡経路をそろえる
    3. 6〜12ヶ月|月額運用への移行|全拠点へ展開して月次の事例レビューで基準を更新する
  6. 効果の経路とKPI・リスク|連絡の早さと記録の厚みで基準が回っているかを測る
    1. 効果が効いてくる経路|基準の公開から現場の安心と離職の抑制へ
    2. KPIの設計|フェーズごとに見る指標を決める(仮説としての目安)
    3. リスクと対応策|過剰な打切りと形骸化を先回りして防ぐ
    4. 続行・撤退の判断基準|どの数値で見直すかを事前に決めておく
  7. 料金モデルという選択肢|基準づくりは固定費で判断の伴走は月額・件数連動は置かない
    1. 買い切り型の限界|基準書を納めた日から現実の事案とのずれが始まる
    2. 新モデルの仕組み|設計は固定で判断の伴走は月額・件数連動の報酬は置かない
    3. 導入時の注意点|月額の範囲と法的判断を専門家に回す線を契約前に決める
  8. 対象となる組織・読者|窓口の形で3タイプに分けて考える
    1. タイプ1|店舗・施設を多拠点で運営する事業責任者
    2. タイプ2|問い合わせ窓口を持つ人事・総務の担当者
    3. タイプ3|会員・利用者と日常的に接するスポーツクラブやスクールの経営者
  9. 期待できる効果|現場・管理職・経営の3つの変化
    1. 現場の変化|「自分が悪いのか」と悩む時間が減る
    2. 管理職・人事の変化|相談を受けたとき同じ物差しで判断できる
    3. 経営の変化|義務化への対応を記録で説明できる
  10. まとめ|線引きを先に決めて現場を一人にしない

プランの概要|カスハラ対応を「警告から退場まで」の段階で決め現場の判断を会社が引き取る

カスハラ対策の義務化に備える段階対応基準|スタジアムの運営ルールと企業の窓口・店舗の重なり

図の左は、競技場が運営ルールとして実際に行っていること、右は多くの窓口や店舗で起きていることです。重なる部分に置くのが、本プランの「段階対応基準」です。禁止行為を事前に公開し、警告から退場までの段階を決め、最終判断を現場から切り離します。

  • 対象:顧客・取引先・利用者と直接やりとりする窓口、店舗、施設を持ち、カスハラ対策の義務化への対応を進めたい従業員30名以上の企業の経営者・人事担当・事業責任者
  • 課題:打切りや退去要請の線引きが決まっておらず、対応が担当者個人の判断と我慢に任されている
  • 導入期間(目安):基準の設計と試行に約3ヶ月、全拠点への展開と見直しの定着まで含めて約12ヶ月

本プランは、顧客への対応を厳しくするものではありません。正当な苦情には誠実に応じ続けたうえで、「ここから先は応じられない」という線を会社として先に書き、段階の進め方と判断者を決める設計です。個別の事案が法的にどう評価されるかは、弁護士や労働局など専門家の確認が前提になります。

課題解決の流れ|義務化は始まったが線引きの決まっていない現場に判断が集中している

まず、厚生労働省の調査結果を表で整理します。迷惑行為を受ける人が一定数いること、そして会社の取組が現場に届いていない実態が読み取れます。

カスハラの被害経験と企業の取組状況(令和5年度調査)
項目 結果 対象・補足
過去3年間に顧客等から著しい迷惑行為を受けた労働者 10.8% 労働者調査(一般サンプル、2024年1月実施、8,000人)
過去3年間にカスハラの相談があった企業 27.9% 企業調査(2023年12月実施、有効回答7,780件)
勤務先の取組が「特にない」と答えた労働者 71.1% 労働者調査、取組の内容を尋ねた設問で最多
カスハラ固有の取組が「特にない」企業 55.8% 企業調査、取組の内容を尋ねた設問で最多

出典:厚生労働省 令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」(2024年3月公表)をもとに作成

企業側の相談経験は27.9%と、約3.6社に1社の割合です(本記事の計算値)。一方で、労働者の7割超が会社の取組を感じていません。相談は起きているのに、対応の線引きが現場に届いていない状態が、義務化の前から続いてきたことになります。

現状の課題|窓口の担当者が「我慢の限界」を一人で決めている

  • 【終わらない対応】要求が繰り返されても切り上げてよい時点が分からず、対応が長時間に及ぶ
  • 【上司の「収めて」】相談しても具体的な指示がなく、担当者が個別に判断を背負う
  • 【現場の疲弊】対応後の記録や気持ちの整理が個人任せになり、担当を外れたい、辞めたいという声につながる

問題の要因|「どこから断るか」の線が会社として書かれていない

  • 【禁止行為が未公開】何が許されない行為かを、顧客にも従業員にも示していない
  • 【段階がない】注意、警告、打切りの順序がなく、対応は「続ける」か「怒らせる」かの二択になる
  • 【判断者が不在】打切りを誰が決めるかが決まっておらず、結局は現場の担当者が決めることになる

解決策|スポーツの「事前公開・段階・判断者の分離」を窓口の基準に移す

  • 【禁止行為の事前公開】競技場が管理規程で禁止行為を示すように、許されない行為を顧客と従業員の双方に先に示す
  • 【4段階の対応】注意、警告、対応の打切り、出入り禁止や外部への相談の順に進め、各段階で言うことを決める
  • 【判断者の分離】打切り以降は現場でなく本部の判断者が決め、記録を残す

この3点を運用に落とす具体策は、後述の「プランの具体的な内容」で示します。

Q. カスハラ対策の義務化で、企業は何をしなければなりませんか?

方針の明確化と周知、相談体制の整備、対応の実効性を確保する措置などが求められます。2026年10月1日に施行され、厚生労働省はあらかじめ定めた対処内容を従業員に周知することも挙げています。

現場に判断を背負わせない競技場の段階対応がマニュアル配布と違う3つの理由

競技場では、係員が一人の判断で観客を追い出しているわけではありません。規程が公開され、段階が決まり、最終判断は運営側が行います。この構造が、配るだけで終わるマニュアルとの違いです。

理由1|禁止行為と段階を先に公開するので現場は「個人の判断」でなく「規程の執行」になる

FC東京が2026年8月14日に出した観戦マナーの案内では、管理規程で定める禁止行為やセキュリティ上問題となる行為が対象とされ、退場や入場禁止の処分に従う場合があると示されています。差別・誹謗中傷にあたる掲示や行為については、掲示物の撤去、行為者への警告、止めない場合の退場、その後の試合での入場禁止という順が書かれています。

係員は自分の感情で追い出すのではなく、公開された規程に沿って段階を進めます。窓口でも同じ構造をつくれば、担当者は「私が許さない」ではなく「当社の基準で、次の段階に進みます」と言えます。

(参考)ホーム観戦マナーのご案内(2026年8月21日千葉戦) – FC東京

理由2|最終判断を現場から切り離すので担当者の責任の重さが変わる

同じ案内には、どの行為が規程に抵触するかは、Jリーグまたは各クラブが最終的に判断すると書かれています。現場の係員は規程を示して警告し、処分の最終判断は運営側が持つという分担です。

企業の窓口では、打切り、退去の要請、出入り禁止を、現場の担当者ではなく本部の判断者が承認します。判断者を置くのは現場を信用しないからではなく、担当者が一人で背負う重さを下げ、拠点ごとの判断のばらつきをなくすためです。審判のルール設計を部門間の対立に応用した考え方とも、「判断の主体を決めておく」という点で通じます。

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理由3|提供主体の強み|スポーツ運営の現場の一次情報と企業の相談体制・規程の設計の両方に日常的に接している

競技場の段階対応を企業に移すには、観客対応がどの順序で、誰の判断で進むのかという現場の一次情報が欠かせません。同時に、企業側の相談窓口、就業規則、拠点ごとの権限といった仕組みにも手を入れなければ、基準は紙のまま終わります。

スポーツ運営の現場と、企業の組織・規程の設計の両方に日常的に接している主体であれば、競技の比喩にとどまらず、自社の窓口で動く形に落とした提案ができます。この二つがそろっていることが、本プランを実行できる裏付けです。

プランの具体的な内容|禁止行為の公開・4段階の対応・判断者の分離を3点セットで決める

カスハラ対応の4段階|注意・警告・対応の打切り・出入り禁止や外部相談の段階対応基準

対応は、注意から始めて警告、対応の打切り、出入り禁止や外部相談へと4段階で上がります。上の段ほど判断者が決め、現場の担当者は第1・第2段階までを実施します。次の3つを組み合わせて運用します。

仕組み1|禁止行為の事前公開|何が「超えた行為」かを顧客にも従業員にも示す

長時間の拘束、暴言や威圧、特定の従業員への執拗な要求、撮影やSNS投稿をほのめかす脅しなど、自社の業務で起きやすい行為を禁止行為として具体的に書き出します(設計例。実際の項目は過去の事案から決めます)。正当な苦情と迷惑行為を分ける線も、あわせて文章にします。

書いた基準は、掲示、ウェブサイト、申込書の注意書きで顧客に示し、従業員には同じ文面を周知します。拠点ごとに文面が違うと線引きがばらつくため、多店舗の品質ばらつきを防ぐライセンス基準設計のように、全拠点で同じ基準をそろえる考え方が役立ちます。

仕組み2|4段階の対応と判断者の分離|第3段階以降は本部が決める

第1段階の「注意」では、行為を具体的に指摘して通常の対応を続けます。第2段階の「警告」では、続けば対応を打ち切ると告げます。第3段階の「対応の打切り」と第4段階の「出入り禁止や外部相談」は、本部の判断者が承認してから実行します。

段階を進める目安は、時間や回数で決めておくと現場が迷いません。たとえば「同じ要求が30分続いたら警告、さらに30分で判断者へ連絡」といった形です(設計例。拠点の業務で調整します)。目安に達する前でも、暴力や脅迫があれば段階を飛ばして外部に相談できると明記します。

仕組み3|記録とケア|対応のたびに残し担当者の回復も決めておく

対応のたびに、日時、行為の内容、どの段階まで進んだか、誰が判断したかを同じ書式で記録します。記録は事後の再発防止と、顧客から異議が出たときの説明の根拠になります。担当者のケアとして、対応後の面談と担当の交代も手順に含めます。

相談を受ける窓口の設計は、スポーツ団体式の内部通報運用の考え方と重なります。記録を取る担当者が責められない設計にしておくことが、記録が続く条件です。

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Q. カスハラ対応を打ち切る基準は、何から決めればよいですか?

まず自社で起きやすい禁止行為の例と、警告までの目安時間を決めます。そのうえで、打切りを誰が承認するかを一人に決め、暴力や脅迫があれば段階を飛ばして外部に相談できると明記します。

導入ロードマップ|基準の設計・試行・月次の見直しという3フェーズで12ヶ月かけて定着させる

順番を守る理由は、設計を先に全拠点へ広げると、現場の実態に合わない線引きが固定されてしまうためです。まず小さく試し、使える形にそろえてから、見直しの仕組みを月額の運用に移します。

0〜3ヶ月|検証|過去の事案を棚卸しして禁止行為と4段階の案をつくる

過去1年ほどの苦情や相談を集め、迷惑行為にあたる事案を種類別に分けます。そこから禁止行為の案と4段階の進め方をつくり、判断者の候補を決めます。ベースラインとして、判断に迷った事案の数と、対応後に担当者が休んだ日数を把握します。この段階では報酬を成果に連動させず、棚卸しの精度を上げることに集中します。

3〜6ヶ月|標準化|2〜3拠点で試行して判断者への連絡経路をそろえる

対象を2〜3拠点に絞って基準を運用し、現場が迷った場面を集めます。判断者への連絡手段、記録の書式、顧客への掲示文を拠点間でそろえ、実態に合わない項目を直します。

6〜12ヶ月|月額運用への移行|全拠点へ展開して月次の事例レビューで基準を更新する

標準化した基準を全拠点へ広げ、月に1回、打切りや警告に至った事案を判断者と一緒に点検します。基準の更新を月額の伴走に移し、12ヶ月の終わりには社内だけで見直しが回る状態を目指します。

効果の経路とKPI・リスク|連絡の早さと記録の厚みで基準が回っているかを測る

効果が出る道筋、確認する指標、起きやすいリスク、そして見直しの条件を、一続きで設計します。

効果が効いてくる経路|基準の公開から現場の安心と離職の抑制へ

禁止行為と段階が示されると、担当者は警告の言葉を迷わず出せます。判断者へ早く連絡できれば、対応の長時間化が減り、担当者の疲弊が下がります。この連鎖の先に、担当者の離職の抑制と、顧客対応の質の安定があります。

効果が出るのは基準を掲示した日ではなく、現場が段階を使い始め、記録が積み重なってからです。早い拠点でも、数字に表れるまで数ヶ月はかかります。

KPIの設計|フェーズごとに見る指標を決める(仮説としての目安)

指標は、基準が使われているかという行動から、成果の変化へと順に見ます。自社のベースラインの把握が前提であり、下の数値は仮説です。

フェーズごとのKPIと目安(仮説)
フェーズ 見る指標 目安
0〜3ヶ月 禁止行為の事前公開を終えた拠点の割合 試行拠点で100%
3〜6ヶ月 迷った事案を当日中に判断者へ連絡できた割合/記録の記入率 8割以上/9割以上
6〜12ヶ月 対応後に担当者が休んだ日数/担当者の対応への自信(アンケート) ベースライン比で減少/改善

出典:Human Soar作成(目安は仮説。導入前の実測値を基準に再設定する)

最も重視するのは、迷った事案を当日中に判断者へ連絡できた割合です。ここが低ければ、基準が現場に届いていないか、連絡経路が重すぎます。成果の指標は、この行動の指標が安定してから評価してください。

リスクと対応策|過剰な打切りと形骸化を先回りして防ぐ

段階対応で起きやすいのは、正当な苦情まで断ってしまう過剰な運用と、基準が掲示だけで終わる形骸化です。対応を表にします。

導入時に起きやすいリスクと対応策
リスク 起きやすい場面 対応策
正当な苦情まで打ち切る 基準が現場に厳しく受け取られる 正当な苦情と迷惑行為の線を文章にし、打切りは判断者の承認制にする
基準が形骸化する 掲示のみで運用が続く 月次で打切り・警告の事案を点検し、使われない項目を見直す
顧客の反発が広がる 警告や出入り禁止の後 基準を事前に公開し、記録をもとに一貫した説明をする

出典:Human Soar作成(導入時に想定されるリスクの整理)

とくに過剰な打切りは、会社の信頼に直結します。打切り以降を判断者の承認制にするのは、現場を守ると同時に、顧客に対して一貫した対応を保つためでもあります。月次の点検では、打切りの件数そのものでなく、打切りの理由が基準に沿っていたかを確認してください。

続行・撤退の判断基準|どの数値で見直すかを事前に決めておく

6ヶ月経っても、迷った事案を当日中に判断者へ連絡できた割合が5割に届かない場合は、連絡経路か判断者の配置を見直します。12ヶ月でも記録の記入率が7割に達しない場合は、対象拠点を絞って再設計するか、支援を終了します。基準を先に決めておくのは、新規事業の撤退基準と同じく、リスクを制御できる設計力の表れです。

料金モデルという選択肢|基準づくりは固定費で判断の伴走は月額・件数連動は置かない

カスハラ対応基準の月額伴走|事案の記録・月次の点検・基準の改定・現場への周知の循環

図の4つは、月額の伴走が毎月回す作業です。事案を同じ書式で記録し、月次で判断を点検し、基準を改定し、現場へ周知します。基準を一度つくって終わりにせず、現実の事案に合わせて磨き続ける仕組みに、継続的な課金モデルが合います。

買い切り型の限界|基準書を納めた日から現実の事案とのずれが始まる

固定報酬の買い切り型は、基準書と対応フローの納品で支援が終わります。しかしカスハラは、顧客の行為も法制度の運用も変わり続けます。納めた日が最も新しく、翌月から実態とのずれが広がる点が、買い切り型の限界です。

新モデルの仕組み|設計は固定で判断の伴走は月額・件数連動の報酬は置かない

初期の基準づくりは固定費とし、運用期間は月額の提携にします。月額には、判断に迷った事案の相談、月次の事例レビュー、基準の改定を含めます。導入側は費用を予測でき、提供側は継続して改善に関わる動機を持てます。

打切りの件数に応じた成果報酬は置きません。件数に連動させると、対応を打ち切るほうへ判断が傾くおそれがあるためです。評価は、連絡の早さや記録の記入率といった運用の指標で行います。

導入時の注意点|月額の範囲と法的判断を専門家に回す線を契約前に決める

月額の相談範囲が曖昧だと、期待のずれが生じます。相談の回数や対応時間、法的な評価が必要な事案は弁護士へつなぐ線を、契約前に文書で合意します。最初の3ヶ月は固定費で基準づくりに集中し、運用の見通しが立ってから月額へ切り替える段階移行が現実的です。

Q. カスハラ対応の支援で、打切りの件数に応じた成果報酬にしないのはなぜですか?

件数に連動させると、対応を打ち切る方向に判断が傾くおそれがあるためです。評価は、迷った事案を当日中に判断者へ連絡できた割合や、記録の記入率など、運用の質を示す指標で行います。

対象となる組織・読者|窓口の形で3タイプに分けて考える

本プランが効きやすいのは、顧客や利用者と直接向き合う窓口の形が違っても、「どこで対応を切るか」を担当者が一人で決めている組織です。次の3タイプで考えます。

タイプ1|店舗・施設を多拠点で運営する事業責任者

拠点ごとに対応がばらつき、同じ行為でも店長によって応じ方が違う組織です。全拠点で同じ禁止行為と段階をそろえ、判断者を本部に置くことで、拠点間の不公平と店長の負担を同時に減らせます。

タイプ2|問い合わせ窓口を持つ人事・総務の担当者

義務化を受けて方針や相談窓口は整えたものの、現場が実際にどこで対応を打ち切ってよいかまでは決まっていない状況です。基準書と記録の書式があれば、相談を受けたときに同じ物差しで判断できます。

タイプ3|会員・利用者と日常的に接するスポーツクラブやスクールの経営者

会員との関係が長く、強い要求にも断りづらい施設です。会員規約や館内の掲示に禁止行為と段階を示しておけば、指導者やフロントスタッフが個人として断る場面を減らせます。

期待できる効果|現場・管理職・経営の3つの変化

段階対応基準は、顧客への対応を変えるだけでなく、社内の判断の仕方を変えます。変化は現場、管理職と人事、経営の3つの層に表れます。

現場の変化|「自分が悪いのか」と悩む時間が減る

線引きが書かれていると、担当者は対応の良し悪しを自分の力量の問題として抱え込まずに済みます。警告の言葉が決まっていることで、対応の迷いが減り、離職の抑制にもつながります。

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管理職・人事の変化|相談を受けたとき同じ物差しで判断できる

相談が来ても、場当たり的に「もう少し頑張って」と返さずに済みます。段階と目安が共有されていれば、管理職は担当者の疲弊に早く気づけます。管理職のバーンアウト予防の観点からも、判断を一人に抱えさせない設計は有効です。

経営の変化|義務化への対応を記録で説明できる

方針、相談体制、対処内容の周知、事案の記録がそろうと、義務化への対応状況を社内外に説明しやすくなります。記録は、基準を直す根拠にもなります。

Q. カスハラ対応の基準づくりは、いつ相談すればよいですか?

現場で「どこまで対応すべきか」という疑問が出た時点が目安です。義務化後は、方針と対処内容を決めて周知する段階から、基準の設計と試行に進めます。個別の法的判断は、弁護士など専門家にも確認してください。

まとめ|線引きを先に決めて現場を一人にしない

  • カスハラ対策は2026年10月1日から義務化され、労働者の71.1%が勤務先の取組を「特にない」と答えている
  • 競技場は、禁止行為を管理規程で示し、警告、退場、入場禁止の順で段階対応している
  • 企業の窓口でも、禁止行為の事前公開、4段階の対応、判断者の分離の3点セットで線引きを決める
  • 12ヶ月かけて検証、標準化、月次の見直しへ進み、連絡の早さと記録の記入率を測る
  • 料金は基準づくりを固定費、判断の伴走を月額にし、件数連動の成果報酬は置かない

「うちの窓口は、どこまでが対応で、どこからが打切りなのか」という疑問が浮かんだ時点が、相談のタイミングです。

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About The New株式会社 代表取締役 森永 昂
執筆者
About The New株式会社 代表取締役 森永 昂

新卒で東証プライム上場の社会人教育・コンサルティング企業に入社し、人材育成・組織開発に従事。その後、別企業でメディア・プラットフォーム事業の責任者を務める。

2025年5月に About The New株式会社 を設立。スポーツの現場で培われた知見を組織開発・人材育成の文脈に翻訳し、研修・チームビルディング・イベントの企画運営を行っています。

「知識を得る」で終わらせず「行動が変わる」ところまでを設計することを大切にしています。ご相談は contact@aboutthenew.co.jp まで。

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